「社会に開かれた教育課程の実現」を改めて考え直す 〜課題は何か?〜
学校には、社会と連携・協働し、未来の社会の創り手を育むために「社会に開かれた教育課程」の実現が求められていますが、各学校の現状はいかがでしょうか。
「私の学校は地域との連携はうまくいっているよ。」という先生もおられると思いますが、本記事が「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた地域と連携・協働について、改めて振り返る機会になれば幸いです。
1. 社会との目標共有と協働の重要性
「社会に開かれた教育課程」の前提として「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」という考えを学校と地域とで共有することが大切になります。「社会に開かれた教育課程」の実現の核になる理念ともいえるでしょう。この理念を地域と共有するためには、学校は地域のニーズだけではなく、現代の社会的課題を理解し、「これからどのような社会になっていくのか」「その社会ででは何が必要となってくるのか」等、地域の方と考えたり、考え方を共有したりする必要があります。
現在、「ソサエティ5.0」の時代に突入しつつあります。「ソサエティ5.0」とは、Iot、ロボット、AI等の最先端技術をあらゆる分野や社会生活に取り入れ、多様なニーズにきめ細かく対応したものやサービスが提供できる社会です。私は地方在住ですが、自宅の近く田んぼでも、ドローンによる農薬散布が見られるようになりました。オンライン診療等も少しずつ耳にするようになりました。
「ソサエティ5.0」は、経済成長と社会課題の解決を両立させることを目指した未来社会のビジョンです。この社会を実現するためには、課題を発見・解決する力、情報活用能力、未知の状況にも対応する力、グローバルな視点で物事を考える力、他者とコミュニケーションをとりながら協働する力などの様々な力が必要になります。以上を踏まえて、学校がこれらの資質・能力を育成するため教育内容や活動を教育課程に組み込み、地域と連携して実践的な学びの場を提供することが重要になります。
実際の取組としては、地域社会との対話やワークショップを通じて、学校が持つべき目標を共有することが挙げられます。
地域の防災活動や環境保護活動など、社会全体の課題に対して学校と地域が一体となって取り組むことで、子どもたちは単なる知識の習得にとどまらず、実社会での役割や責任を学ぶことができます。これにより、社会に対する当事者意識が育まれ、持続可能な社会を構築する力が養われます。
2. 必要な資質・能力の明確化と育成
次に、未来の社会を創り出すために必要な資質・能力を明確化し、それを育むことが求められます。これからの社会では、単に知識を持っているだけでは不十分です。むしろ、変化する社会に柔軟に対応できる力、問題を発見し、解決する力、さらには他者と協力して社会的な課題に取り組む力が重要です。
例えば、問題解決能力やクリティカルシンキング(批判的思考)、創造力、コミュニケーション能力などが21世紀に求められるスキルとして挙げられます。これらのスキルは、教科書を使った授業だけではなく、実際の社会との関わりの中で身につくことが多いです。地域の企業やNPOとの共同プロジェクト、あるいはボランティア活動を通じて、子どもたちは自ら課題を見つけ、その解決に向けて行動する力を養うことができます。
また、グローバル化が進む現代においては、異文化理解や多様な価値観の受容が求められます。このような資質・能力は、学校内だけでなく、地域や国際社会との接点を持つことで育まれます。例えば、地域の外国人住民と一緒に行う活動や、国際的なオンライン交流プログラムなどは、異なる文化や視点を理解する絶好の機会となります。
3. 地域資源の活用と持続可能な連携
教育課程の実施に際しては、地域の人的・物的資源を活用し、社会教育との連携を図ることが求められます。学校教育を社会に開かれたものとするためには、地域社会との協力が不可欠です。地域には、子どもたちの成長に寄与する豊富な資源が存在しており、それを積極的に活用することが、教育の質を高める大きなカギとなります。
例えば、地域のボランティア活動や職業体験プログラム、あるいは自然環境を活かした学びの場の提供など、地域の特性を活かした取り組みが挙げられます。具体的には、地域の農家と協力して行う野菜づくりや、地域の職人から技術を学ぶ実習などが効果的です。このような活動を通じて、子どもたちは教室内では学べないリアルな社会の一面を経験することができます。
しかし、地域との連携が単発のイベントにとどまってしまう場合、持続可能な関係性を築くことは難しくなります。例えば、地域の清掃活動や花壇の整備などの取組が、学校と地域の「貸し借り」の関係で行われているケースでは、互いの当事者意識が薄れ、負担感や不満が生じることがあります。これを避けるためには、地域と学校が共通の目標を持ち、お互いを「当事者」として認識することが重要です。
また、学校と地域の連携が一部の人物に依存している場合、その人物が退職したり、異動した際に連携が途絶えてしまうことがあります。こうしたリスクを避けるためには、持続可能な仕組みづくりが必要です。例えば、地域住民や保護者が主体的に参加し、学校との連携をサポートするための地域学校協働活動などを整えることが考えられます。このような仕組みがあれば、個々の活動が人の入れ替わりに左右されることなく、長期的に続けられるでしょう。
課題と展望
これらの取組を効果的に進めるためには、いくつかの課題があります。まず、学校と地域の連携が形式的なものにとどまらないようにする必要があります。たとえば、地域の意見を「十分に聞いている」だけでは不十分であり、実際に地域の声を反映した教育課程の運営が求められます。また、地域と学校の連携が保護者や地域住民の「当事者意識」を高めるものであるかどうかも重要な指標となります。
さらに、何か問題が発生した際に、保護者や地域住民が学校の味方となり、代弁者となってくれるような関係性を築くことも大切です。こうした信頼関係があることで、地域と学校が一体となって課題に対処し、未来を見据えた学校運営が可能になります。
結論
「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、学校と地域が一体となり、共通の目標に向かって持続的に連携していくことが不可欠です。単発の活動や貸し借りの関係にとどまらず、地域全体が教育の一翼を担うことで、子どもたちはより豊かな学びを得ることができ、社会全体の発展にも寄与します。