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共通テストから『育てたい力』をイメージできるか?

 2022年1月15日から2日間にかけて共通テストが実施されました。教育方針の変更に伴い、「センター試験」から「共通テスト」へ名称が変更されるとともにその内容も大きく刷新されています。共通テストは実施が2回目であり、まだまだ試行錯誤の真っ只中という状況だ。今回は実際の問題を踏まえながら、現場で起こりうることや今後の教育のあり方について考えてみたいと思います。

■“受験教育体質”は変わらない?

 一般論として、教育現場の、特に高等学校の教育目標はいかに進学目標を達成させるかということに重きが置かれていると言えます。理念はさておき、実際にはそこを無視できないと言ったほうが適切かもしれません。いずれにしても、進路指導として就職も選択の一つであることはいうまでもありませんが、進学希望者が増えている現状を考えると、やはり受験教育を切り離して考えることはできないでしょう。そのように考えた時、以下に提示する問題が解けるようになるために授業が行われることが想定されます。
 では、実際に出された問題をもとに考えてみましょう!皆さんは答えられますか?

■問題を見てみよう

【問題】(大問1問2)
下線部aに関して、中世のある武士について述べた文章X・Yと、その人物の姓や苗字a〜dとの組み合わせとして正しいものを、①〜④のうちから1つ選べ。
 X:育った信濃国の地名で通称された。敵対する一族を京都から追い落として朝日(旭)将軍とも呼ばれたが、従兄弟との合戦で敗死した。
 Y:姓は源氏だが、所領の地名を苗字として名乗った。室町幕府から東国支配を任されたが、将軍と対立して自害に追い込まれた。

a:平  b:源 c:新田 d:足利

①X-a Y-c  ②X-b  Y-d  ③ X -b Y-c  ④X-b Y-d

■問題の解法とは

 問題の解き方について考えてみましょう。まずXについて、教科書(山川日本史B)にも「信濃国」というワードがあることから「信濃の木曽谷にいた」源義仲を想起する必要があります。また、「合戦に関わった人物」という記述から「治承・寿永の乱」も併せて考える必要があります。
 次にYについて、「室町幕府から東国支配を許された」という言葉は「鎌倉公方」に置き換えて読まなければなりません。そして「将軍と対立して」というワードから足利持氏を想起する必要があります。

この正しい答えを先に提示します。皆さんはできましたか?
正解は「④」です。

■解き方を逆算する

 ではこの問題を解くためにどのような学習、もしくは手順が必要になるのでしょうか。まず教科書(山川出版日本史B)の記述をもとにXとYの記述を考えてみます。Xでは「信濃国」というワードはありますが、あたかもヒントになりそうな「敵対する一族を追い落とし」、「朝日将軍」、「合戦で敗死」という言葉は使われていません。つまり、教員が「教科書に掲載されていないワード」について細かく説明をしておらず、それを初めて目にすることになった受験者にとっては、「信濃国」とうワードしかヒントになっていないということになります。
 ではYはどうでしょうか?Yは「室町幕府から東国支配を任された」、「将軍と対立」というワードがあります。この部分は「鎌倉公方」、そして「永享の乱」にそれぞれ置き換えることで教科書にも掲載されていると解釈できる部分ではあります。
 時代は大問の設定上、平安末期から鎌倉時代の間で限定されているので、それを思えば範囲や出来事の数としてはそれほど多いものではありません。ところが1つのワードに対する解釈や捉え方が慎重になればなるほど、回答には困る問題であると言えるでしょう。

■問題を評価する

 さて、本題に入ります。この問題についての是非を訴えるのが今回の投稿の趣旨ではありません。皆さんはこの問題を難しいと思ったでしょうか。それとも簡単な問題と思われたでしょうか?確かに作成者の意図は感じる問題であったように思います。「ただ覚えるだけではダメ」、「言葉から様々な情報を想起させ、適切な情報と判断できるようになること」というメッセージが強く感じられます。

 しかしながら、生徒や教員の目線に立った時にあまりにも恐ろしい事態が生じます。それはつまり「教科書のたった1ワードからそこまで想起させなければならないのか?」ということです。Xの選択肢は「信濃国」が重要なワードでした。しかし、それに加えて「朝日将軍」と呼ばれ「合戦で敗死した」という部分までを知識として持っていなければならないのでしょうか?逆に「信濃国」だけで判断させたい問題なのでしょうか?甚だ意図を考察するのが難しく思います。

 また、この問題のみを考えるのならそれで良いかと思います。しかし、日本史Bには400を超えるページがあり、それ以上の太字ワードがあるのです。いったいどこに焦点を置いて勉強せよというのでしょうか・・・。教員にここまで多様な語句を羅列する授業を求めているということなのでしょうか。これでは知識偏重の学習方法は改善されないのではないか、、、と私は思います。※もっと良い解法、もしくは考え方をお気づきになられた方は教えてください。

■今後の高校教育はどうなるのか

 最後に、今回紹介した問題を通して日本の教育が迷走状態にあるということはやはり否めないと私自身は感じました。4択ではありますが、到達度を図るのであれば間違った解答にも質があり、その点を評価するべきだと思うからです。しかしながら、現状は○かXしかありません。0か100なのです。共通テストというものが果たして大学に進学させるためだけのツールとしてのテストにとどまるのか、それとも大学進学を求める者と、大学が求める人材と合致しているという整合性を整えた上で受験体制を構築するものとなるのか、社会は慎重に見守り監視する必要があるように思います。

■個人的によく出来ていると思う問題の紹介

 批判ばかりでは良くないので、個人的によく出来ている問題をここで1つ紹介します。2014年センター試験世界史Bで実際に出題された問題になります。女性が参政権を獲得するにあたり、社会ではどのようなことが起きていたか、ということを考えながら解く問題です。ヒントは「総力戦体制」という概念です!
 皆さんは解けますか?意図が伝われば幸いです。詳細はまたの機会に。


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