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時空跳躍

 うっかりあつまれどうぶつの森にはまっている。
 いやいや、またゲームの話かよなんて、まだブラウザバックしないで欲しい。今日はゲームの話であってゲームの話ではないのだ。

 あつまれどうぶつの森には、一定の日に開催されるイベントがあり、そこでしか手に入らないアイテムが存在する。やり込んでいるゲーマーは、そのアイテムを入手するために、ゲームの時間操作を行う。

 最初はそこまでしてアイテムをゲットしたくはないと思っていたのだけれど、現実世界でタイムトラベルはできないのだから、過去に戻ってみたらどんな気持ちになるか知りたくなって何度か時間跳躍した。ゲームの設定では、跳躍前にした作業は後戻りせず、もう獲得したアイテムも無かったことにはならない。しかも、一定時間が必要な作業は、行って戻ってくるとその日の分だけ作業が進むのである。

 具体例をあげる。あつ森では、何かの建設や移転には一律で一日かかる。それでいくと、n日に指示したその作業は、本来n+1日にならないと完成しないはずなのに、n-1日に飛ぶと、n日に戻ってきた時にもう完成しているのである。
 また、あつまれどうぶつの森にはコンピュータが生成したどうぶつの住人がいるのだけれど、たとえば三十日以上時を遡った場合、私はその間島にいなかったことになるので、戻ってきた時に「淋しかったよー」と言われるのである。島そのものも、雑草が増えたり部屋が荒れてGKBが出たりする。私が時を旅すると、私と私の島は分離し、パラレルワールドが生成されるのである。

 そしてタイムトラベルを繰り返せば繰り返すほど、n日の時点で元の島、Aの作業が出来ている島、AとBの作業が出来ている島、AとBとCの作業が出来ている島……と、パラレルワールドはどんどん増えるのである。私はあつ森界の暁美ほむらになるのである。
 私は何度目かのn-1日にいる時、体感で何歳も年を食ったように感じる。転生を繰り返しているかのようだ。ただ、私がいない島でも時間は流れているので、私だけが余計に年を取るということではないらしい。私がいなくても、住人は他の住人と交流し、度々来訪するゲストは勝手に来て勝手にいなくなる。私がn日に戻って逢っているこの住人は、最初の世界の住人とは少し違うのだ。もし私が現実世界で時間跳躍して、元の時間軸に戻ってきたとしても、たとえばそこで逢う私の恋人は、元の恋人に恐ろしく似ているが、絶対に違う存在である恋人´なのだ(きゅん要素を添加するために恋人と書いてみたが、別に友人だって子供だっていい)。ものすごく奇妙なことを、ゲームを通じて体感してしまった。

 おそらく、時間操作ができる仕様にしたのも、任天堂が意図的に行ったことじゃないかと思う。そうでなければ、時間操作をできるような設定にしないし、時間操作をした時に、わざわざ住人に「さみしかったよ」と言わせたりしない。もし時間操作をしてもエラーを起こしてソフトが止まってしまうだろう。私以外の時間跳躍者の中に、そんなことを考えながらゲームをしている人はそういないんじゃないかと思うけれど、任天堂はユーザーにとんでもないことを経験させるものだなと思う。

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