統合失調症の責任能力 なぜ罪が軽くなるのか
はじめに
こんにちは、dZERO新人のHKです。今回は、精神鑑定医である岡江晃氏の作品『統合失調症の責任能力 なぜ罪が軽くなるのか』を紹介させていただきます。
精神障害者の被告の責任能力をどう判断するべきなのか?
概要
精神障害とくに統合失調症の責任能力の有無の境界線をどこに引くのか。統合失調症をめぐる判決の歴史と重大な犯罪をおかす患者の症状の具体例を通して、厳罰化は妥当であるのかどうかを考えていく作品です。統合失調症の診断基準と診断の幅・重症度の設定をどうしていくのか。三つの判定事例を紹介し、統合失調症の被告の責任能力をどのように判断するべきなのかが語られています。
著者紹介
著者は、精神科医の岡江晃氏。岡江氏は1946年、高知県生まれ。京都大学医学部卒業後、1972年から京都府立洛南病院に勤務、重大犯罪を犯した精神障害者や覚醒剤精神病者の治療に精力的に取り組まれています。1998年に副院長、2003年から2011年まで院長を務められました。1992年より刑事事件の精神鑑定を担当するようになり、2002年の宅間守の精神鑑定を含め、2012年までに90件の精神鑑定を行われてきました。
この作品のポイントと名言
精神鑑定を尊重するとしながらも、検討が不十分、推論過程に問題がある、などの理由で、精神鑑定の意見を採用しないこともあるとしている。岡江晃(Ⅰなぜ厳罰化が進んでいるのか、p30)
検察には「責任能力に関する二重基準が存在する」と批判する司法精神医学者も少なくない。(Ⅰなぜ厳罰化が進んでいるのか、p30)
「天国に行けないぞとかっていうふうに命令があったので、そのときはどうしても天国に行きたくなったので、全裸になりました」(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p64)
俺の仲間になって天国に行くか、それとも裏切って地獄に落ちるか、それとも自分で死ぬかって言われました。だから仲間になって天国に行く道を選びました。人殺しをしました。(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p102)
アニメのキャラクターを空想して自慰を行ってきたことなどから、性的にも未成熟である。(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p143)
犯行後一年二か月目から一年四か月目にかけての三回の被告人質問での供述は、幻覚妄想が活発ななかでなされたものであり、被告人の言葉を文字通りに受け取っていいのか(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p190)
犯行直後でありながら、幻聴により性的興奮あるいは恍惚感を感じるという奇妙な状態であった(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p194)
「看護師とかに興味があるんです。母親が病院で調理師をしてたんで、病院関係に就職してみたい」とある。現実的ではない(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p218)
幻聴の内容では、悪口・批評・干渉・命令などの被害的内容のものが多く、幻聴の形式では、他人同士が噂をする声、あるいは話しかけてくる声が多い(Ⅱ「統合失調症の責任能力」を考えるための三つの鑑定事例、p263)
統合失調症の軽症ないし中等症であっても、犯行が厳格妄想に関係なく、人格変化も軽症なら、完全責任能力もありうる(Ⅲ責任能力のある・なしの境界線をどこで引くべきか、p283)
dZERO新人HKのひとこと
統合失調症とは、幻覚を見たり幻聴を聞いたりするという程度のことしか知りませんでした。同じ統合失調症でも症状にも幅があるのだと知りました。そのため、被告の責任能力をどう問うのかと聞かれれば、とても難しく、素人の私にはまったく分かりません。犯した罪に対しての責任は、誰にでもあるでしょうが、責任能力といった場合、その有無をどう判断するのか。精神鑑定や司法が決めるのも困難なのだなと感じました。
しかし被害者の気持ちを考えると、適切な責任とは何なのか。この作品を読んでも、やはり私には公平に考えることができませんでした。