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河合俊雄『ユング 魂の現実性(リアリティ)』~現代思想の冒険者たち03~

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2018.07.14 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

哲学者の池田晶子さんが、著書『人生のほんとう』の中で、「ラジカルで面白い」ユング心理学者として紹介していたのが、河合俊雄さん。父・河合隼雄さんが、文化庁長官という立場にあったことを引き合いに出しながら、

そういう制約の全然ない人が魂の事柄に入り込むと、ああ、なるほどこうなるのかというぐらい、完全に狂気に入り込むことができる。狂気という言葉はもちろん、私にとっては最大の褒め言葉ですけど。(笑)非常に面白い経験でした。

と。また本書については、

それがとても読みやすくて、また不気味でよかった。おすすめします。

と。ということで、全くご縁のなかったユング心理学を!

まず驚いたのが、「心理学が自然科学とも哲学とも違う」点として、「心理学的な事実、ファンタジーを扱う」としているところでした。神経症に適応していくためには、「現実を造りだし、ひいては神経症を作り出しているファンタジーをいかに見抜いていくかが問題」とのこと。「現実性とは人の魂の活動によって、ファンタジーの働きによってしか与えられない」、それならば、その「魂」とは…という本書。

「自我」「自己」「個性化」「無意識」「結合」「錬金術」などのユング的キーワードはもちろん、フロイトとの決別を盛り込みながら、ユング心理学にどっぷり浸ることができます。なぜ心理学に「錬金術」? との素朴な疑問も、錬金術で生み出した物質ではなくて、その「作業における心理学的な過程に注目」しているのだと分かると納得です。魂の生み出した全てを現実のものとして受け止めていくユング心理学が分かりやすく解かれていきます。

それにしても、ユングが実際に見たという「夢」や「幻覚」の数々に驚きます。3、4歳の頃の夢でさえ、私自身には一生かかっても絶対に見られないような象徴的で、おどろおどろしいもので……。オカルト現象を現実のものとして受け止めるあり方ともあいまって、やはりユングだからこそたどりつけたユングの思想なのを実感した評伝でした。