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新入社員の具体的な本づくりの話。

はじめまして、今年の4月に編集未経験で入社した書籍1部のKです。
入社から半年経った中、編集者人生の中で2冊目となる担当書籍『イラストと図解で速攻理解!営業の超基本』が発売したので、今回はその書籍についてお話していければな、と思います。

『イラストと図解で速攻理解! 営業の超基本』
著者=齋藤裕信
定価=1,650円(本体1,500円+税10%)
ISBN=9784781622446
発売日=2023年11月14日
判型・ページ数=A5判・208ページ

これから編集者を目指す方になるべく本づくりの雰囲気を伝えられるように書きます。そして、もし編集経験者の方に読んでいただけるのなら、こんな頃もあったなと温かい目で見守っていただけると嬉しいです。


■入社1か月目、「営業の超基本」の引継ぎ

「Kくん、営業の本やってみよっか」
5月中頃、まだ先輩の仕事ぶりを指咥えて眺めていることしかできなかった時期に、上司であるNさんにそう告げられました。どうやら「営業職を図解する本」の担当引き継ぎに関することのようです。
「やります!!!!(???)」
正直分からないことがありすぎて頭の中は疑問符だらけでしたが、Nさんもそんなことは分かっているはず、それを承知で任せてくれたNさんを信じて引き受けました。
とはいえ、進行時にはフォローに入っていただけるとのことだったので、特に不安はありませんでした。

そうと決まれば早速著者さんとの顔合わせ。著者の齋藤さんに社にお越しいただき、Nさん同席で現段階での進捗と本の方向性について話し合いました。事前に受け取っていた書きかけの原稿を見ながら話を進めていきます。

「営業ってすごく楽しいんです。それを伝えられる本にできたらいいなって」
齋藤さんはバリバリ現役の営業マンで、非常に真摯にお仕事と向き合っている方です。打ち合わせでのお話や原稿からその様子が分かりました。

クオリティの高い原稿、熱い思いを持つ著者さんの話を受けて、「営業の超基本」に対するモチベーションは爆上がりでした。

■原稿の確認とデザイン依頼

顔合わせ以来、毎週決まった日に進捗がメールで届くようになりました。
とはいえ、送られてきた原稿になんて返すかも分からずとりあえず、原稿を読み込んで思った率直な感想を返していました。
「こんな素朴な返事だけでいいのか?」と不安になりNさんに相談したところ、「それが一番大事なことやで」と返してくれたので安心して素朴すぎる感想を送り続けていました。

のちのやり取りで齋藤さんが「Kさんが毎回感想を返してくれるから方向性を見失わず執筆できましたよ」と言ってくれたので、編集者であるのと同時に「その本の一人目の読者」であり続けることは今後も心にとめておこうと思います。

そんなこんなで、原稿が届いては感想を送りながら原稿整理をしていました。
誤字脱字のチェックはもちろん、内容の方向性が想定している読者にとって適切か、内容に齟齬はないかなどを、まだあまり忙しくない今のうちにしっかり確認しておきます。

ここで重要なのは、一度「この本を買いそうな人」の視点に立って読むことです。今回は「とりあえず営業職に就いてやる気もそこそこあるけどなんも分からん社会人一年生」になったつもりで読みました。
「急にECとかPDCAと言われても分からない人がいるかも」と思ったら注釈を入れたり、大事なところには強調を入れたりという作業していきます。
進めていくうちに、著者と編集者というよりは、頼れる営業の先輩と入ったばかりの後輩というような関係性が(自分の中で勝手に)芽生えてきました。

そんなことを考えているうちに、齋藤先輩が毎週着実に進めてくれたおかげで原稿は滞りなくそろっていきました。

しかし、本を作るには原稿だけあればいいというものではありません。その本にふさわしい外身と中身のデザインが必要です。
そこでまずは、ブックデザイナーさんを探して依頼しなければなりません。
デザイナーさん一覧に目を通し、想定する読者や原稿内容を踏まえて決定しました。本の種類によって内容は変わりますが、今回依頼したことは以下の通りです。

・カバーと帯のデザイン
・本体表紙(いわゆるカバー裏)
・中身のフォーマット(本文の書体や文字の大きさ、配色など)
・章トビラ(章タイトルが書かれる各章初めの1ページ)
・はじめにとおわりに
・その他、目次や奥付など
・用紙の指定

ブックデザイナーさんのお仕事は、編集者からくる「この要素(イラストとかテキスト)を入れてこんな風にしてほしい!」という依頼を実現することです。魔法使いみたいなものです。

デザイナーさんに送ったラフ
完成した帯

私はデザインが送られてくるたびに満面の笑みで眺めていました。ブックデザイナーさんには足を向けて寝られません。
自分の書いたラフがプロのデザイナーの手によって仕上げられていくのは、他業種ではなかなか味わうことのできない体験です。ここからNさんや部署の先輩、営業部の方々と相談しながら修正希望を出し、理想に近づけていきます。

帯に関していえば、今回は直前まで強調文字の表現に迷いました。初めは鮮やかなピンク色で出していたのですが、それではやや印象が薄いように感じたのでデザイナーさんに「ちょっと濃くしてください!」と伝えて直してもらい、印刷会社の方に再度見本をもらいました。

鮮やかなピンク(実物はDIC-76)
ちょっと濃くしたピンク(K 20%乗算)

編集者の指示には、すべて意図があります。今回の「ちょっと濃くしてください!」という指示は、結論から言うと失敗でした。色が沈んで見えてしまったのです。
今回の指示の目的は「強調文字をより目立たせること」であり、その手段は色を変える以外にも考えられます。デザイナーさんに「もう少し目立たせるにはどうしたらいいですかね?」と相談すべきでした。
幸いにも、今回はスケジュールに余裕があったのでさらに修正ができました。最終的には書体を少し太くし、色はもとのピンクに戻しました。

そんなこんなで満足いく装丁ができあがりました。
デザインが確定すると、いよいよ本の輪郭が見えてきますね。

■イラスト依頼とDTP

本によっては、イラストレーターさんにイラストの制作をお願いする必要があります。本書もタイトルにある通り、かなりの量のイラストをお願いすることになりました。
デザイナーさんに紹介していただいたイラストレーターさんに本の概要を共有し、サンプルイラストをもらいます。
この方向性でOK!となったら具体的な指示書やラフを送って、完成を待ちます。

イラストレーターさんに送ったラフ
完成したイラスト

とってもかわいくて気に入っています。原稿整理で時間を食ってしまってかなりギリギリのスケジュールでのお願いになってしまいましたが、間に合わせてくださいました。
編集者をしていると、寝るときに足を向ける方向がどんどんなくなっていきます。

素材がそろい始めるのと同時に、社内のデザインチームの方に素材をお送りし、フォーマットに則って実際に本の形になるように要素を配置してもらう必要があります。これがDTP(Desk Top Publishing)という作業です。今回は社内で作るグラフや表もかなり多かったため、スケジュールを何度も調整することになりました。

いまの段階ではまだ要素のみで本の形を成していません。DTP作業によって、1ページずつ実現していきます。デザイナーさん、イラストレーターさん、DTP担当の方の全員が著者と編集者の意図をくみ取ってくれるから本づくりが成立しています。


■責了までの2週間

本のデータが完成したらそれを印刷会社に送り、見本として印刷してもらったものを確認して「これでOKです!」という必要があります。これを責了といいます。本づくりはこのゴールの日から逆算してスケジュールを立てていきます。
特に、責了前の二週間は綿密に計画を立て、ミスの発生がないよう念入りに確認していきます。

今回は責了の二週前に齋藤さんに来社していただき、二人で全ページのチェックを行いました。お互い丸一日空け、スタートも朝10時に設定していたので余裕かなと思っていましたが、いざ作業を始めてみるとあれでもないこれでもないと議論が白熱し、ついには23時近くまでかかってしまいました。
二人して糖分が足りなくなってお菓子を食べながら原稿を読んだあの体験は、今後編集者を続けていく中で何度も振り返ることになると思います。
作業終了後、「見本が届いたら絶対打ち上げしましょうね!」と妙にハイになったテンションで約束をかわし、その日は解散しました。

ちなみにその打ち上げの日、齋藤さんに「あの日は私が『もう帰ろうよ』とは言えない雰囲気でした……。でもおかげさまで納得いくものができました」と伝えられて若干の申し訳なさも覚えつつ、最後までやりきってよかったと思っています。

このあとはとにかくミスがないかの確認とブラッシュアップの繰り返しです。誤植がないよう何度も何度も読み返し、直していきます。そうして外部校正、著者、自分のそれぞれが書いた修正個所を統合していよいよ入稿、そして責了をして、一冊の本づくりを終えました。

責了後にもまだまだやることがありますが、今回は本づくりの話のため割愛します。


■おわりに

本づくりには一貫した大きな軸が必要です。企画の段階から「この本の軸はこれ!」というのを保ち続けなければなりません。一冊の本の制作にたくさんの人が携わる中で、全員の向いている方向を揃えるのが編集者の仕事といえます。

今回の本づくりで一貫したことは、「無理にかっこつけず、難しそうに見せないこと」でした。見出し、文章、デザイン、イラストの隅々までとにかく爽やかに、ポップに、分かりやすくすることを心がけました。

まだまだ自分で立てた企画の軸はブレブレふにゃふにゃの未熟者ですが、この一冊を通して大きく成長できたのは間違いありません。
著者さんをはじめ、携わっていただいたすべての方に満足いくまでお付き合いいただいた一冊ですので、ぜひ手に取って読んでみてください!


※電子書籍は、12月7日頃、順次配信予定です。

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