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起立性調節障害に関わる人たちへ

起立性調整障害を知っていますか?

 一般的には「自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患」とされています。実生活では「立ち上がったときに血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたり」することで様々な場面で支障をきたします。「当たり前のことができない」というストレスから、精神的に追い詰められたりすることもあるようです。他者からはなかなか理解されないというのも大きな問題点です。本人にとってはそれが悩みを増幅させているケースも多くあるように思います。

起立性調節障害を知って欲しい

 起立性調節障害は診断書が出されます。そのため、徐々にではありますが同じ症状で悩む子どもがたくさんいるのだということが周知されるようになり、適切な対応が取られるようにはなりつつあります。ただ、その一方でもっと慎重な対応が求められたのでは?と思われるケースも依然として多いのではないかと考えられます。「症状への理解が不十分であること」「対応への準備が不十分であること」など理由は様々あるでしょう。ただ、実際に私自身が接し方に困ったため、記事にしておくことは一定の価値があるのではないかと思いました。

 起立性調節障害に関して重要な2つポイントを示しておこうと思います。1つ目は「学校で起立性調節障害に悩まされている生徒は意外に多くいる」ということが挙げられます。もう1つは「『起立性調節障害』なのにサボっていると思われるケースがある」ということです。誤った認識は子供たちを精神的に追い詰めたり、適切なサポート・支援を怠ってしまうことにつながります。最悪の場合には不登校になってしまったり、あるいは自己肯定感を低下させ、子ども自身が考えていたキャリアを逃すことにつながる可能性があります。どちらにしても、子どもはもちろん、親にとっても良いことは何一つないのは明白でしょう。
 以下、私が直接関わった2つの具体的な例を紹介しながら、対応のヒントにしていただければと思います。

子供の悩み〜A君の場合〜

 1つ目はA君。運動部に所属し、人柄も明るい生徒です。学力は決して高くありませんが、努力家で真面目。卒業後は企業に就職し、先輩から可愛がられる存在になることが容易に想像できる生徒です。彼にとっての唯一の悩みは「寝起きの倦怠感」でした。頻度として高くはありませんが、部活動でも中心的な存在であるため、午前中の試合だとどうしても自身のパフォーマンスに影響が出ます。スターティングメンバーに名前があっても、突然「交代」というケースがあったのです。部活動に重きを置いている生徒が一定数いる中で、その失敗や責任を果たせなかったことへのプレッシャーというのは子どもが潰れてしまうのに十分すぎるポイントでしょう。対応には十分に注意が必要でした。ただ、彼にとって幸いだったのは「起立性調節障害」という診断がすでに出ていたこと、そしてそれを親や教員、周りの生徒も理解をしていたいことです。多くのサポートや理解もあり、彼は最終的にチームの柱として大きく貢献することができました。おそらく精神的にも大きく成長したことでしょう。無事に部活動での重責を果たし、学校も途中で辞めることなく卒業できました。もちろん進路も決まりました。
 このA君のケースを考えたときに重要だったことは比較的明らかだったように思います。それは周囲の理解とサポートです。もし周りの人間が、彼の症状によって生じた事態に対して責任を問うような発言、態度をとっていたなら同じような結果にはならなかったでしょう。「周囲に理解者がいること」「周囲が理解しようとすること」はとても大切なことなのです。

子供の悩み〜B君の場合〜

 続いて2人目の例を紹介します。生徒B君は成績はとても優秀でした。しかし、第1志望に落ちたことで私の勤める学校そしてクラスに入学してきたという経緯があります。周りの人間からすると、いわゆる「不本意入学」であり「学校への意欲が高くない生徒」というイメージを持たれていました。性格は真面目で問題行動もありません。しかし、入学2ヶ月目から学校への登校が困難になりました。理由は「朝起きられない」「午前中の過度の倦怠感・眠気」が原因でした。家庭訪問や電話などできる限りの対応をしました。実際に会いに行くと、夕刻であるにもかかわらず「今起きました」という状況で、生活が昼夜逆転していたのです。A君の例もあったので「起立性調節障害」を念頭に関わっていました。そして幸いなことに医者からもその診断が下されました。正直いうと、私の中でほっとしたところがありました。なぜかというと、原因がわかることで子どもたちがうまく自分のことを納得させられる状況ができたからです。ところが、、、です。B君は事態の解決に1年間を要してしまいました。
 彼にとって最大の不幸は「家族の理解が得られない」ということでした。彼の父親はいわゆる昭和の男性で、B君の不調にも「気持ちが弱いせいだ」と言って車に無理矢理乗せて学校に連れてくることを繰り返していたそうです。不本意入学だったことも、「B君のやる気がないだけ」という誤解を生み出す理由だったのでしょう。これは入学した年の5月の話です。そう、不登校になった時期なのです。また、B君にとって辛いことが追い討ちをかけます。休みが続く中で同級生から「なんで学校に来ないのか」「サボっているのか」といった連絡が来るようになったのです。
 母親はというと一定の理解は示しつつも、父親には何も言えない様子でした。そして私が家庭訪問をすると、体裁もあったのでしょうか、悩んでいるB君を責め立てる発言が多かったように思います。私としても辛い思いがありました。家庭訪問をするたびにB君が責められるのですから。
 さて、この状況で私にできることは何なのか。考え抜いた結論は転学でした。ポイントは2つです。1つはB君が「医者になるという大きな人生の目標をしっかり持っていたこと」。もう1つは「朝さえ無理に通学させなければ彼ならやっていける」と思っていたことです。これは直接関わっていなけらば分からないことかもしれません。ただ、B君は真面目な性格で自分の意志もしっかり持っています。「今の状況に無理に対応させる」よりも「適応できる環境」で「医者を目指す」ことの方がB君のためになると判断しました。
 まずは母親を説得しました。父親とはその後直接話をする機会が得られましたが、母親がうまく説得してくれました。B君にとって母親が味方になってくれたことは本当にありがたいことだったと今では思います。彼にとってのもう1つの不幸であった友達からのサポートですが、残念ながら学校に来られない状況では修復は困難でした。やはり、心機一転、環境を変える事の方がB君に良いと思いました。
 このご時世ですので幸いB君に望ましい学校(通信制+自由登校制)をすぐに見つけることができました。そして不登校であったにもかかわらず、同級生と同じタイミングで卒業することができるというのです。彼が今どうなっているか、私から直接聞くわけにはいかないのですが、きっとB君なら自分の進路を実現してくれていると確信しています。

対応は慎重に!

 さて、2人の例をもとに「自律性調節障害」について紹介してきました。あくまで概要なので、この症状について全てを理解してもらおうなどとは思いませんし、できません。ただ、周囲の人間が「できて当たり前」と思っていることが、子どもには「とても難しいこと」であったり、「自分でもどうしてできないかわからない」ことがあったりするということは知っておいてください。「どうしてできないの?」といった言葉は彼らを追い詰めます。それが説明できればそもそも子どもたちは悩んでいないのですから。
 さらに色々な側面を考える必要があります。例えば「本人を支えてくれる友達がいるのか」「理解してくれる教員がいるのか」「本人が頑張らずに身を置ける環境があるのか」「積極的に登校する理由となる活動(例えば部活など)があるのかどうか」が挙げられます。おそらく、どれかがあると子どもは救われるでしょう。ただその中でサポート(教員、友達などの理解者)が著しく欠落していると学校生活はかなり困難になると思われます。そのときには環境を変えることが必要になるかもしれません。いずれにしても最優先すべきは「今の環境が子どもにとって良いものかどうか」です。当たり前のことのように感じますが、やはりこれが一番難しいものです。お子さんが同じような症状で悩んでいたり、診断書が出ているがどう対処したら良いかわからないという方には参考しにていただければ幸いです。

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