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乾ルカ『コイコワレ』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.07.20 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

朝井リョウさんの『死にがいを求めて生きているの』伊坂幸太郎さんの『シーソーモンスター』薬丸岳さんの『蒼色の大地』に続いて手に取った「螺旋プロジェクト」8作品のうちの昭和前期編です。

「海族」と「山族」の対立構造を描く螺旋プロジェクトですが、これまでの作品が、主人公たちを描いていく中で、世の中の対立構造を浮かび上がらせていくような手法だったのに対して、『コイコワレ』は個人対個人の対立に主軸をおいた作品でした。対立の結果生まれた戦争という状況を背景にしながらも、清子とリツという二人のお互いへの嫌悪の感情と二人の成長物語が中心に語られていきます。

これまでの4作品の中で、一番「螺旋」について言及されている作品で、「中心へ収束」し「一点に集中していく線」が、即ち「逆に外へと拡散していく」力でもあるという把握の仕方が、清子とリツがお互いに嫌悪しながら受け入れようと努力する心の渦巻きや、彼女たちが変わろうとする中で得ていく心の解放を象徴しているところが印象的でした。対立がどんどん深まり、逃れられないものとして争いという形に集約していけば、あとはコワレて外へと開放するしかないという、作者のメッセージのようにも感じました。

全ての章に逅・恋う・紅・乞う・光……と「コウ」と読める字があてられていたのも興味深く、では、タイトルの「コイコワレ」にはどんな漢字があてられるのか……考え込んでしまいました。恋・恋い・濃い・乞い・請い・故意……、恋われ・壊れ・毀れ・乞われ・請われ……。それぞれどの組み合わせでも当てはまりそうで、また、どの組み合わせ方からも作品中の対立の生み出す何かを暗示しているようなタイトルだなと、読み終わって改めて感じています。