旅の記憶
昨年の夏のこと。
ひとりでヨーロッパを旅行した。海外を1人きりで訪ねるのはこれがはじめてだった。
パリに数日間滞在したあと、ブリュッセル、ブルージュ(どちらもベルギーの都市)そしてロンドンを巡り、またパリに戻ってくる行程だった。
絵画を見れるだけ見たり、歴史の舞台となった場所にわくわくしたり、あきらかにアジアとは異なる街並みに「遠くまできたんだな〜」と感慨深くなったり。
幸運なことに、心配していた人種差別的な眼差しや治安の悪さを感じることなく、ただただ楽しい時間を過ごせた。
そんな旅の中で、最も自分の心を激しく動かしたのは、華やかな都市部ではなく、フランスからベルギーに移動する高速鉄道の車窓から見える風景だった。
広々とした農地の中にときどき集落が見えて、その真ん中に教会らしき建物がある。そんな風景を眺めていると涙がとまらなくなってしまった。
この景色こそがフランスという国の本質のような気がして、顔も知らない人々の日々の営みが無性に愛おしくなった。
旅の感想を伝え合う相手がいないと、自分のその時の感情ととことん向き合うことになる。一人旅の緊張もあって、いつもよりも涙脆くなっていたのだと思う。
あの時の自分の気持ちごと愛おしくて、なるべく鮮やかに覚えておきたい記憶だ。
そんな少しの感傷を引きずりながら散策をしたブリュッセルで特に気に入った教会があった。
数日の滞在中、毎日訪ねた。
観光地というよりも、地元の人たちがささやかに祈りを捧げているような空気がその時の気分にぴったりだった。なるべく邪魔にならないように端っこの席に腰をかけて、小一時間くらいぼーっとしていた。
ブリュッセルを離れる日も街を歩きながら涙がとまらなくなってしまった。あの時の私は寂しかったのだろうか。上手く言い表せない感情だった。
ひとりだったから、遠くまで行ったから味わえた感覚で、とても恋しい。だから私はまた旅に出たい。
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