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東野圭吾『流星の絆』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.05.14 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

息子の本棚から拝借して、久々に東野圭吾さんの小説を手に取りました。

幼い頃に両親を惨殺され施設で育った三兄妹の復讐劇! 「この世は騙すか騙されるかだ」という現実を突きつけられた兄妹の選んだ詐欺という生活手段! 復讐相手の息子への妹の恋心! これらのミステリーを盛り上げる要素が絡み合っていくので、一気に読み進めていきました。

早い段階で、被害者であるはずの三兄妹が、詐欺を働く犯罪グループだと分かるので、本書がただの復讐劇とならないだろうことが予想され、待ち受ける結末にさらに興味がわきました。また、三人だけでなく、ほとんどの登場人物が、何らかの影を持っている……というのも、ミステリーの要素を強める以上に、主人公達の詐欺を、「悪」という視点だけで見ずにすむことに一役買っていたように感じました。誰だって後ろ暗いところがあるのだ……、と! そしてまた、唯一影のない「人間の奥に潜む悪意に触れたことがな」く、彼らに「罪悪感」を感じさせる人物を描き、その彼に妹が恋してしまうことで、結果的に三人の未来が変容していくという結末も印象的でした。

読後、思わぬ所にいた犯人には驚きましたが、何より、「流星の絆」という儚く消えていく「流星」に「絆」を取り合わせるタイトルが、胸に迫ってきました。自分たちを、「あてもなく飛ぶしかなくって、どこで燃え尽きるかわからない」「流星」だと感じながら、そこにある「信頼」という名の「絆」だけを拠り所に生きてきた三人。本書の「流星」とは、彼らが自身に重ねていた「どこで燃え尽きるかわからない」儚さを象徴したものなのではなくて、真っ暗な夜としか言えないような人生の中にあって、一瞬だけれども光を与えてくれる煌めく存在としてあり続けた彼ら自身の確かさを表わしているのかもしれないと感じました。そして、また、そこに新しい流星として妹の恋する彼が加わるのでしょう。

本書は2008年に、脚本を宮藤官九郎さん、三兄妹を二宮和也✖錦戸亮✖戸田恵梨香さんで、ドラマ化されていたと知りました。視聴率が20パーセント越えの人気ドラマだったとのこと。とは言え、ドラマのテイストは、東野圭吾さんのシリアスな空気感とは随分違いそうです。クドカン色の別物としてドラマも気になり始めています。