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消せないフォルダ ~恋文の日を前にラブレターの思い出話をしよう~

あれはもう15年も前の話。
私が自分史上もっとも「身軽」だった2006年のこと。
あれがきっと、「人生で3度ある」と言われる「モテ期」なるものが私にも訪れた時期だったのだろうと、今でもそう思っている。

ある方からお誘いを受けて足を運んだ、とあるイベント会場のブースで、たまたま居合わせて名刺交換した全く初めましての男性。便宜上、Aさんとしておく。
もし、私の到着が2~3分ずれていたら、出会うことがなかっただろう。

私は正直なところ、あまり印象に残っていないというか、よくある名刺交換の1シーンでしかなかった。
しかし、Aさんはそうではなかったらしい。

当時は、名刺交換した人に対して、手書きのお礼状を出す人がそこそこいた時代。
私は自分の名刺に、自宅とは別の住所を記載していて、名刺の住所へは毎日行っていたわけではなかった。

このブースで出会ったAさんは、すぐにお礼のハガキをくださっていたらしいのだが、郵便物を週に1回ペースでまとめて確認していた私は、その事実に気づかないまま数日が経過した。

約1週間後、Aさんからゆっくりお話がしたいとのメールが届いた。
私から何ら返事がないことを怪訝に思われたのだろうか。
それにしては、かなり前のめりな文面だった。
※個人が特定されないよう、念のため固有名詞の他、日付・場所についても伏字にしておく。


件名:お話など如何でしょうか?

こんにちは、●●の▲▲です。
××ではお世話になりました。
お忙しいこととは存じますが、一度ゆっくりお話させて頂きたいと思い、メールをお送りしました。如何でしょうか?
もしよろしければ、近々のご都合などいくつか挙げてください。

ちなみに当方は、●日か●日を希望します。場所は大阪でも、京都方面でもどこでも結構です。差し支えなければ事務所までご訪問させて頂きますので、お好きなところをご指定下さい。
ご検討のほど、宜しくお願い申し上げます。

ブースでは名刺交換して、挨拶の延長程度の会話のみ。話が盛り上がった記憶は全くない。

とはいえ、よくあるマルチビジネスの勧誘系に感じる、あの独特の空気感はとは明らかに違う。
「この人は、私といったい何を話したいのだろう?」と不思議に思いつつも、Aさんの業種が私の興味関心と少しばかり重なる部分があったため、まぁいいかなという気がして、メールのお返事をした。
そして、後日、ランチをご一緒することとなった。

ランチのお約束をした当日、郵便物の確認に行った私は、そこで初めて名刺交換のお礼を記したハガキが届いていたことを知る。

ランチをしながら、ハガキに気づくのが遅れたことを詫びると、Aさんは

「普通はお礼のハガキに返事がなかったからといって、しつこくメールを送りつけたりしません。でも、あなたにはどうしてももう一度お会いして、話がしたかったんです!
だから、祈るような気持ちでメールを送りました。お返事がもらえて、本当にホッとしました」

と言われた。

え? 何コレ? 告白??
いやいや、新手の営業トーク??

そんなことを心の中で思いながら、ランチの制限時間が来たので店を出て、近くのカフェでお茶をした。
これからしていきたいと考えていた事業の話をたくさん話した。

2日後、Aさんから和紙の封筒に入った丁寧なお手紙が届いた。ランチをご一緒したお礼らしい。

便せん2枚に渡って、美しい文字で丁寧に綴られた文面からほとばしる、興奮と親愛が入り混じったAさんの想いが、どこかへ置き忘れたままになっていた私の感情の扉を激しく揺さぶり、胸をざわつかせる。

これをラブレターと言わずして、何と呼べばよいのだろう。

そんな気がしてならなかった。
好きなんて、どこにも書かれていないのに。

ランチをご一緒した日から約1週間後、Aさんは再び京都に来られることとなった。その約束の日が訪れるまでに数回やり取りをしたメールの文章は、何度読み返しても赤面モノだ。
いったい何の熱に浮かされているのか、と思うような文面のオンパレード。とてもここに引用できそうにない。

ちなみに、Aさんとのメールのやり取りは、今でもフォルダごと大切に保存してある。そう長くはないお付き合いだったけれど、私にとってAさんのとメールは、一瞬で当時のときめきを蘇らせてくれる、甘い言葉の宝箱のようなものだから。

Aさんが再び京都へ来られた日の詳細はバッサリ割愛させてもらうが、その日の夜、私はAさんから告白され、口づけを交わした。

1枚のハガキから始まった、受け身の恋。
あんなに熱烈に想いをぶつけられ、言葉で酔わせてもらったのは、後にも先にもAさんだけだ。

年に一度の「恋文の日」(5月23日)が、今年も近づいてきた。

メールやLINEもいいけれど、たまには手紙で想いを伝えてみてはどうだろう。そこから何かが始まるか、想いが通じるのかは、あなたの気持ちと行動次第だ。

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