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ほめられたい?

 最近、園のPTAの場などで女性たちに接する機会が増えた。

 彼女たちは、人を褒めたり、認めたりする言葉をとても沢山挟む。その人の服を褒め、子供の行動から美点をつかまえ、仕事の出来栄えに目を見開いて賛辞と礼を言う。

 そういう言葉を私も浴びることが増えた。というか結構沢山浴びるのだけれど、私はそれをちゃんと受け取れない。この程度で? 大げさじゃない? 誇張してほめてるの? と思ってしまう。文字にすると彼女らを否定するようなニュアンスが増えてしまうから具合が悪いんだけれど、私が隙間時間でささっとしたことに最大級レベルの賛辞をもらうと、もらいすぎだと思ってしまう。

 自分がその嬉しさをいまいち分かっていないから、人にも「すごぉいー! 助かったぁ」って気軽に言えない。これでも大人だから、そういう言葉を言うべきだろうということは分かる。だからなるべく伝えようとはするのだけれど、LINEのスタンプ、選ぶ副詞、言葉を発するタイミング、すべてが不自然な気がしてしまう。面と向かって言おうとすると棒読み感があって、どこか嘘っぽく感じる。呼吸するように素敵な誉め言葉を書ける/かけるメンバーの言葉と私の言葉には雲泥の差がある気がする。


 子供が幼稚園で絵を描いてくる、作品を作ってくる。それを私は去年のこの子、一昨年のこの子と比較して「すごい上手だね」と言う。その気持ちに偽りはない。

 けれど自分のことになると、卓越したプレゼンスを発揮できないと「すごい」と思えない。

 承認欲求という言葉がある。誰かに認められたいと思うことであり、その欲求を満たされると自分がこれでいいと思えるようになるらしい。

 私はその感情が全然分からなかった。自己否定的な感情が強いからなのかとか、私が幼いから、際限なく承認欲求を求めてしまいがちなのかとか、親に条件付きの愛しか与えられてこなかったから理解できないのか、現状に甘んじず常に動いていたい性格のせいなのかと、ずっと考え続けてきた。承認欲求がいつまでも満たされないせいで、人に迷惑をかけたり衝突したりするのではと思った。

 でも、私の問題は承認欲求云々ではなく、単に人生に求める達成度のレベルがものすごく高いってだけではないのかと思った。完璧主義だし、実際かなりのことを人よりうまくできると思う。先日は園の仕事で品物をラッピングする雑務があったのだけれど、それすら他のクラスの倍ほどの早さでやり終えてしまった。そんなことまでうまくできるんだ? とひそかに自分が可笑しかった。

 人間関係はからっきしダメだと思っていたけれど、思えばネットで色々傷付いたのだって初手では人と仲良くできたからだし、リアルでは最近よくランチするママ友ができた。なんだ、私もやればできるじゃないか。運動は多分今もからっきしダメだけど。

 私は、自分のことを器用貧乏とは思えど、「なんでもできる自分は凄い」とは思えなかった。たとえば手芸ひとつとっても、ミンネで売っているような人はもっと細部に気を遣って作っていて、私にはそこまで出来ないなと思う。私の出来ることは世間では平均を上回るレベルかもしれないけれど、どれも中途半端だ、と。やるなら「ミンネで売れっこになるレベル」にしたい。そして、全部の分野でそれをしたいのだ。すごく欲張りなんだと思う。

 でも、世間ではレベル云々関係なく、自分のできたことに満足し、それで幸せに生きている人が沢山いる。そうなれたら楽だよなあと思う。自分の力量を理解して、それで満足できて幸せに暮らすのが大人になるということ、という言葉は巷間に多い。

 自分の限界が分からないこと、もっと突き詰めなきゃと思うことは悪いことなんだろうか。……悪いことなのかもしれない。自分の中の獣を制御できずに落ち込んだり、盲いたままで人に縋ろうとするのは、自分も不幸だし人には迷惑なことなのだろう。

 でも、その獣も私自身である。その子を殺したら私の一部も死ぬのではないか。

 その獣は、農薬か何かを喰らって前後不覚に陥っていたのだけど、本質的には他者からの施しを求めているわけではないようだった。もちろん、他者から美味しい言葉を貰えばむしゃむしゃ食べるし、自分の毛並みの美しさをちゃんと自覚するために、少しは他者の存在が必要みたいだけど。巷では、皆褒められたいはずだって声が大きいから、自分もそうなのか、そういう欲がないと何かを目指す資格がないのか、なんだか具合が悪いなと思っていたけど、本来の私はそうでもないみたいだった。そう思いたいだけなのだとしても、そう思っていた方が今は楽だと感じる。

 どんな獣でも手懐けることはできるのではないかと思う。私の獣は以前山月記の虎だったが、最近はサーバルキャットサイズになってきている、と思う。イエネコまでになってしまうと、多分手懐けすぎ。普段は機嫌よくしてゴロゴロ寝ていていいけれど、ここぞというときには虎になりなさいよ、と彼には言っている。

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