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9話:志賀高原で池めぐりトレッキング

「日本の旅と風景印の物語」をテーマに、日本各地の旅紀行を綴っていきたいと思っています。
9話目は、先週のお話になります。どうぞお読みください。




連日の猛暑から脱出して、涼しい散歩を楽しみたいものだなぁ。それには、標高が高い場所へ行くしかないか!

そう思って決めたのが「志賀高原」。そこは標高1800メートル前後の高原に数々のトレッキングコースが巡らされている場所だった。



自宅からの距離は片道約260kmで、クルマでの所要時間は4時間少々。途中休憩を挟んで5時間と見積もり、朝4時に出発した。

夜明け前の高速道路を走る。
関越自動車道の渋川伊香保インターが経由地だ。


高速道路上で今日の御来光。
天気予報は、あまり芳しくないのだが、なんとなく今日1日がいい日になるような気になった。(さて、どうだか)

渋川伊香保インターを出てからは、一般道で山へ向かう。
通り掛かりのコンビニの上に虹が架かっていたのには気分があがった。
この先の交差点を左折したのだが‥‥

おわかりだろうか

まさに、この虹の橋をくぐって山に向かって進んで行く。
吉兆としかいえない景色で、何もしてない段階なのに胸がいっぱいになってしまった。


国道292号線をさらに走り、途中、草津温泉街~白根山の噴火警戒エリア(窓開け禁止・停車禁止)を通過する。
標高はどんどん上昇していき、それに伴い気温はぐんぐん下降して20℃近くになった。

この一本道が「志賀高原」まで繋がっていて、そこへ行く手前で横手山を越えるのだが、そこには日本国道最高地点碑がある(標高2172メートル)
どんな景色が見られるのだろうか!





ああッ?!


‥‥山の上は濃霧に包まれて何も見えなかった。
この先さらに霧が濃くなって、国道最高地点の碑も見落とす程の事態に。
フォグランプを点けて減速、注意深く運転して、ようやくトレッキングコースふもとの駐車場に辿りついた。
しかし、ミルクのなかにいるような状況で、これから山に入るなんて考えられない。いやもう、クルマのドアを開けるのもためらわれる程の濃霧にまかれた‥‥
(あの虹は、夢のように消えた)

仕方なく、1時間ほど車内で様子を見ていた。
ここでは、スマホでインターネットにも繋がらない。noteを始めとした色々なサイトにアクセスしようとしても「データが取得できませんでした」というメッセージが出るだけだった。
外出先でよく使うGooglenaviも、現在地を示す印は出ているものの、ルート検索は機能しなかった。

そうこうするうち、時間と共に少しだけ霧が晴れて来たようだ。
ダメなら引き返せばいいと決めて、雨用のヤッケを着込んでクルマから出てみた。

現在地は熊の湯駐車場。
そこから渋池・四十八池を通りながら大沼池を目指す「池めぐりコース」を歩く予定だ。所要時間は5時間30分とあって、休憩時間を含めて7時間以上と見立てた。
現在時刻はもう9時を回っていた。

霧にまかれて、車内で1時間以上ロスしてしまった。
その分を取り返すために、はじめの登山道はよしてサマーリフトに乗っちゃおう🎵

5分ほどで標高1800メートルへ。
霧で幽玄な感じになってる夏山は、ひんやり感がアップする。
景色はよくわからないものの、それが逆に神秘的な雰囲気をかもすトレッキングコースを、迷わないよう注意しながら歩き始める。
クマ除けの鈴もここで各自つけた。(例のクマ撃退スプレーも装着)


最初に現れたのは渋池。だが、霧で何も見えない。
ここには浮島がたくさんあって、そこに食虫植物のモウセンゴケが生えているという話だったが。
池のほとりを歩いていたら、握り拳くらいの大きなガマガエルがよたよたと歩いていた。


相変わらず濃霧の道を、次は四十八池を目指して歩く。
霧に閉ざされた林は、音も無く風も吹かず、とても静かなものだ。
静謐な山の気配を、体いっぱいに感じる。


このあたりは、木道が整備されていて歩きやすい。
ふと、足元をレモンくらいの大きさのもふもふしたものが、ころころと転がって行く。
よく見ると、何かの野鳥のひな鳥のようで、それが一生懸命に地面を走っていたのだ。つい、追いかけてしまったら、ひな鳥は道なりにしばらく走った後、左の藪の中に飛び込んで、消えた。



山道の傍には、クマに知らせるための大きなベルが設置されていた。
さっそく握りを手に取って、大きな音をカーンカーンカーンと鳴らす。
これでもかと、たくさん鳴らしてから先に進む。こういうベルが、大沼池に辿り着くまでの間に7か所ほどあった。



霧の中を進んで行くと、木立ちの向こうに四十八池がうっすらと見えて来た。



四十八池に到着。
木道の先は霧で見通せないが、まあ晴れの日の絶景ならばネットやガイドブックでいくらでも見れるから、こういうのも貴重な体験。また霧に閉ざされるというのも、なかなか心地いいもので、何故か林野や湿原の生命感を、近く強く感じられたものだ。
山の神様も、どこかで見ているのだろうか?笑



すこしだけ霧が晴れて、四十八池の様子を見ることが出来た。
魚や鳥などの、生き物の姿は見られない。
クロサンショウウオやモリアオガエルが生息していて、数種のトンボも見られるという話だったが。
ひたすら神秘だ。



四十八池を抜けて木道を歩くうちに、霧が一時的に晴れてきた。
視界が良好になって、すこし明るくなった。



正午にはまだ少し早かったが、ちょうどいい場所があったので、このあたりで昼ご飯を食べておく。
気温は18~19℃と、とても冷涼。
ここまで2時間以上歩いて来たが、おかげで全く疲れを感じなかった。

この先、目的地としている大沼池の評判は「エメラルドグリーンに輝く湖」とのことで、まあ、これが見たい一心で歩いているとも言えた。
事前にYouTubeなどで視聴したが、なるほどたいそうな美しさだった。しかし画像や映像だけでは信用出来ないので、この目で確かめて見たいものだと念願して来たのだ。
ただ、今日の天候は、海や湖が青く冴えるようなものではないな。



再び歩き始めたところで、山道に倒木がかかっていた。
これは、実はかなり大きなもので、倒木の下をわたしは屈まずに楽に通り抜けられた。



所々には、湧水のせせらぎが流れ、そういう場所には木橋が架けられていて、それを渡った。



地面や岩を覆う、苔やシダの緑がとても美しく、立ち込める湿気すら心地よく感じる。



さて、だいぶ歩いたところで、眼下に大沼池が見えて来た!
幸い、霧が晴れて来て、たしかに青さが目を引いた。しかし、こんなもんじゃないだろう?!



期待を込めて、大沼池へ下って行く。
あんなに近く見えたのに、歩いても歩いてもなかなか着かなかった。



そして大沼池に到着した時には、また低い雲が立ち込めて、あたりは暗くなってしまった。ああ無情。

おやつとお茶で休憩して、しばらく様子をうかがったが変化無し。
この地点で折り返すルートだったから、時間的にもそろそろ出発しないといけない。腰を上げた。
帰路は登りで、丸太段が670段だ。階段はしんどい。日も差してきて、汗が滲んだ。

喘ぎながら、未練がましく後ろを振り返った。





おおなんと、そこには陽光に照り光るエメラルドのような大沼池があった。
うわさは本当だったのだ。
これが快晴の青空だったら、またどんなにか‥‥
いやしかし、今日の大沼池はこれでじゅうぶんに美しく、山を越えて会いに来た甲斐があったというものだ。
まさに、
志賀高原の湖沼の神が集うかのような場所だった。(2礼2拍手1礼)


心残りがすっかり解消されたので、帰路の山道をまた歩いて行く。


雨風で崩落した山道は、土嚢や蛇篭じゃかごを用いて補修工事されていた。人工のものを山に極力持ち込まないような配慮だろうか。
歩いていた目の前を、ちくわ程の太さのヘビがするするすると横切って、あやうく踏んずけてしまうところだった。



四十八池まで戻って来た。
霧が晴れて、湿原も森も姿を現していた。そこに伸びている木道が、ずっと先まで続いているのが見渡せて、心愉しくなる。
景色に気を取られていると、足を踏み外して落っこちてしまう。




いちばん始めの渋池まで戻って来た。
池も浮島も見渡せて、うっすら赤いのが食虫植物のモウセンゴケであるらしいとわかった。

ほぼ7時間の山中徘徊。今日のところは、この辺まで。
ひと晩、山頂のヒュッテに宿泊して疲れを休めることにする。
そこは、標高2307メートルの横手山頂で、絶好の星空スポットだった。
しかし、夕方になると共に霧が濃くなって、外界はまたしてもミルクの底に沈んだ。

横手山頂ヒュッテは、「日本一標高の高いパン屋さん」がある家族経営のの小さな宿泊施設。ここのお話は【付録】にてお知らせしています🎵)
9話【付録】日本一高い標高2307mのパン屋さん横手山頂ヒュッテ



翌朝は、郵便局が開く時間に合わせてクルマで出発だ。
朝いちばんに、今日の風景印をいただくことにしよう。
この界隈に郵便局は少なくて、さきの国道292号線をさらに山奥へ進んで行くと、白樺ルートと呼ばれる脇道に入る。
そこを少し走ると右手に派手なゴンドラ乗り場が現れて、そのすぐ先の左手に、ログハウス風で大きな切妻屋根が特徴の建物が見えてくる。
志賀高原郵便局だ。

広い駐車場にクルマを停めて、中に入ると、カウンターの向こうに男性の局員さんが2人いらした。
まずはお土産用のポスト型ハガキを買い求めた。
このシリーズには、ご当地の郵便局の名前が入っていて、集めている人も多く、お土産に差し上げると大変よろこばれるものだ。

日本全国の郵便局に、オリジナルが用意されている

ところが、今日ここの局員さんから衝撃のお話を聞かされた。
なんと、長年愛されてきたこのシリーズが終了となったと言うのだ。
新しく印刷製造されることは無くなり、現在の在庫があるのみで、無くなり次第おしまいという状況は、全国の郵便局共通だと、局員さんは話しておられた。その話しぶりも、大変残念そうだった。ここは観光地だけに、記念に買い求めるお客も多かったことだろう。
郵便事業に充てる予算が足りないのだろうか。やれ3事業を分割したのがいけないのだ、云々。
いろいろ話が脱線して局員さんと盛り上がってしまったが、風景印の支度をする。

ここでは、湿原の木道歩きが心地よかったので、場所は異なってしまうが
尾瀬の湿原に水芭蕉が咲いている切手を選んだ。
「右下に、少しだけかかるような感じでお願いします!!」

背景には笠岳、手前にシラカバ、立ち昇る湯気は熊の湯温泉


これで朝いちばんのミッションは完璧だ。
それでは、これから早速、この風景印の景色を探しに行こう!
目をつけていたのは、田野原湿原(冒頭のトレッキングコース地図参照)だ。
ツキノワグマの棲息地になっているというので、またしても鈴やスプレーを装備して進んで行くことになる。
藪の向こうを気にしながら歩いていたら、いきなり

わわッ!!


予想をこえたものが出た!
なんとウエディングドレス姿の女性と、それをエスコートする若者?!
なんだこれは??
「ええっ! 花嫁さんですか?!」 と思わず聞いた。
嬉しそうに、そうだと答えられた。うしろから花嫁の友人らしき女性が2人。どうやら湿原で記念撮影をしてきた様子だ。
ここは、そんなにいいところなのか?
それとも、思い出の地なのか?
若い人がやる事は、大胆だなあ‥‥
ひとしきり感心した。


ここ田野原湿原にも珍しい植物が多数生息して、トンボが飛び交い、ヒョウモンチョウはアザミの蜜を吸っていた。今日は野鳥のさえずりも賑やかだ。



そして、ここで狙い通り、憧れの風景印世界に出会うことが出来た。
天気は微妙だが、奥に笠岳が控えて、手前のシラカバが高原の涼やかさを伝えてくれている。
ああ、ここまで来れて本当によかった‥‥。


とってもミニチュアなクルマユリ


紫色が鮮やかなコバギボウシ


食虫植物のモウセンゴケ


田野原湿原の出口 帰る頃にいい感じになる天気よ!!



またいつか、雲上の志賀高原へ。


(おしまい)




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