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アート⊿ライフ028 : 小説『王』

中学一年生の息子の、自作ショートショート3部作、その3。

『王』

 その町では文字はもちろん、火なども無い時代。あるものといえば、身分格差くらい。その決め方は、見た目でも、力の強さでもなく、想像力だった。周りには少量の草や、岩などしかなく、人々は何かを想像する事くらいしかやることがなかったためだった。
 狭い範囲内だったので、支配者は一人しかいなかった。名をアースといい、アース王と呼ばれていた。アース王の発想力、想像力は群を抜いていて、成長すると共に身分は上がっていき、やがて王となった。
「そこの君、話を聞いてくれないか」
「なんでしょう、アース王」
「最近、神というものがこの世にいる
 んじゃないかと考えてね」
「はあ…」
 町内に人は少なく、狭い町だったので、王と言っても、町人とはよく話をしていた。だが、いざ話しても、話が合わないのだ。それがアース王の悩みでもあり、苦痛だった。その時の相手の眉をひそめている顔は、まるでこちらの事をイカれているとでも思っているのではないか、アース王はそう思ってしまう。
 逆に、話しかけられる事もある。
「アース王」
「なんだ」
「ある事を思いついたのですが、聞いてくれますでしょうか」
「なんだね、聞こうじゃないか」
「あなたのような王がいるということ
 は、王の次に偉い人もいるという事
 を思いついたんです」
 当たり前の事だ。しかし、ここで当たり前だ。などと言っては、相手が悲しむ。そう思ったアース王は答える。
「面白い考えだな」
 すると町人は笑顔で帰っていく。しかしアース王は、今のことがもしもバレたら…、とマイナスな想像へと走ってしまう。マイナスな方向へと走ってしまうのも、アース王の悩みだった。
 そんなある日、アース王にとって想像も出来ないことが起こった。
 突然、はるか上の彼方から、透明で柔らかい、形のない物体が、降ってきては、地面と衝突し、弾け始めている。その現象は次第に強くなっていく。流石にアース王も戸惑い、どうすればいいか思いつかないまま、その液状の物体にうもれてしまった。いや、溺れてしまったという方が正しいかもしれない。
 アース王はそのまま永遠の眠りにつき、夢の中で新たな世界を創り上げていく─。
 ─今世界では、液状の物体が地球上を覆い、高かった地盤の所だけが残っている。残っていると言っても、三割程度だった。やがて、人類が誕生し、文明を築きあげていく。
 次第に文明が大きくなり、争いの末、国ができた。そこからというもの、人類の進歩は凄まじく─。
 気付けば、遂に人類は、月に上陸していた。今までの人類の過程は実に面白いものだった。国同士で戦わせたり、船で海を渡らせたりした。「ピラミッド」や「ナスカの地上絵」なんてものを創ったこともあったが、そんな前のことは、もう思い出さなくてもいいだろう。
 しかし夢でも、アース王のマイナスな思考は出てしまう。
 その途端、地球に異星人が侵略し、地球は滅亡へと向かっていく─。

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