最近の記事

じゆうのこ

以下は、桜庭一樹著『私の男』の本筋に触れます。本作品はインセスト・タブー(近親相姦)を題材にしており、プロットやストーリーの面白さとは別に、「受け付けない」「理解できない」といった評価をされることが多い作品です。 けれど、私はここでインセスト・タブーの社会学、倫理学、生物学的な是非ではなくて、ひとりの人間とひとり人間の尊いつながりを言いたい。以下の棒線から次の棒線はあらすじです。 2008年、腐野花が養父である腐野淳悟を連れて、婚約者である尾崎美郎と食事をするレストラン

    • ジョゼはベッドで魚と泳ぐ

      田辺聖子の『ジョゼと虎と魚たち』を読んだ。 『ジョゼと虎と魚たち』はなぜか折に触れて私の人生に登場する。こういった作品は多くない。 私がはじめてジョゼに出会ったのは2003年に公開された犬童一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」だった。 その後だいぶ経って劇場版アニメの「ジョゼと虎と魚たち」を観た。そして原作を読んだのだけれど、ある機会をいただいて『ジョゼと虎と魚たち』について考える機会があったため、最近久しぶりに原作を読んだ。 実は原作はとても短い。言い換えればあっさりしてい

      • 祈り還し

        最近読んだ本 ・中山可穂『感情教育』 ・中山可穂『男役』 ・中山可穂『弱法師』 ・中山可穂『ゼロ・アワー』 ・中山可穂『花伽藍』 ・サガン『愛という名の孤独』 ・中村文則『悪と仮面のルール』 ・井上靖『あすなろ物語』 ・萩尾望都『少年よ』 怒涛の中山可穂。過去最高に文学でメンタル痛めつけた期間だった。ずっと読みたくて、でも勇気が出なかった。苛烈を地でいく人で、凄絶を地でいく作品だった。 「愛とは互いの血を吸って生きることだ」と繰り返すこの人物の言葉には、重みと生が感じられた

        • 瑞々しく熟れた桃

          サガンと江國香織が好きだ。 フランスと東京に生きる女流作家の共通点は、孤独だと思う。ふたりの血脈には孤独が流れている。 最近、サガンの『愛という名の孤独』と江國香織の『がらくた』を読んだ。 『がらくた』の文庫本の跋文に嶽本野ばらが寄せた、「十五歳のボーン・トゥー・ビィ」の文章は、綺麗に剥けた滑らかな桃のように、心地の良いものだった。 「江國香織は普通なら少女の世界と対立したものとして提示すべき大人の世界とほうを否定せず─無論、肯定もせず─少女の前に置くのです。反抗して

        じゆうのこ

          Mon cher Ash

          . ルーヴルの硝子にうつる自分に死を見た時 となりで手を握ってくれていた人がいたことを思う . 空を切るばかりだ どれだけ願っても 雨にひとりたたずむ少年の左手 . ドゥオモの鐘 震えた瞼の裏に うつる幸福でありたかった . 異国の少年の 10年前のよすがになりたい . 右の手の 中指に留まる銀の重みを どうか半分分けてほしい . あんまり美しいから 許せなくなる ちぎれた銀色の髪 . 広い背中のすべらかな皮膚に 消された傷跡が見えたこと . 宝石の横顔を 長い

          Mon cher Ash