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追いかけると逃げちゃう

 子供同士を遊ばせる知り合いが出来た。家が近いし、小学校も中学校も一緒の予定だから、私としてはかなり慎重に付き合っているつもりだ。今の所ほどほどにうまくいっていると思うけれど、それは相手が合わせてくれているからだろうな。この距離感を保っていきたいなという願いは切実だ。

 先日、連れ立って少し離れた公園まで出かけた。うちの長女と向こうの上の女の子は一歳違い。園バス待ちの短い時間しか知らないけれど、普段はそこそこ仲良くやっているのに、一緒に居る時間が長かったからか、何度か小競り合いをしていた。まだ頑是ない下の子同士は仲良くままごとをしていたが、上の二人は広い公園でそれぞれぽつりと離れて、どんぐりを探したりシーソーの片側に乗ったりしていた。

 先にその様子に気付いたのは向こうのお母さんで、子供に何があったか聞きに行くか、子供が寄ってきてお母さんに話すかしていた。それでこちらも二人が妙な動きをしていたのに気付いたのだけれど、こういう時ってどうしたらいいか困るものですね。バス通園だし、外で継続的に遊ぶ相手もろくにいないからそもそもこういう経験が少ないのだけど、親が割り込むのも学びを阻害することだけは分かる。結局親同士並んで「どうもこういうことがあって、それが不満らしい」「うちはこんなことを言っている」とぽつぽつ話をしつつ、二人を観察した。「あ、今また近付いていった」「仲直りしたんですかね」まるで野生動物に密着した、ドキュメンタリー番組のナレーション。

 その中で、相手のお母さんが言ったことが印象に残っている。

「お友達に何かされたら、お母さんに言わずに自分がお友達に言わなきゃって言ってるんですけどね」

 うん、わかる。

「言わないと伝わらないよって。もし言えないなら、それはいつまでも持ってないで(気持ちを)捨てなきゃって」

 うん、わかるわかる。

 その場では、その通りだなあ、うちも、「うーうー唸ったり泣いてるだけじゃ伝わらないよ、お母さんは察してあげられるけど、お友達はそうじゃないよ」みたいなことを言うもんなあ、と思ったけれど、今はそのことについて考えこんでいる。

 どうにもならないことを捨てるって、結構難しいよなあって。

 私のツイートを見ている人はお気付きになるだろうけれど、私はそういうの下手くそだ。でもきっと、彼女は出来るんだろうなと思った。いや分かんない、私もできもしないことをつい子供に言ってしまうことがあるから。しかし彼女の口調は私のそれより事もなげに聞こえた。そういうことが出来る大人が、何気なく子供に諭せば、その子供も「そういうもんか」と自然に出来るようになるんだろうか。

 もう一つ。それを捨てられない子供を、どう諭していけばいいんだろう。

 うちの子は、特に長女は、私に似て気持ちの切り替えがあまり上手くないと思う。そういう子に、なるべく忘れるように諭したら、却って苦労させてしまうのではないか。不快な感情を全く切り離すでもなく共存するやり方(そんないいやり方があるんだろうかと書いていて疑問なのだけれど)を教えてあげた方が本人の役に立つのではないか。

 結局その日は、何度となく仲直りと喧嘩を繰り返して、最後はお互い疲れが出てきたこともあって、なんとなく不穏な雰囲気で解散することになってしまった。

 夜、歯磨きをしているとき、長女が思い出したように言った。

「あやまろうとおもっておいかけたのに、にげちゃうんだもん」

「そう。でもさあ、たとえば今日居た鳩だって、追いかけたら逃げたでしょ。鳥も、人間も、追いかけられるのって怖いんだよ。だからそっと歩いて話しかけてみたらどう」

 自分だって仲良くしていたい相手を追いかけた経験があるのになあ。古傷が痛む。

「だけどさ、あるきだとはしっていっちゃうからおいつかないよ」

 そうだねえ。だから追いかけなきゃって思っちゃうんだよねえ。ズキズキ。こんなことを長女と話すようになるとは思わなかったなあ。複雑なことを考えるようになったんだなあ。今日は目の前で起こっていたことだから、そんなに的外れなことを言っていない自信があるけれど、これから小学校で何かあっても、私は把握できないし、きっと先生もちゃんと見てはくれないよね。どうしようね。

 「お友達が、怒ったり泣いたりして、嫌な気持ちになっているときは、どんな話も聞きたくないと思っているから、時間をあけるしかないと思うよ」というような話をしたと思う。「少し心が痛いのがなおったかなと思った時に、話しかけてみたら」と。正解は分からない。

 

 ところで、皆さんは自分の子供の性格をキーワードで言えますか? 私は家での子供のことは言えても、外の子供の顔、実家での子供の顔は違うだろうなと思うと、うまく言い表せない。私が「この子はこういう子で」って決めつけていいんだろうか、ということも思ってしまう。長期間にわたって、一緒に遊んできたような友達(ママ友)がいなかったから、相対比較ができてないからかもしれないけれど。

 だいいち自分の性格だって、不定形でよく分からないのだもの。普段の自分はこうだけど、特定の人の前ではこういう面が出てしまうとか、ざらだし。

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