見出し画像

天童荒太『巡礼の家』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.10.13 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

松山人であることの誇りを持てるような小説でした。

道後への、そして、四国八十八カ所を支えるお接待の精神への愛に満ち溢れていて、巡礼の家「さぎのや」で癒される登場人物たちと共に、読者までもが癒されていく、そんな作品です。そして、魅力的な登場人物たちの登場するストーリーを、純粋に面白く楽しみました。

生きとし生けるもの全ては、「何かしらの役割を背負い、親しい者たちの死を抱え、みずからもやがては死なねばならない、哀しくて切ない旅の者」である。そんな私たちの羽を休める場所として存在し続けてきた、3000年の歴史を重ねる「さぎのや」。日本最古の湯・道後温泉を見つけたサギが、初代の女将だったと言われる「さぎのや」の、人々の悲しみやつらさを受け止めてきた「心」が、「一人のために、みんながおのれを犠牲にして汗をかく」道後の粋と重ねて描かれていきます。

登場人物たちの抱える問題に、戦争、災害なども盛り込みながら、「命の大切さ」「共に生きることのかけがえのなさ」が静かに描かれる一方で、道後の「動」の象徴でもある秋祭での大神輿の鉢合わせの「命の限界を超える勢いでぶつかることで、生きていられることを祝い、喜び、天に向かって感謝を捧げ」る勇壮さも迫力で迫ってきます。

「互いに手を差しのべ、助け合うことで、みんなが共に笑って生きている」道後。命が巡り、人の思いが巡る道後。改めて、道後を散策してみたい気になっています。


『巡礼の家』刊行記念イベント【天童荒太 ふるさとを語る】
が10月20日(日)松山市立子規記念博物館にて開催されるようです。天童荒太さんがどのような「ふるさと」を語ってくれるのか、今から楽しみでなりません。