島本理生『ファーストラヴ』
第159回直木賞受賞作品で、来春には映画化も予定されている島本理生さんの長編ミステリー『ファーストラヴ』。
裏表紙の紹介文とタイトルの『ファーストラヴ』とに、好奇心的違和感を持ちながら読み始めましたが、伏線に次ぐ伏線……という感じのストーリー展開で(伏線だけで出来た小説と言えるくらい)、この伏線がどう繋がっていくのか気になり続け、最後まで一気に読み進めました。
物語では、容疑者の環菜だけでなく、主人公の由紀や弁護士の迦葉をはじめとする登場人物たちそれぞれが抱えるトラウマがどんどん明らかになっていきます。環菜の事件を中心に据えながら、父子関係、母子関係の歪さが生んでいく闇のようなものが多方向から描かれていく小説でした。
自分の不快や恐怖はそっちのけにして、大人の期待に応えることで生き場所を確保してきた子供であった環菜。彼女を苦しめていたのは父なのか、母なのか、それとも……。彼女にとってタイトルとなった「ファーストラブ」の意味するものがなんとも切ない。そして、一番の闇を抱えていた人物が分かる結末まで……、心が折れそうになるばかりの展開が続きます。
その中で唯一の救いが、主人公の夫である、心を開かせる報道写真家・我聞でした。人の変われる可能性を信じる我聞の包容力。完璧ともいえる我聞の癒やしが存在することで、環菜だけでなく、主人公自身が変えていこうとしてる今に、読者である私も安心して寄り添うことができた気がします。一番番魅力的な我聞のお陰で、ミステリー要素だけでなくヒューマンドラマの要素を感じられた小説でした。