ぼくの旅
(1)
かつて、名のある音楽家が住んでいたという、古い街にたどり着いた。
ぼくは旅が慣れてきたばかりだったので、ある程度見当をつけて、言い伝えや歴史がある街を選んで滞在していた。旅を始めたばかりの頃は安全を重視していたが、そのつまらなさに気付いてからのことだ。
そういう街には何かしら不思議な力があると思っているので、できればそんなことも体験してみたい。そんな思惑も少なからずあった。
昼前に街の中心街にたどり着いたぼくは、早速宿を探す。できればその街に古くからあり、欲を言えば歴史史料に富んでいると尚良い。
ぼくは街の中央広場の控えめな噴水の前で、重いトランクを下ろした。革のポーチから折りたたんだ地図を取り出し、シワを伸ばすように開いて見つめた。
ーーおや?
この地図は、前回住んだ街を出る時に偶然駅舎に置かれていたもので、ここにくるまでの間にも「読んだ」といえるほど開いてはいなかったし、印をつけた覚えもない。
しかし、地図にはとある場所を指して、金色の五芒星と宿屋らしき名前がキラリと光っていた。
元々ついていたのかもしれない。印がついている辺りはこの場から遠くもなく、例の音楽家が住んでいた街にも近そうだ。でも、ここに泊まれればいいんだがなぁ。
ぼくは宿泊先を決めると、迷わないよう地図を開いたままトランクを持ち上げて歩き出した。
少しだけ荷物が軽くなった気がした。
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