鳩のあの足の裏

近ごろ娘がAmazonプライムビデオで全99話あるアニメシリーズを完走した。

夢中で楽しみすぎて、見終わったあと評価の星を満点でつけたらしい。これまで評価を付けたことはなかったし、評価することに興味もなかったけれど、あまりにおもしろかったから高評価をつけずにはいられなかったのだと言っていた。思い出しながら起きた。

起き出して機械の体のありさまで朝食と息子の弁当の準備、人々もそれぞれにいつものように動いて出かけていった。

家の中も外も静かで、キーボードを叩く音だけ続くうち、急にずぎゅずぎゅずぎゅとまどをひっかくような音がして、鳩だ。

うちには空に向けて斜めにせり出している窓の面がある。鳥が軽く足場として着地可能な絶妙な角度らしく、去年の秋くらいからだろうか、そこを鳩が歩くようになった。

ぎゅん! と着地すると、ガッガッガッ、ずぎゅずぎゅずぎゅと踏みしめる。例のあの足の裏が窓の向こうに見える。

はじまで歩ききると、バサッ! と飛びたつ。

それから部屋をいつもの5倍の勢力をもってぴかぴかに掃除して、大阪のシカク出版から昨日たくさん届いた本をひろげてサインを入れる。

先日は別の出版社から出る日記本にもたくさんサインさせてもらった。いくつも書いていると、名字の古賀の「賀」の字が急にDNAの二重らせんみたいに見える瞬間にでくわすことに気づいた。

書き入れるうちに感謝のゾーンに入り今日もまたDNAを見た。

夕方前には無事にすべての本にサインが入り、荷造りをしてその手で集荷依頼する。

私の手の文字のためだけに本が物量豊かにどっさり届いて玄関に積み上がり、そうして私の手の文字、ただそれだけを搭載して本は大阪へ帰って行く。

行き来した本にのるサインのインクの量はペン1本分にも満たない。私の意気、ほぼただそれだけを運送会社さんがものすごく重いおもいをして運ぶのだからとんでもないことだ。

すぐに集荷はやってきて、玄関は元とどおりのすかすかになった。目を開いてよく見ておいたが、こうなるとなにごともなかったようだ。

今日この手でおさえてサインを書いたたくさんの本が散り散りになる。それぞれ、ばらばらのどこかの人の手に渡る。すごいな。心を押し込めました。

それから、急いで新代田へ。書店のエトセトラブックスに「小山さんノート」の刊行記念の展示を見に行く。

小山さんと呼ばれるホームレスだった方がたくさん残したノートの文章を、ワークショップのメンバーが8年かけて起こして編集しまとめたという本、そのもととなったノートが展示されていると知り、ひとめ見たいと思った。

大変な盛況の店内で譲り合いつつ見ることができた。

小山さんの肉筆は、筆圧強く勇壮だ。私は最初、鉛筆で下書きをした上からボールペンでなぞったのかと思ったが、強い圧で書かれた裏の文字が今読むこちら側にすけているのだとわかった。

「小山さんノート」と、ワークショップのメンバーであり小山さんを支えた いちむらみさこさんが編集された「エトセトラ vol.7」も購入、そのままぼんやり帰った。

曇って寒かった。新代田はちょっと変わった駅で、改札口の前がいきなり環七通りだ。つまり「駅前」がない。

駅を出ると太い通りの向こう岸にスイミングスクールとライブハウスとファミリーマートと小さな喫茶店とセブンイレブンがあるし、あとは環七沿いにぽつぽつ個人経営の飲食店やクリニックもある。

のだけど、とにかく目の前が超有名幹線道路である環七通りなものだから、駅前をやろうとするもそこを積載量100%の大型トラックから営業車から自家用車からバスまで続々通って行く、駅前を許されていない感じがある。毎度これはと思う。

線路は駅の下を通っており、6月になると線路沿いにみっしり植わったあじさいが満開になる。開けた空の光を受ける。

夜は生協で届いたミールキットで鶏と大根の味噌だれ炒め。

娘が「うまい」と言った。この人は、うまいものをうまいと思える口を持っている。わかりやすい料理、ハンバーグとか唐揚げじゃない、地味なタイトルの料理も、うまければ「うまい」が出るところ、私は信頼している。

それにしても、ミールキットの、自分で調理はした、けれど自分で作ってはいない手ざわりと味わいは毎度マジカルだ。

このあいだの誕生日、ふっとなにかの拍子に『ワリオの森』で難儀を重ねた99面をクリアした。ファミコンで遊んでいた子供の頃には見られなかったエンディング画面を今こそ見た。

でもそのあと100面が現れ、クリアしたら101面もあらわれて、まだやっている。

今年の冬は寒い日ばかりでなく暖かい夜の日がある。今日は寒い方の夜。各員に湯たんぽを配る。おしりの下に敷いてじわじわ脂肪を温めると、弓なりの本来寝づらい姿勢にもかかわらず眠い。


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