市井 里花(ichii-rika)

書くことが趣味で、今まであれこれ書き溜めてきました。友人にnoteというものがあること…

市井 里花(ichii-rika)

書くことが趣味で、今まであれこれ書き溜めてきました。友人にnoteというものがあることを教えてもらい、思い切って公開してみることにしました。誰かが見てくれるかもしれないと思うとワクワクするものですね。いい歳した中二病の独り言のような文章ですが、お読みいただければ励みになります。

最近の記事

【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第一話)

Part1 イセザキ・モールの片隅で  それは横浜・伊勢崎町の商店街、イセザキ・モールが一年で最も賑やかになるクリスマス・イブのこと。朝から小雪がちらほらと舞う、それはそれは寒い日でしたが、通りを行き交う人はみな着飾り、表情は華やいでいます。  あたりが薄暗くなるとイルミネーションが点灯され、ハートの形をした真っ赤な光と、雪の結晶の形をした白い光が通りを彩ります。夕暮れどきともなりますと、いよいよ雪が降り始め、親に連れられて、この通りにやってきた子どもたちは、みなたいそうな

    • 【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第七話/最終回)

      Part7 伝説の女  ランタンの炎が消えて、あたりを見渡すと、福富町仲通りはすでに明け方でした。真冬の寒さは確かに堪えましたが、あれほど降っていた雪はすでにやみ、結局は積もらずにすんだようです。救急車かパトカーか、あるいは消防車なのかよくわからないけれど、グランピングテントのなかで微かに聞こえたサイレンはけたたましい音に変わり、近くでリアルに鳴り響いています。梨々子はどこかで自分が行き倒れているのではないかという不安に襲われ、動悸が激しくなり、呼吸が苦しくなりました。今こ

      • 【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第六話)

        Part6 森の夜のお話  梨々子は間髪をおかずマッチ箱から最後の一本を取り出してレンガの壁に擦り付けました。雪で湿ったレンガではなかなかマッチに火がつかなかったのですが、形相を変えて何度も壁を擦り、ようやく火を灯しました。  すると今度は再び琢磨のスープラに乗り、夜の高速道路を直走っている光景に出会いました。   右手に見える成田国際空港は、離着陸する飛行機のライトが点滅し、滑走路の誘導灯が光を放ち、まるでよくできたジオラマのように見えました。やがてスープラは、空港を通り

        • 【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第五話)

          Part5 ハイウェイ・スター  元のビルとビルの隙間に辿り着き、慣れた手つきでマッチを壁に擦ると、今度は目の前に見るからに上質なスーツを着た50がらみの男性が現れました。ところがビジネスマンらしからぬ肩にかかるほどのボサボサの長髪で、シワの目立つ顔には無精髭まで生えているではありませんか。 「若林さん?」不審げに梨々子が尋ねると男性は、指でピストル型を作って梨々子を指して「ビンゴ!」と笑いながら答えました。 「そのリアクション、やっぱり若林さんだ。変わってないわね」  梨

        【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第一話)

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第四話)

          Part4 陽の当たるリビング  シュッとマッチを壁にこすると、炎のなかに見えてきたのは、白くて広いリビングでした。壁一面のガラス窓からはレースのカーテン越しに柔らかな光が差し込んでいます。天井も壁も、L字型のソファもセンターテーブルも、片隅においてあるグランドピアノも、すべてピカピカのホワイトカラーで統一されています。 「え、これがうちなの」と目を丸くしているのは、小学校2、3年生くらいの年頃の梨々子でした。そんな子ども時代の梨々子をどこからともなく見つめる中年の梨々子。

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第四話)

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第三話)

          Part3 居心地のいい女  梨々子はまた一本、マッチを擦りました。シュッと明るい火花が散って、今度は目の前に十二月大歌舞伎 昼の部の演目「男女道成寺」の華やかな舞台が現れました。満開の桜が描かれた背景画の前には真っ赤な緋毛氈が敷かれ、上段には裃を着た長唄の唄方と三味線方、下段には同じく裃姿の太鼓・大鼓・小鼓・笛の囃子方といった長唄囃子連中が並び歌舞伎音楽を演奏しています。さらにその前では、金の烏帽子を被り、赤地に大胆な花模様が描かれた振袖を纏った白拍子花子と白拍子桜子が優

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第三話)

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第二話)

          Part2 クリスマの準備  イセザキ・モールから通りを2つ過ぎると、人かげもまばらな福富町仲通りがあります。クリスマスだというのにイルミネーションなどの装飾が見当たらず、すぐそばにあるイセザキ・モールの賑やかさが嘘のようです。なんとも寂しげなその通りまできた女性は、4階建ての雑居ビルと3階建ての雑居ビルの間の小さな隙間に入り込み、トートバックのなかから先ほど手に入れたマッチ箱を取り出しました。外箱には赤色の背景に黒線でコンドルが描かれています。中箱を引き出すとマッチがたっ

          【大人のファンタジー小説】マッチ売りの女の子(第二話)