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天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.12.29 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

10月に参加した「『巡礼の家』刊行記念イベント【天童荒太 ふるさとを語る】」のイベントで印象的だった話の一つが、『ムーンナイト・ダイバー』制作秘話でした。天童荒太さんは、4年たって被災地を訪れた時に、年月とともに復興という明るい報道へと変わっていく中にあって、そうではない人がいる現実につきあたり、言葉では言い表せないショックで呆然とされたとのこと。そして、「『悼む人』を書いた人間として」何ができるのかと問い、「失われたものがどれだけ尊いか」を書こうとしたのが『ムーンナイト・ダイバー』なのだそうです。

震災で兄を亡くしたダイビングのインストラクター・舟作は、立入禁止のフクシマの海域に潜って海底に残された遺品を探し出す仕事を請け負っています。しかし、彼の仕事は非合法のため、明るい月の出ている夜しか潜ることができません。罰せられるかもしれない危険をおかしながら、周作がなぜ潜るのか。そこに、親しいものが行方不明のままで先に進むことができず、せめて何らかの印をほしがっている依頼者グループの人々の思いが交錯していきます。

自分が生きていることの後ろめたさを抱える舟作。なぜ災害が起こったのか? なぜ自分が残ったのか? 不公平な中で、なぜ人は生きていかなければならないのか? 自分が果たさなければならない役目とは? 舟作の問いは、生かされている私たち読者それぞれの問いでもあり、また、私たち自身が舟作と共に問われている、そんな作品でした。