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信州ルネッサンス2021 彌勒忠史・金子三勇士デュオコンサート

昨年は新型コロナウィルス感染拡大防止のために中止になった音楽祭「信州ルネッサンス」。今年はソーシャル・ディスタンスを配慮した屋外ステージでの開催でした。金子三勇士さんのステージは前半のソロ・リサイタルに加えて後半はカウンターテナー歌手の彌勒忠史みろく ただしさんとのデュオ・リサイタル。後半のプログラムがライブ配信されたため、筆者は配信のみ観覧しました。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。配信からしばらくしてから書いたため、おふたりのコメントの記憶違いなどあるかもしれませんがご容赦ください・・・。


プログラム

シューマン:詩人の恋
<アンコール>エルダーフラワー

<出演>
彌勒忠史(カウンターテナー)
金子三勇士(ピアノ)
信州国際音楽村少年少女合唱団

公演日:2021年6月6日 (日)信州国際音楽村
  配信:2021年6月6日 ~ 2021年7月10日(無料配信・お気持ちチケット制)


彌勒忠史さんと金子三勇士さん

彌勒忠史さんは声楽家・演出家。筆者は声楽のことは勉強が間に合っていないのですが、彌勒さんはかろうじてお名前を存じていました。というのも筆者が時々拝見している、有名音楽プロデューサーや第一線で活躍しているミュージシャンが音楽について語る「関ジャム完全燃SHOW」というテレビ番組に彌勒さんが出演されていて(レギュラーなのかしら?)声楽やクラシック音楽について楽しくわかりやすく紹介されているのを度々お見かけしていました。

2012年から信州国際音楽村の少年少女合唱団を定期的に指導していらっしゃるという彌勒さん。そしてこちらのホールのピアノを選定したご縁があり、音楽祭にもレギュラーで?出演されている三勇士さんという”信州つながり”のおふたりは、デュオとして共演されるのは初めてとのことでした(その他のご共演については後述)。テレビ番組にレギュラー出演される彌勒さんと、ラジオ番組の司会者であり、いつもコンサートやSNSで楽しいトークを聞かせてくださる三勇士さんの共演。音楽だけでなく、どう考えてもトークが楽しそうだと(笑)期待して当日を楽しみに待っていました。

余談ですが、おふたりは信州音楽村の目の前にあるというレストラン「ル・ポタジェ」のウェブサイトでも共演?されていますね。グルメな彌勒さんの胃袋とハートをがっつり鷲掴みにしたレストラン、カレー評論家?の三勇士さんが推すカレー!筆者は信州国際音楽村で三勇士さんのコンサートを鑑賞&こちらで食事という旅をBucket Listのひとつにしています!


ところで声楽とは?

クラシック音楽の初心者である筆者ですが、作曲家や作品、また楽器について学んでいく中で、声楽がもっとも未知の世界。これを機に声楽について、歌曲とオペラの違いとは?彌勒さんの”カウンターテナー”とは?など、気になることを少し調べてみました。(以降、出典は記事の最後にまとめて記載)

歌曲とオペラ

まずはクラシックの歌手は声楽家、オペラ歌手、テノール歌手、カウンターテナー…など、いろいろな呼び方があるなかで、声楽家はみなさんオペラ歌手とお呼びして良いのかという疑問が。

いくつか本を読んでみると:

声が主役となる楽曲を総称して「声楽曲」という。特に歌手がひとりの場合は「歌曲」と呼ばれ、基本的には歌手ひとりとピアノ1台の伴奏で歌われる。詩はイタリア語やドイツ語など原語で歌われるのが普通。

それに対して歌を中心とした大規模な舞台芸術がオペラ(歌劇)。ストーリーに沿って、登場人物に扮した歌手が演技をしながら歌う。台本は古典や伝説に基づくものもあれば、オリジナルの場合もある。主役は音楽だが、演劇的な要素(演出や演技)も美術的な要素(舞台装置や衣装)も重要な役割を果たす。

基本的には歌曲の伴奏がピアノというシンプルなものに対して、オペラは指揮者&オーケストラという大規模な構成。ただソロ・コンサートなどではオペラ曲を一部だけ切り抜き、ピアノ伴奏で歌うこともある。

ややこしいですね。つまり冒頭の疑問の答えは「全員がオペラ歌手というわけではない」ということですね。

リートとアリア

声楽曲を説明する時によく出てくるこの2つのワード。今回、彌勒さんも”ドイツ・リートを歌うなんて珍しい”といった表現をされていました。筆者はまだこの使い方がよくわかっていないのですが、単純に歌曲を「リート」と呼び、オペラ曲を「アリア」と呼ぶという区分けなのか?

少し調べてみると、「リート」とはドイツ語で「歌」という意味であり、独唱で歌われる曲。「アリア」はオペラなど大規模な作品の中で独唱される曲とのこと。ただその発祥の国以外の作品はどう呼ぶか、混乱しませんか??イギリスやフランスのオペラや、逆にロシアやイタリアの歌曲もあるようですが・・・?筆者の宿題です。

声域:カウンターテナー

そしてカウンターテナーとは、男性が裏声(ファルセット)や頭声を使って、女声パートの音域を歌う(声域は主にアルトやメゾソプラノと同じだが、ソプラノの音域を出せる歌手もいる)。オペラよりも宗教曲やソロで活躍する歌手が多い。

ということで、17世紀のイタリアの歌曲を歌うことが多いとトークでご紹介されていた彌勒さんは、オペラというよりは主にバロック時代の歌曲をソロで歌う方ということでしょうか。


プログラム

シューマン:詩人の恋

選曲

さっそく期待通りにユーモアある語り口でお話くださるおふたり。

演目はせっかく三勇士さんとの共演ということで、ピアノが綺麗な歌曲をという彌勒さんの提案だったとのことですが、これが周りを驚かせる選曲で、あちこちからツッコミが入ったという(笑)。彌勒さんはまず歌手仲間から世界的コンサートピアニストである三勇士さんの伴奏で歌えるという贅沢を羨ましがられ、また基本的にイタリア語の曲をレパートリーとするなかドイツ・リートをピックアップしたことにどよめきが起きていたようで!

イタリアで音楽を勉強され、NHKラジオでイタリア語の講座を担当されたり語学に堪能な彌勒さんですが、その原曲の言語を話せるかどうかという、クラシック歌手の間では一般的な問題があるのだそうです。その歌詞を美しく歌えるというレベルでは不十分で、会話ができるレベルでないと歌は歌えないと考える歌手もいるのだとか。え、歌っちゃいけないの?とおちゃめに語る彌勒さん(笑)そんな彌勒さんのドイツ・リートを拝聴できる貴重な機会に立ちあえるとはラッキーです。

さて、ピアノが綺麗な曲という話に戻ります。

ロベルト・シューマン

シューマンは1810年ドイツ・ツヴィッカウ生まれ。ということは、なんとドイツにシューマン(1810年)、ポーランドにショパン(1810年)、ハンガリーにリスト(1811年)がほぼ同じ年に生まれているという、ピアノ界のアイドル黄金期!(笑)シューマンも幼少のころからピアノの才能があり、はじめはピアニストを目指していたが指の故障により断念。そういえば奥様のクララもピアニストとして成功した人ですし、そもそもふたりが出会ったのはシューマンがクララの父親にピアノを習っていたから。ショパン・リストと交流があったかどうかとても興味がありますが(まだ調べていない…)幅広いジャンルの作曲をしたシューマンは、その中でもピアノ曲や歌曲で著名になったのだそうです。

詩人の恋

ハインリヒ・ハイネの詩につけたこの曲は、シューマンの最高傑作のひとつと言われています。シューマンは幼少のころから読書好きで、文学者・詩人としても才能があり、大学進学時は文学の道に進むか、音楽の道に進むか迷うほどだったという。(結局、安定した収入のために公務員を目指して法学部に進むという裏メニューを選び(笑)パガニーニのバイオリンに衝撃を受けて音楽の道に戻る)彼はハイネが大好きで、18歳の時に実際にハイネを訪ねて南ドイツに旅行したのだといいます。

筆者にとってシューマンと言えば、有名な「ミルテの花」という歌曲集。その中の「献呈」のピアノ版は泣く子も黙る三勇士さんの素晴らしい演奏で馴染みがあります。シューマンはこの曲を捧げた妻との結婚後、音楽家としての絶頂期を迎えており、「詩人の恋」もその時期に作られています。コンサートの中でも「シューマンがハッピーだった時代に作られた愛に溢れた曲」と紹介されていました。

ピアノが得意だったシューマン。「詩人の恋」はメロディだけで雄弁にドラマを語るような曲であり、ピアノが堂々と歌い上げるような特徴があるとのこと。曲の最後はピアノの独壇場??とでもいうように、伴奏という領域を越えるような長い長い独奏で終わりました。

演奏と解説

16の短い歌から成るこの歌曲を、それぞれを3~4個ごとにまとめて解説を挟んでくださる、初心者想いの流れでコンサートは進んでいきました。

ひとりの青年が恋をし、その愛の喜び、失恋の痛み、過ぎ去った青春へのはかない郷愁を時系列で描いているこの曲。最初はうきうき浮かれており、次もハッピーは続きながらだんだん雲行きが怪しくなり、失恋、いったん強がり、また落ち込み、最終的には穏やかな気持ちで過去を懐かしく思い出すというストーリー。会場では彌勒さんが翻訳された歌詞が配られていたようです。「今は若くて美しいけど数年後は知らないぞ」とか「ドラマでいったら”あれから数年後”というかんじですね」など親しみやすい日常会話の言葉を使ってわかりやすく、なんとも笑いを誘うおふたりの解説で、次の展開が楽しみで仕方ないという気持ちで聴いていました。

そしてこの日の三勇士さんのピアノが強く印象に残っています。とても抒情的にストーリーを語っていて、今にも声に出して歌い出すのではないか、またはまるで役者になって演じているかのようでした。コンサートの数日前に、この曲の美しさに魅了されているとSNSで発信されていた三勇士さん。心から美しさを楽しんでその世界に没入しているような、これまでに見たことのない表情をされていたように見えました。だいぶ深くシューマン沼にはまっていらしたのだなと思わせるものがありました(笑)。

演奏の間に絶妙なタイミングでピヨピヨっと鳥が合いの手を入れていました(笑)信州の鳥は歌心がありますね!?


<アンコール>エルダーフラワー

アンコールで戻られた三勇士さんと彌勒さんがステージにご紹介したのは、おふたりにゆかりのある信州国際音楽村少年少女合唱団のみなさん。彌勒さんは前述のとおり定期的に指導にいらしており、三勇士さんは2018年に初めて合唱団と共演。2019年には合唱団x彌勒さんx三勇士さんのジョイントステージがあったようです。2019年はハンガリーと日本の外交関係開設150周年記念の年だったことから、三勇士さんのアイデアでハンガリーの民謡をハンガリー語で歌う試みとなり、そのときの演目がこの「エルダーフラワー(Bodzavirág)」。三勇士さんご自身が合唱団に歌とハンガリー語の指導をされたそうです。そのときの指導の様子や、彌勒さん・三勇士さんのインタビューが紹介されている動画を貼ってみます。

全部がハイライトというような16分30秒ほどの動画ではありますが、とーってもお急ぎの(笑)三勇士さんファン方は、かっこいいハンガリー語と優しい”三勇士先生”の顔が見えるのはこのあたり(7:37頃)です!


最後に

筆者にとってまだまだ遠い存在である声楽。馴染みのないはずの歌曲、このコンサートを聴いて強い高揚感と興奮を感じた自分に驚きました。三勇士さんのこれまでに観たことのないピアノに引き込まれたのは大きいですね。新たな一面を拝見した気分でした。

それにしてもおふたりのクスっと笑える安定感あるトークはいいですね~。話の内容もおもしろいのですが、おふたりともイケボで聴きやすい声なのですよね。いつまでもお話していて欲しかったです(笑)いつかまた共演が実現したときのために、もう少し歌についても学んでおきます!

ちなみに、彌勒さんはnoteアカウントも持っていらっしゃることに気づいたのですが、アカウント名「裏声菩薩」って!溢れ出るユーモアセンス・・・(笑)。


出典

「マンガで教養 はじめてのクラシック」飯尾洋一 監修 朝日新聞出版

「クラシック名曲全史 ビジネスに効く世界の教養」松田亜有子 著 ダイヤモンド社

コトバンク: リートとは アリアとは

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