羊の夢
薄茶色の壁に散らばる、えんじ色の小花と若草色の蔓。窓は木枠で縁取られていて、薄い黄色のカーテンがゆったりと束ねられている。オーガンジーのレース編みのカーテンが、淡く夕方のひかりを部屋に透かしていた。
明確なかたちのない影は、床に届くまでにぼやけてしまっている。
そこは小さな屋根裏だった。唯一の出入口である小人の通り道のような、小さな扉ですら、この部屋では大きく見えるほどだった。
天井は窓枠と同じような色をした板張りで、小ぶりの(それでもこの小部屋にはぴったりな)、妖精の粉を振りまいたように輝くシャンデリアがぶら下がっている。シャンデリアのさらに下にはアンティーク風のテーブルとひとりぶんのいす。シミひとつないクロスがピンと張られている。
階段を登る音が聞こえ、ややあって扉が開いた。無人の可愛らしい部屋に、登場人物が現れた。入ってきたのは小柄な、少女とも女性ともつかぬ女の子。名をアリア、といった。アリアは健康的な肌の色をし、くりくりとした目に、くせのある短い白い髪。まつげはまた白く長い。
アリアは今、片手にお盆を持っている。丸いボウルにトング、そして楕円の浅い大小の皿とを新緑の四角いお盆に乗せ左手に持ち、鼻歌を歌っていた。お盆をテーブルの上に置いて乗っていたものをひとつひとつおろす。おろし終わるとボウルの中にトングを入れ、つかむしぐさをした。中には刈ったばかりの牧草がひとりぶん入っていた。大きいほうの皿に丁寧にうつし、小皿に入っていた琥珀色の液体をそっとかける。
「わたしはこれがいいのよ」
琥珀色の液体はつるつると皿のふちをすべり、中で艶やかに待つパスタの元へとゆっくりとおりていった。これははちみつだった。アリアは甘い牧草が好きだった。
どろどろと落ちるはちみつソースがすべてかかるまで数分を要したがアリアは黙ってその煮詰めた砂糖のような色を見ていた。窓からもれていた淡いひかりはいつのまにか夕闇にのまれてしまっている。
空いたボウルとトング、小皿をもう一度お盆の上に乗せると、彼女はまた鼻歌を歌いながら階下に降りていった。扉は開いたままだ。
次に彼女が戻ってきたときは、お盆の上に小さなスプーンとフォークが乗せられているだけで。鼻歌はまだ続いていた。
スプーンとフォークを大事そうにテーブルクロスに並べ、今度はアリアも席に着いた。深呼吸をひとつして、綺麗に整列したそれらを眺めてうれしそうな顔を見せる。
「さ、お食事にしましょ」
アリアはシャンデリアのつぶらなひかりのたまに照らされて、ちらちらと頬が輝いていた。右手にフォーク、左手にスプーンをかまえて、牧草をひとつ巻き取って口に運ぶ。
「やっぱり、これでないとだめね」
満足そうにそう言い、それから黙々と牧草を食すのだった。
ーThe ENDー
image by:VictorianLady
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