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【第8回】関連づけが学習意欲を高める③目標と理解度と動画

~教育学者から看護教員へ~ 

 授業タイトルを考えながら授業準備をするようになったという変化は、小さいように見えてとても大きなことだと思います。タイトルは学習意欲を高めると同時に授業の本質を捉えるポイントになるからです。先生方の意識の変化を大変嬉しく思います。
 さて、いただいたご相談・ご質問に早速答えてまいりましょう。

1.学生が理解しやすい目標にする

 「新生児の特徴」というテーマの講義において、下記図のように目標を考え直したがどうだろうかというご相談でした。

図 「母性看護」講義目標の再考

 まず、過去の目標は、授業テーマを少し言い換えただけの印象で何を達成すればよいかイメージが掴みにくくなっています。それに対して新しい目標は、それぞれの言葉を具体化し、何ができるようになればよいのかがより明確になっており、改善されたことが伝わります。
 1点気になる点があるとすれば、新しい目標1に2つの目標が入っていることです。結果的に1文が長くなり、すっと頭に入ってこない、記憶に残りにくい印象を受けます。そこで、新しい目標を考える元となった<主な学習内容>で示していただいた3つをそのまま活用してはいかがでしょうか。

<目標代替案>
目標①新生児の日齢に応じた生理的変化の特徴を説明できる。
目標②新生児の生理的変化(体重減少・黄疸)が生じる理由を説明できる。
目標③新生児の生理的範囲を逸脱した変化が与える影響を説明できる。

順番も少し入れ替えています。「赤ちゃんはものすごく早く変化(成長)していくよね。」「そこでドキッとする特徴が、体重減少と黄疸なんだけど、それにはちゃんと理由があるんだ。」「だけど一定の範囲を越えた変化は問題を生じることがあるから注意が必要だね。」などと、学生が理解していくストーリーを組み立てると、学生が目標を理解しやすくなるのではないかと思います。

2.学生自身に目標を考えさせる授業の具体例

 学生自身に目標を考えてもらうタイミング・工夫等についてご質問をいただきました。
 タイミングはいくつかあります。第1に、科目の最初、すなわち第1回の授業です。ここでは、カリキュラムにおける本科目の位置づけ、科目全体の到達・期待目標、具体的な授業計画、成績評価の方法、教員からのメッセージなどを説明することが多いと思います。
 私は、この第1回の授業後に「本日のオリエンテーションやこれまでの自身の到達度を踏まえ、この科目を履修する上でのあなたなりの学習目標を具体的に書いてください」という記述式課題を与えています。すると、教員が期待している以上の目標を書いてくれることもあり、身が震えるような気持になることもしばしばです。私は学生たちが書いた目標を匿名化して、受講生に共有するようにしています。そうすると、同じ学生1人1人が学ぶ意欲をもって授業に臨んでいることが分かり、いっそう頑張ろうという気持ちになります。フィードバックも第2回の授業の最初に全体に向けて簡単にすることで、学習目標の復習(再度の意識づけ)もできます。
 また、科目の折り返し地点や区切りの良い授業回で、最初に立てた学習目標を思い出してもらい、その目標がどの程度達成できているか、その理由はなにか、これからの学習をどのようにしていこうと考えるかを考えて課題として提出してもらうこともあります。人間、目標を立てたことに満足してしまいがちですから、時折思い出して、自分の学び方を改善してもらうきっかけを教員がつくれると良いですね。
 細かい目標設定として良く使うのは、グループワーク前です。私は講義科目であってもグループで議論をさせることがあります。グループワークは知識だけでなく、コミュニケーションスキルが求められます。30秒程度で個人目標を立てさせ、それを意識してグループワークを開始します。目標を簡単にグループ内で共有してから始めることもあります。立てた目標が達成できたかどうかは授業後の課題などで書いてもらい、次の目標を考えてもらうこともあります。 

3.学生の目標設定力を高める

 学生に目標を設定させると、あまり上手くない目標を掲げることがあるが、どうすべきかというご相談でした。なぜそうなってしまうのかと考えると、1つには良い目標とはどのような目標がわからなあいという原因が考えられます。もう1つには、頭ではわかっていてもなかなか実行できない、あるいは継続できないという原因も考えられます。それぞれの対策を考えてみます。
1)良い目標とはどういう目標かを学生に教える
 よく言われるのはSMARTな目標です。どのような英語の頭文字とするかは諸説ありますが、具体的で、測定可能で、達成可能で、目的とつながっていて、時間制約が明確な目標というのが一般的ではないでしょうか。学生に自分で目標を立てさせ、それがSMARTかをチェックリストでチェックしてもらい、どうすればSMART目標に改良できるかを学生同士で相談させあってもよいでしょう。
 ただSMARTと言われても、具体的なイメージがわかない学生も多くいます。良い目標例や改善すべき目標例を事前に示してあげると学生も考えやすいでしょう。また考えてもらった目標の中からピックアップして紹介することもできます。
2)目標⇒達成度⇒次の目標を、継続的に書き続けさせる
 良い目標を立てることが目標になってしまっては、目標設定することに満足してしまい、本来の目的を果たせません。目標は、自分の行動を最適なもににするために設定するものですから、その達成度を振り返り、自身の行動を改善していくことに価値があります。したがって、継続こそが重要といえます。
 例えば、学生と教員の間の往復書簡(シャトルカードや大福帳といわれるツール)を活用して、毎回の授業で学生に「目標、達成度とその理由、次の目標」を書いてもらい、それに教員が簡単なコメントをつけて返すということを授業期間中続けてみるという方法があります。これをすると、学生の目標が徐々に的確になり、また目標に向けて行動をコントロールできるようになっていく様を1枚の用紙の上で確認できるようになります。学生の成長を一目できるので、教員としても嬉しい気持ちになります。

4.日々の理解度確認法と単位認定試験法を結ぶ

 学生の授業直後の記述をみると授業内容を理解できているようだったのに、単位認定試験ではボロボロという学生について、学生の理解度をどう測ったものかというご相談でした。
 学生の理解度を測定するということは案外難しいことです。先生方が予想されたような、目標設定、授業内容、到達度確認法、試験の出題法、試験の難易度など、様々な要因が考えられます。実はこれらの問題は、この連載の柱であARCSモデルにおける、C(自信)・S(満足感)に結び付くテーマであり、今後のやり取りにも期待していただきたいところです。といっても、やはり関心を持っていただいたタイミングが一番!ということで改善アイデアを書かせていただきます。
 それは、日々の理解度確認法と単位認定試験法を結ぶということです。これは、内容面と方法面の2点で考えられます。
 まず、内容面です。例えば日々の確認小テストで全く出されていないことを単位認定試験で出してしまうと学生は力を発揮できない可能性があります。小テストの内容と全く同じ問題を出すべきかどうかはさておき、少なくとも、「あぁこれは勉強したな」と思えるような問題を単位認定試験でも出すことによって、自分が勉強した成果を再確認することができます。小テストで良い成績がとれていなくとも(最近は良い点が取れるまで何度も小テストを受けられるようにするシステムもあります)、単位認定試験できちんと成績がとれれば「がんばった甲斐があった」と学習意欲を高められます。
 次に、方法面です。例えば日々の確認小テストは選択式問題だったが、単位認定試験は記述式問題であったとすると、成績は大きく下がる可能性があります。今回の先生方からいただいた事例は、その逆ですね。アウトプットの仕方が変わるだけで、実力を発揮できるかどうかが変わってしまうものです。単位認定試験を選択式問題で行っているならば、日々の小テストも選択式問題で行ってみてください。そして、日々の小テストの結果はフィードバックし、どう勉強すれば単位認定試験で良い成績をとれるかを学生自身に考えさせます(これを先の目標設定と結び付けても良いですね)。
 私の経験談を1つ紹介しましょう。私は中間試験と期末試験を全て記述問題で行っています。例えば、「以下に記した10のキーワードを全て用いて、○○について説明しなさい」といった問題を出します。中間試験は本当にボロボロでした。そのことに、当の学生たちが一番驚いていました。私は中間試験直後の授業で成績をフィードバックすると共に、どうやって勉強すれば、次の期末試験で好成績をとれるかを学生同士で議論させました。そして、期末試験結果を分析すると、中間試験に比べて得点率6割~7割の学生が減り、8~9割の学生が増えました(残念ながら6割未満の学生割合は変わりませんでした)。後から学生に話を聞くと、「中間試験は何となく講義ノートを見ただけで臨んで大変な目にあったので、期末試験前は鉛筆から煙が出るぐらい書いて勉強しました。試験中も手が痛かったですが、中間よりはよい成績がとれたので良かったです笑」とのことでした。

5.授業中の動画活用法

 動画を活用して成績を伸ばした学生の事例を教えていただき、ありがとうございました。最近の学生は、「分からないことはまずYouTubeで検索してみる」というぐらい、動画に慣れ親しんでいますね。初期の成績が悪くとも、自分なりに工夫して学んでいけば成長していける事例として是非学生さ んたちにも共有していただきたいものです。
 授業中の動画視聴は寝てしまう学生もいるというご相談でした。授業における動画活用の工夫についてですが、その動画の何に注目すべきなのかを、動画を視聴する前に学生に意識してもらう必要があります。例えばワークシートを配布し、動画を視聴しながらそれを埋めていってもらうというのも方法です。「動画の後に、~についてディスカッションしてもらうので、動画を見ながら自分の意見を考えておいてください」という指示もあり得ます。長い動画の場合は、学生の集中力を鑑みて何回かに分解して(途中で止めながら)進めることもできるでしょう。

6.学生目線で無料動画を発掘する

 さて、今日のように様々な動画が溢れかえりますと、教員も学生もどの動画を活用して教えれ(学べ)ばよいかわからないということはあると思います。教員が良いと思っていても、学生からするとイマイチであったり、その逆もまたしかりです。
 1つ試してみていただきたいのは、学生への簡単なアンケート調査です。「勉強するにあたって、今までに参考になったYouTube等無料動画があれば、教えてください。後輩にも教えてあげたいと思います。」等と尋ねます。案外、教員が知らないような動画を学生は参考にしているかもしれません。それらを一覧にし、教員側で簡単に内容をチェックし、問題がなければそれらを学生に共有します。内容チェックは面倒と思われるかもしれませんが、案外教え方の参考になる部分もあります。

 先生方から良い質問やご相談を沢山いただき、話し(書き)過ぎてしまいました。何か部分的にでも参考になるところがあれば幸いです。


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