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パフェに人生があるんか~? の話


ちょっとした節目を感じた時、わたしはよくパフェを食べに行くんです。
なぜ「節目にパフェ」なのかには、特別で不思議な理由があるんですよ。


あの、背が高い透明なガラスでできているパフェグラス。
そこに下から順に数々の甘くておいしい物が、詰められて積まれて段々高くなっていって。最後の方では、グラスの上にはみ出さんばかりにメインのフルーツやアイスが乗っかって、てっぺんにはこれでもかとばかりにホイップが絞り出されます。

こういうパフェを横から眺めていると、グラス越しに見える、その地層のように積もるスイーツたちが、なんだか自分が生きて来た時代を写し取っているようで、人生を感じてしまうんです。 (笑っていいですよ)

では、実際に食べていきましょう。
今日の「季節のパフェ」は(桃)でした。
いつもパフェを食べに行くこのお店では、シーズンごとにアレンジした「季節のパフェ」が一番人気。これから秋になると、栗や芋がアレンジされたりします。

夏の味覚・桃のパフェは、グラスの上に完熟の桃が4切れ。どれも皮付きのまま食べれる程に甘くて上等なものです。
パクリと口に入れると、まあ、なんと甘くて柔らかい!
口いっぱいに甘さが広がった時、つい先日お迎えしたお盆の御先祖様たちのことが心をよぎりました。(ご先祖様たちにも、こんな豪華なパフェを味わってもらいたかったなぁ)
仏様たち、まだそこいらにいらっしゃいますよね。さあさあ、わたしの味覚を乗っ取っていいですから、どうぞどうぞ味わってください~~
今は亡き親しい方々といっしょに桃を味わいました。

さて、桃の上には、真っ白なホイップクリームが絞り出されて塔みたい。そのてっぺんにミントの葉が1枚アクセント。
桃もいいけど、こっちを先にいただかないと崩れるぞ。
スプーンでミントのあたりをさっくりと掬って口に運びました。
甘さを抑えたホイップなので、2口3口続けて食べてしまいます。

そういえばひと頃は、子ども達の誕生日にホイップクリームで真っ白にデコレ―ションしたケーキを作って、よく誕生会をやったものです。
お友だちを呼んだり、呼ばれたりして。みんな小さくて可愛かったなぁ。笑


さて、桃がまだ残っているけど、その横のソルベ(白桃のシャーベット)も気になるので、つっついてみよう。
冷え冷えで程よい固さのソルベは、フォークで割いて口に運びます。
しゃりっと爽やかな、桃の果汁タップリのソルベ。この味で、なぜか山梨県のドライブインに心がとびました。

昔々、仕事仲間たちと慰安のために催した旅行で立ち寄ったのでした。そこにもご当地のシャーベットのようなものがあって(桃)味でした。
上司が数名分まとめて買ってくれたのですが、口にしてもただ甘ったるいだけでちっとも美味しくなかったんです。
その上司がキライだったんですね~。笑
当時には珍しく女性の上司だったんですが、あの頃まだ経験が浅かったわたしを、無理やり責任者のポストに乗っけて、しごくわしごくわ。
おおぜいの前で「役立たず~ッ!」と叫んで、よく叱責されました。
(これは、わたしに目を掛けてくれて教育しているんだ)
何年も必死にこらえたのですが、やがてわたしの心は潰れてしまって、結局その仕事を辞めてしまいました…



桃のソルベを味わい尽くして、お次は北海道のミルクソフトです。
キンキンに冷えて固まり気味のミルクソフトを、スプーンでひと匙口に運ぶと、舌の上でミルキーな塊がとろりと溶けて広がります。
この甘さは、今ほしかったヤツだ!
真っ白なミルクソフトをスプーンですくっていると、子どものころ飼っていた真っ白な秋田犬のリキの顔が浮かびました。
わたしが小さい頃から一緒に育ったリキ。大きな秋田犬でしたけど可愛くて、散歩に出ると途中で意味もなくおんぶしてあげていました。
お姉さん気分だったんです。笑  (犬も迷惑だったでしょうね)
わたしが中学生だったある日、学校から帰ると犬小屋にリキの姿がありません。
母に聞くと、リキは死んだと言うのです。
近所の子どもを噛んだので、母がリキを保健所に連れて行って刹処分にしたのでした。
でもリキは悪くない、大人しい犬でした。
その子どもは近所のいたずらっ子で、時々うちの庭に入っては、長い棒でリキをつついて苛めていた。この前もそれで、リキは目に怪我をしたのです。
おそらくその子は、鎖が届く間合いを見誤って近づきすぎて、リキの報復を受けたのでしょう。
その子は噛まれて気の毒でしたが、リキは殺されてまでして償わなければならなかったのでしょうか。
大人の事情やご近所の手前もあったのかも知れませんが、わたしは母を恨みました。
白いミルクソフトが少し滲みます。


しんみりしていたら、コーンフレークの層が出て来ちゃいました。
甘さに酔うわたしたちを現実に引き戻すコーンフレーク。
「なんでこんな物がパフェに入ってるの?上げ底だわ!」
若い女子は口を揃えて言いますが、わたし程のトシになると、こういう「箸休め」のようなものは、パフェにも人生にも必要だなぁ…なんて思ったりします。(そう思いませんか?)
溶けたアイスやソルベを絡めながら、コーンフレークをサクサク食べるのも、またいいもんなんです。



コーンフレークの下には白桃ゼリーが待っていました。
うっすら桃色がかった砕きゼリーは、透明でみずみずしくて涼しげ。スプーンの上でつやッと光っています。
口に運ぶと、トゥルンと喉に落ちていき、後味がとっても爽やか。
透明なゼリーを見ていたら、子どもの頃に海水浴に行ったのを思い出しました。海もよかったのですが、帰りにレトロな食堂で食べた冷やし中華が、これまたおいしかったぁーー!
昔のことなので、もしかしたら人生初の冷やし中華だったかも知れません。


さあ、パフェもだいぶ底の方に掘り進んで、あとは溶けたアイスにまみれたアロエが残っているだけです。
長いスプーンを使って、底の方からアロエを掬い取ります。
身の厚いアロエは、甘いアイス汁にまみれていてもほろ苦く、噛むと口の中にちょっと複雑な味が広がります。

アロエの苦さのせいでしょうか、幼い頃見上げた、知らない町の夜空がすっと浮かびました。
わたしはまだ幼稚園児で、母に手を引かれて歩いています。
「お父さんに、うちに帰って来てって、呼びに行こうね。」
しばらく父の顔が見れなくて淋しかったわたしは、胸を躍らせて歩きました。
辿り着いた場所は二階建てのアパートで、その二階へつながる鉄の階段をカンカーンと夜空に響かせながら、上がって行きました。
入れてもらった父の部屋は、食器戸棚やちゃぶ台などがちゃんと揃っていて、その食器戸棚の中には、お茶碗や湯飲み、お皿なんかがきちんと2つずつ並んでいました。
わたしは父が一人暮らしをしていると思っていましたので、その食器に少し不思議な思いを抱きました。けれども幼稚園児ですから、それ以上の考えは何もありません。
父の住まいに興味津々のわたしは、ふすまの向こうに、もう一部屋あるのを感じて、そっちに行こうとしました。
「そこを開けちゃダメ!!」
父が大きな声を出して、わたしを抱き押さえました。
わたしはおとなしく諦めて、ちゃぶ台の前に座り直し、しばらくの間、出された麦茶を飲んだりしていました。

襖の向こうには、父の愛人がいたんですね。
そのまま、父が帰って来ることはありませんでした。



「パフェって、罪なスイーツだわぁ~!」
地層のように積もる自分の人生を、部分的に切り取り出して、魔法のランプのように見せてくれる不思議なパフェ。
日々の忙しさの中で忘れがちな過去ですが、どんな過去でも、その実りとして今があるんですね。笑



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