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ユーゴー「レ・ミゼラブル」第3部を読んで

第1部は「ファンティーヌ」、第2部は「コゼット」と読み進めてきましたが、第3部はコゼットの恋の相手となる「マリユス」が主人公です。
マリユスの生活や思想が描かれていますが、一番の眼目はコゼットに一目ぼれしてしまう心情の経緯でしょうか。
そして何よりも女性を魅了してしまうその容貌は、物語のポイントかも知れません。

以下に第3部の概略を記します。

マリユスは、亡き母の祖父に引き取られて養育されています。父と祖父とは政治信条が異なり、父に会うことはありませんでした。マリユスは17歳のときに父に会うことを命じられます。しかし、マリウスが到着する直前に父は亡くなってしまいました。父に愛されていないものと思い込んでいるマリユスは特に悲しみません。
マリユスは宗教上の慣習を守っており、教会にミサに行っていましたが、ある時に老理事から話しかけられて、父が隠れるように自分のことを見ていたことを知りました。それからは父のことを知るように努め、愛し尊敬するようになります。
そうしたことが祖父の知ることとなり、マリユスは祖父の家を出ることとなります。そしてジャン・ヴァルジャンも借りていたゴルボー屋敷の一室を借りることなります。そうした生活をしていたなか、公園を散歩しているときに初老の男と娘に会いました。はじめは関心がなかったのですが、6か月くらい行かないで再度行ってみるとその娘は美しく変わっていました。お互いに惹かれあうのですが言葉を交わす機会はありません。どこに住んでいるのかマリユスは後をつけ住所を突き止めますが、勘づかれてしまいます。再び訪れたときは引っ越していました。
もうコゼットとは会えない絶望的な状況だったのですが、ふとしたキッカケで隣の部屋に興味を持ち覗いてみたところ、そこに奇跡的にジャン・ヴァルジャンとコゼットが現れたのです。隣室の者は、お金を恵みにきたジャン・ヴァルジャンが金持ちとにらんで大金を脅し取ろうとするのです。
マリユスは隣室の者がワーテルローの戦いで父の命を救ったテナルディエ(コゼットを預かって金づるとしていた者)であることを知り、警察に告げようか否か迷います。隣室にはならず者が大勢集まっています。ここではジャン・ヴァルジャンと彼らの闘争劇が展開されます。最期にジャヴェル警視が出てきてならず者は捕まりますが、結局ジャン・ヴァルジャンは逃げてしまいます。

今回は、あらすじが長くなってしまいましたので、ジャンバルジャンの凄さを如実に表現した次の一節だけを引用します。
(岩波文庫 レ・ミゼラブル 第3部第8編「邪悪なる貧民」20「待ち伏せ」 豊島与志雄訳より)

  彼 は 左腕 の 袖 を まくり 上げ て つけ加え た。 「見ろ。」   同時に 彼 は 腕 を 伸ばし て、 右手 に 木 の 柄 を つかん で 持っ て い た 焼け てる 鑿 を、 その あらわ な 肉 の 上 に 押し 当て た。   じ ゅ ー っと 肉 の 焼ける 音 が 聞こえ、 拷問 部屋 に 似 た におい が 室 に ひろがっ た。 マリユス は 恐ろし さに 気 を 失っ て よろめき、 悪漢 ども すら 震え上がっ た。 しかし その 異常 な 老人 の 顔 は ちょっと ひきつっ た ばかり だっ た。 そして 赤熱 し た 鉄 が 煙 を 上げ てる 傷口 の 中 には いっ て ゆく 間、 彼 は 平気 な ほとんど 荘厳 な様子 で、 美しい 目 を じっと テナルディエ の 上 に すえ て い た。 その 目 の 中 には、 何ら 憎悪 の 影 も なく、 一種 朗らか な 威厳 の うち に 苦痛 の 色 も 消えうせ て しまっ て い た。   偉大 な 高邁 な 性格 の 人 に あっ ては、 肉体的 の 苦悩 に とらえ られ た 筋肉 と 感覚 との 擾乱 は、 その 心霊 を 発露 さ し て、 それ を 額 の 上 に 現出 さ せる。 あたかも 兵卒 ら の 反逆 は ついに 指揮官 を 呼び出す が よう な もの で ある。 「みじめ な 者 ども、」 と 彼 は 言っ た、「 わし が 君 ら を 恐れ ない と 同じ に、 君 ら も もう わし を 恐れる には 及ば ない。」   そして 彼 は 傷口 から 鑿 を 引き離し、 開い て い た 窓 から それ を 外 に 投げ捨て た。 赤熱 し た 恐ろしい 道具 は、 回転 し ながら 暗夜 の うち に 隠れ、 遠く 雪 の 中 に 落ち て 冷え て いっ た。

たんなる初老の金持ちの紳士ではないジャン・ヴァルジャンの凄まじさが、表現されている圧巻の場面です。
徒刑囚として20年間を生きてきた彼の性根を垣間見る思いです。
脱獄後、反面では慈善家としても生きてきたジャン・ヴァルジャンの神髄がこれから発揮されてくるものと期待して、次の第4部へと読み進めることとします。


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