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一斉指導の何がどう問題なのか

 「一斉指導の何がどう問題なのか」
 この問いを考えることは、個別最適な学びの実践を検討していく上で、重要になります。一斉指導と個別最適な学びは二項対立するものではありませんが、それぞれのメリットとデメリットを理解することは、両者のよさを引き出す実践につながります。

 多くの人が考える一斉指導は、基本的に1つの教材、1つのペース、1つの筋道、1つのゴールという構造になっていると考えます。
 もちろん、この構造の中でも多少の複線化は図られます。
 例えば、算数科においては、問題解決のために、線分図、グラフ、式などを思考の道具として使いますし、まとめが終わった後、自分のレベルに応じて、問題数や問題の難易度を決めることはよくあることでしょう。
 また、1つのゴールについてですが、個別最適な学びの「指導の個別化」の目的は「学習内容の確実な定着」ですので、全員が共通のゴールテープを切ることは大切です。

 では、何が問題なのか。
 一番の問題は、全員に対してたった「1つのペース」で進められることにあります。よく授業は「平均より少し低い子ども」に合わせて行うことが経験則として言われますが、学習速度が速い子はすぐに理解します。一方、学習速度が遅い子は時間がかかるので、たった1つのペースについていくことができない状況が出てきます。
 もちろん、教師は、子どもたち全員が付いてこれるように、子どもたちの理解度を踏まえながら、スピードの調整をしたり、指導技術を駆使したりします。しかし、それでも奈須正裕氏が指摘するように限界があります。
 

教師は「5分でやってみましょう」と言い、5分後には「まだ終わっていない人も鉛筆を置いて」と活動を途中で打ち切らせてきました。学習や思考は単なる機械的な作業でありませんから、一定の時間がんばって取り組めば、それに比例して成果が得られるわけではありません。(P136)

個別最適な学びと協働的な学び 奈須正裕著

 「5分の自力解決の時間を与えても、分からない子にとっては無駄な時間になりがちである。だから、時間を区切って、解決の糸口となる他者の考えを聞く方がいい。」「学習ペースの遅い子どもたちも、話合いに参加しながら理解を深めていく。」「最終的に本時の目標を達成すればよいのではないか」という声もあります。
 確かに一理あると思いますし、これまでは、そのような授業をいかにつくっていくかに注力していた面もあったと思います。
 

 しかし、なお疑問は残ります。確かに遅い子も速い子と一緒にゴールしたかもしれません。しかし、それは駅伝の繰り上げスタートのようなことを何度も繰り返した末のゴールであって、当人にすればあまり晴れ晴れとした気持ちにはなれないのではないでしょうか。
 それでも、何とかゴールできればよいでしょう。より深刻なのは、7分もあれば十分に学べる能力を持っている遅い子が繰り上げスタートにたとえたような、中途半端なまま次への活動へと何度でも強制的に向かわせられる状況を強いられることにより、結果的にその時間の学びをうまく成立させられない可能性が低くないことです。

個別最適な学びと協働的な学び 奈須正裕著

 

 指導教諭等は、優れた指導技術等を駆使して、子どもたち全員がついてこれる「一斉授業」が何とかできているかもしれません。しかし、一斉授業の質を上げたとしても、子どもたち一人一人の学習ペースに対応することは困難であると考えます。

 令和4年度の義務教育に関する意識に係る調査においても、「学年が上がるにつれて自分のペースで学習したい」と思う児童生徒が増えているという結果も出ています。

 本タイトルの1つの答えとしては、「一斉指導のたった一つの学習ペースでは、学習速度の違う子どもたちの学習をを深めるには限界がある」になるでしょうか。

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