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山田詠美『賢者の愛』・谷崎潤一郎『痴人の愛』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2018.04.14 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

谷崎潤一郎『痴人の愛』に真っ向から挑んだ話題作、山田詠美さんの『賢者の愛』が文庫になっていたので、改めて両作品を再読。

『賢者の愛』の裏表紙には、

幼い頃からの想い人、諒一を奪った親友の百合。二人の息子に『直巳』と名付けた日から、真由子の復讐が始まった。二十一歳の直巳を調教し、“自分ひとりのための男”に育てる真由子を待つ運命は-。

とありますが、もちろん、そんな簡単な話ではありません(笑)。

(ちなみに、2016年にwowowでドラマ化されていましたが、衝撃のストーリー展開に重きを置いている作りで、『痴人の愛』を下敷きにした故に出てきている『賢者の愛』の味や面白みの部分はドラマには描かれず残念でした。)

(ネタバレにならない範囲で……)
谷崎の『痴人の愛』での「譲治とナオミ」の関係にあたる関係がいくつも、何重にも織り込まれていて、一筋縄ではいきません。真由子・直巳・百合・諒一、そして真由子の父など登場人物は、一直線には繋がらず、それぞれの中に、いくつもの「譲治とナオミ」的関係を見いだすことができます。そして、敵対(!?)関係にある真由子と百合の関係にさえ、どちらがどっち……と考えられる要素が……。

しかも、『賢者の愛』の冒頭では『痴人の愛』について、「二人でひとつの痴人という生き物。その下等動物にも似た生態から生み出される愉悦を描いた傑作」とあり、題名の「賢者」の意味とは……など、考えどころも満載です。山田詠美さんの術中にはまりながらも、読者がそれぞれに、自分の見つけた「譲治とナオミ」的関係に答えを出す楽しみを味わえる作品です。

余談ですが、『賢者の愛』には『ぼくは勉強ができない』の時田秀美くんが大人になって登場していて、大の山田詠美ファンの私としては別の意味でも楽しめた作品でした。