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ドナルド・キーン『正岡子規』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.09.16 Monday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

9月19日の子規忌ももうすぐです。

数多く出版されている正岡子規の評伝の中から、今年亡くなられたドナルド・キーンさんの『正岡子規』を手に取りました。日本と日本文学をこよなく愛し、2011年3月の東日本大震災の後、日本に帰化されたことでも知られるキーンさんですが、彼が捉える子規像がどんなものなのか、興味深く読み進めました。

子規や子規作品への深い造詣から書かれている本作は、幼少期から最晩年までを追っていく中で、子規を理解するのに外せないオールスターが登場します。また、引用される文献はすべて口語訳付きで載せられていて、明治の文体になれていない読者にとっても読みやすく、子規の生涯を詳しく知ることができます。

また、キーンさんならではの解説に意外なものが多くて面白く、

・子規は英語力がないと繰り返し述べているが、実は手厳しいものではなく、眉に唾して読んだ方がいい。
・母八重にとって、俳人および歌人といての子規の輝かしい経歴は何の意味もなかった。
・子規は自分の詩人としての仕事について、母や妹に一度も話したことがなく、その重要性が二人には理解できないという結論を下していた。
・子規は蕪村が芭蕉よりも優れていることを証明しようとしたのではなく、芭蕉の「消極美」と蕪村の「積極美」という芸術の世界における二つの美の型を発見しただけである。
・崇拝者的な弟子だけでなく、子規の死後その欠点を非難した若尾瀾水の例もあるが、弟子たちは「一つの革命に参加したという興奮を感じていた」。
・子規の功績によって、俳句や短歌を作ることが現代の世界にいきる経験を語るようになった。

などの指摘などは、ハッと驚かされました。

子規への称賛だけでなく、批判の声なども冷静に分析しながら、日本の伝統文化が危機的状況にあった時代において、「写生」という新しい手法で、俳句や短歌を国民的文芸にまで高めた革命児子規が淡々と描かれた評伝でした。