清野栄一 がんノート

作家、小説家。福島県信達生まれ。

清野栄一 がんノート

作家、小説家。福島県信達生まれ。

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最近の記事

触覚の事

 手術の事、と、術後の事、を書こうと思い書斎の机に座っている。  あきらかに体調が悪いのか。何かがおかしい。身体がじっとり汗ばんでいる。エアコンの温度を確かめる。息をしてみる。深呼吸をしてみる。原稿用紙を一瞥する。 「血痕の事」  首筋の血管をのばしてみる。 「右側にできた右側の事」    左右にねじって振り返ってみる。 「尿道の事」    立ちあがって握り締めてみる。 「傷口とドレーンの事」  顎を引いて傷口ごと縮めてみる。 「刃の切っ先。NAKEDLUNCH

    • 八月十三日 原型と SO WHAT? の事

       とある友人と電話をしていた。  井筒俊彦の絶対無分節と共時的構造の事  ロカンタンの嘔吐の事  真言(宗)と即身仏の事  浮動するシニフィアンとシ二フィエの結合と分離の事  西田幾多郎の事  丸山圭三郎の事  禅と絶対性と死の事。 「原型がないまま進んでいるとでもいうのだろうか。この先はちょっと苦手な感じだが…SO WHAT?」    

      • 八月十三日 虚体と身体 の事

         手術前の検査を受けた。外科の執刀というのはやはり体力がなければ務まらない仕事であるのだろうとあらためて思う。  旧患部にある壊死した骨の塊をなんと呼んでいたのか? 説明を受けたはずだが思い出せない。マジックペンでマーキングをしてもらいながら、生検をしたのは少し上のところだったのだと思いあたった。  帰り際に菓子折を渡しながら、両親の葬儀といい、己の世事の疎さを想わずにはいられないのだが、多くの医者というのは、かくも紳士的な人ではあるのだろう。 「君みたいに」  病室に戻

        • 八月十五日 大事に至らず の事

          おかげさまで、大事に至らずでした。 主治医から連絡を受けた妻によると……、 細胞診に活動はみられず、神経も血管もそのまま残し、疑いのあったリンパ節と石灰化した旧患部のみ、切除した……、 とのことです。 手術の傷はテープで覆われていてよく見えませんが、マーキングの痕跡よりも小さなものが耳の下から旧患部にかけての一筋でした。深度も浅いような気がしています。 培養結果(根治)はまだですが、右耳の皮膚感覚がないのと、右目の瞬きに若干違和感があるぐらいで、今のところ目立った副反応もあ

          おはよう!

          「君か! やけにはやいな」 「世の中休暇で空の上だ。今日も今日が来てるぞ!」

          こんばんわ

          XXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXX おん身 大せつに して ください  

          いつの時代のどこの話だ?

          いつの時代のどこの話だ?

          いつの時代のどこの話だ?

          メイト!

          なにをいまさら、おまえよく間違ってばっかじゃないか? メイト!

          あと3時間11分で終わる1年後の8月12日

          入院の準備をしていたら面食らった。 久方ぶりに開いたノートパソコンの画面を見つめると、 ちょうど一年前の俺がいる。

          あと3時間11分で終わる1年後の8月12日

          がんノート 「信達」抄

          輸血を受けて病棟に戻るまで、はっきり覚えているのは細切れの記憶。 死ぬ間際に見るのは、白い天井じゃなくて、オピオイドの濃淡。 劇的じゃないどころかヤク漬けで一日たっているよりもなにも起きない。 最初に正気を取り戻したのは股間と放尿。 カテーテルを見に来た看護婦さんはかわいい人。 灰色がかった天井。大きなステンレスのドア。右手にスタジオのようなガラス張りの部屋。 スタジオのような窓。俺のデータは見張られている。 殺風景な部屋にあるはずの大量の生命維持装置は一切見えない。 ドアの

          がんノート 「信達」抄

          信達譚 霊山

          俺は母を捜していた。もうだいぶ長い間だ。 今ならはっきりとわかる。母が俺を捜していたのだ。 二〇一四年のメールを読み返した。  何度も失礼いたします。姉からよくよく話を聞いたところ、母親がこの寒い中を、『チェルノブイリⅡ』に登場する「エックス山」の原風景として僕が小説の中に書いた霊山まで、先週から何度か歩いて出かけていったようなのです。数時間もかけながら。  愕然としたと同時に、自分が生まれ育った山のふもとへ歩いていった母の記憶と現実は、自分が書いていることそのままではな

          井筒とバタイユの事

          二人の書籍から引用した本を出している作家として、 何冊か読み返してみました。 井筒にある絶対無文節がバタイユにはなく、 バタイユにある邪悪さが井筒にはなく、 されど、どちらも、「思弁的」で、 セリーヌでもバロウズでもありません。

          井筒とバタイユの事

          NOTEの事

          NOTEってNOTEのコーチ屋だらけなの?

          信達譚 いい電

           おふくろが救急だ。まだ詳細不明だ。高速で渋滞はまってるよ。あの病院だと思う。  こころ穏やかに、とはいかないけど、福島に着いたらすぐ見舞いだな。  見舞いの前に事故ったりしたら元も子もないと思いながら飛ばしていると信達に着いた。  病院に直行すると無事に面会はできた。意識もあったんだが、俺は面食らっていたんだ。病室にずっといることもできなかったぐらいだ。  集中治療室にいる自分を見ているようだったから。  時間の問題なんだろう。己のことはわからないからな。週明けまでは福島に

          がん後うつ の事

           他人の病気の話ぐらい退屈なものはないというのに、いろいろどころか、三十分おきに付き合ってくれて、感謝してもしきれないよ。 今日もおなかいっぱい「食べて」ます。  まずは体力の回復が仕事になっちゃったから。  嚥下のYOUTUBE観てたんだ。今頃になって。 (リンク入る)  身体ってかくも複雑だね、体重もやっと増えはじめてきたんだよ。  なんか毎日ひたすら、食べる>歯磨き の繰り返しで、うつっぽいんだ。  徒労感がこみあげてきた。 退院したらこうなるのはわかってたが。今日

          『与えられた数より小さい素数の個数について』 の事

          「君が素数をノートに書きはじめたのは小学生の時だ。経済学を学んだ君に、流体力学におけるベルヌーイの定理について、説明はいらないはずだ。  リーマンによると数は2からはじまることになっている。君はそれを1から書きはじめたはずだ。十九世紀の天文学者のようにね。  君の母親が迷子になった場所はわかっているの? 女神山の近くだったと書いていたじゃないか?  君がはじめて散弾銃を撃った山のすぐ近くだよ」  猟犬を連れて父と雪山にはいった時だった。父の真似をして散弾銃を構え、銃口の先端

          『与えられた数より小さい素数の個数について』 の事