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百億パーセント、そそるぜ、これは

 「誕生日までに変わっていたい」の手段として、映像作品をコンスタントに観る、というのもいいかなと思った。もともと、映像作品を観るのはあまり得意ではないし。

 そう思いついたのは、特に計画をしたわけじゃなく、Amazonのバンダイチャンネルを一か月無料視聴しはじめたからだ。


 沢山の番組の中から私が見始めたのは「Dr.STONE」だった。バンダイチャンネルじゃないじゃん。primeにあるじゃん。

 でもでも、久しぶりにすごくテンションが上がったのだ。こんなにはっきり気分がいいのは、およそ三年ぶり。まあ、天デ部に出会った時に少しその兆候はあったけど、アレルギー反応を起こしていた「科学」という言葉を含むものを楽しめるようになったのは、戻ってきた感が強い。

 まだ読みかけで放置している、「この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた 」も読まないとなあ、「銃・病原菌・鉄」を再読しようかなあ、と意欲が喚起されている。

 Dr. STONE、たのちい。科博に行ってる感じがある。主人公センクウくんが、生きる科博なのである。科学も化学も工学も薬学も医学も、それらの方法論まで知ってる、こんな高校生いねーよと思うけど。センクウくんの髪型、まんまGANTZのネギ星人だけど。

 この話、面白い話の型、神話のパターンを忠実になぞっていると思う。

① 主人公が最初に多くのものを失う
② 主人公は知力・体力・勇気などの面で優れている(読者の憧れの存在である)。これまで十分発揮できていないか埋もれていたその才能が、物語中で開花する
③ 強力な環境障害、強力な敵、味方か敵か分からない人間の存在、弱点を持つ味方が登場する
④ 主人公たちが(科学技術によって)着実に良くなることが味わえる
⑤ ゼロから何かを作っていくわくわく感がある。ゴールは現代技術にキャッチアップすることと明確なので、読者(視聴者)は迷子にならないで純粋なわくわく感を楽しむことができる
⑥ 日常的な困難や課題と、世界全体についてのもっと大きな課題が明確に設定できている。物語のスケールが大きい
⑦ 知識欲を満たす内容

 抜け漏れがあると思うけれど、ざっとまとめるとこういう感じ。他の人は、これに加えて「登場人物同士の絆」みたいなことを挙げるのかもしれないけど、私は、この作品がそれを押しすぎないことがいいことだと思う。
 センクウくんが合理的な判断からしたことが、結果的に味方のためになったり生活の質を向上させたりするから慕われるという因果関係があるのがいいし、慕われるシーンが、ギャグ的要素を混ぜてあっさり描写してあるのがいい。センクウくんが「科学の力、合理的に」と言っているのに、作品に情を混ぜすぎたらちぐはぐになってしまう。ちなみに、情でガンガン押す「鬼滅」は私には合わなかった。

 Dr. STONE、まだTwitterやっている頃、フォロワーさんにオススメされた記憶があって、でもその時はまだprimeに入っていなくて、諦めていたのだった。その時手を付けていたらなあ、一歩一歩だなあ、と私の歩みののろさに舌打ちするけど、おかげでアニメ一期・二期連続で観られるのだし、その時だったら楽しむ余裕はなかったかもしれないから、結果オーライだと思おう。

 物資もマンパワーも不足しているという逆境下で、センクウくんが次に何を作るか宣言するシーンにいつもワクワクする。サルファ剤を作るぞ! と言い始めた時は「うわ、そんなとこまで」ってなったし、製鉄を人力でやると聞いた時は恐れおののいた。だから、動力の時代に移行した時は、動力って偉いと、その場に立ち会っているかのように感動した。センクウくんの住処の設定も憎いよね。火山地帯なら鉱物を獲得しやすいだろうとか、作者は一杯考えたんだろうなあ。


 と、つい「お話を作る側」の目線で観てしまう。


 私が感じているこのワクワクを、私も自分の作品を読んでいる人に味わってもらえるといいなと思う。心を抉らせたり、ギリギリと切ない思いに胸を締め上げるのではなくて。いや、それもいいのだけど、そういう作品は、書くのもしんどいから。実際はわからないけど、少なくともDr. STONEの作者は私よりは楽しんでお話を考えていると思う。作者がどうやって書いていたかは、案外伝わるものなのだ。どんな内容のものでも、作者が楽しんで書いたものが伝わるのだと思う。100%楽しんで書くのは難しくても。

 私は心を抉るような作品も、楽しんで書けるサイコパス性を身に付ける必要があるのだと思うし、もっと楽しんで書けるようなテーマを選ぶ必要もあるのだと思う。

 そして、書くこと自体がつらいと感じないように、呼吸をするように書けるようになりたい。以前よりは大分できるようになっていると思うけど、剛速球を投げるようなやり方じゃなくて、読者が受け取れるだけの軽めの球を真っすぐ投げるのを定着させられるといいなと思う。剛速球を軽く投げられるようになるのがゴールだけど。量産ができるようになると、一つの作品への思い入れが減るから、重たい作品も機械的に技巧的に書けると思う。創作は「作者が書きたいと思うものを書く」というように、思い入れが大事であるという印象があるが、品質を確保するには、思い入れという定量的に測れない何かに頼るのではなく、合理的な解決の道筋を探る必要があると思う。


 ちなみにバンダイチャンネルの本来の目当ては「銀魂」だった。テレビの再放送が終わってしまって、銀さん! 銀さん! と飢えた鳥の雛のように騒いでいた子供達が、バンダイチャンネルで見つけてしまったのだ。

 鬼滅の刃を見せるか見せないかなんて、ちゃちい悩みだった。銀魂の方が鬼滅の残虐シーンよりやべえよ。ピー音満載だよ。お下劣だよ。

 子供達は分かっているのか分かっていないのか分からないが、「おおおおい」「しんぱちぃー」とか言っている。

 子供に下水道のことを教えようと、マンホールって知ってると聞いたら、知っているという。ああ、ドラえもんで出てくるもんね、と返したら、「ううん、銀魂で出てきたんだよ」と返ってきた。

 あんなアニメに、学ぶところあったんだ。子供って、どこからでも学ぶんだなあ……。

 Dr. STONEを見終えたら、バンダイチャンネル内のコンテンツも観ようと思う。私は銀魂以外で……。


 ところで、Dr. STONEの司さあ、「旧世界の腐った人類は淘汰する」とか言っているのに、北斗の拳のヒャッハーみたいな奴を復活させている矛盾について考えてしまうな。それ、「腐った人間」じゃないのかな。武力帝国も「腐った人間の作った組織」じゃないのかな……。自分に権力集中させとるやん。

 おしまい。

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