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線虫 1ミリの生命ドラマ

はじめに


こんにちは、dZERO新人のHKです。今回は、中部大学の裏山に生息するゴキブリの腸内から新種の線虫「チュウブダイガク」を発見した長谷川浩一さんの『線虫 1ミリの生命ドラマ』を紹介させていただきます。
 
すべての道は「線虫」に通ず
 
 

概要


線虫は、ほかの生物が生存不可能な極限環境でも生き、ほかの生物に寄生するものもいれば、自活するものもいる。生殖のあり方も多様で、雌雄同体も。昆虫以上に種類も数も多い。人類の健康問題を解決するためのヒントや、人類が自然と共存していくためのヒントを線虫から得ることもできる。線虫には果てしない可能性がある。この一冊で線虫のすべてがわかる。
 
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著者紹介


著者は、生物学者、中部大学教授、博士(農学)の長谷川浩一さん。長谷川さんは、1978年に三重県で生まれ、兵庫県、鹿児島県などで育ちました。専門分野は応用昆虫学、線虫学、遺伝学で、寄生・共生といった生物間の相互関係に関する研究や動物の環境適応性に関する研究を主なテーマとしています。主宰する研究室では線虫を培養し、その宿主であるゴキブリも10種類以上、数千匹飼っています。生物の根幹を知ることに力を注いでいます。
 
 

この作品のポイントと名言


 
本書では「ヒト」「動物」「昆虫」「植物」そして「微生物」まで、線虫とさまざまな生物との間で見られる寄生、共生、そして病原性について、具体的な例を挙げながら紹介します。(まえがき、p3)
 
そもそも線虫とは何かという説明から始まり、寄生虫好きのひとにも満足してもらえるよう、その魅力(気持ち悪さ)も存分に紹介したいと思います。(まえがき、p4)
 
そのにょろにょろは「センチュウ」という生き物で、「線虫」と書きます。大げさでは決してなく、いま挙げた場所を含め「地球上のあらゆるところ」が線虫の生息場所です。(序章、p19)
 
あらゆる動植物は線虫と何らかの関係、寄生・共生関係が見られると言ってもいいくらいです。驚くほど多様な生態、まさに地球上のどこにでもいるのが線虫です。(序章、p22)
 
また、生物学者たちは、このように多種多様な線虫の中から培養や観察が容易な種を選び「モデル実験生物」としました。(序章、p23)
 
ゴキブリは培養が容易で研究もよく進みます。国内外でさまざまなゴキブリを採集しては実験室にもち帰り、解剖してその寄生性線虫を調べました。(序章、p28)
 
線虫は進化の歴史も古く、陸上、淡水、海水、ほかの生物体内を生息場所とし、熱帯地域から極地環境まで分布する、何度も繰り返してしまうフレーズですが、およそ地球上のあらゆる環境に適応している生物です。(第一章、p46)
 
線虫というと「寄生虫」であると思いがちですが、私の実験室で培養する線虫をはじめ、地球上に存在する線虫種のほとんどがヒトに寄生することはなく、そして寄生性を有しない自活性のほうが圧倒的に多いのです。(第二章、p52)
 
常に更新され変化し続けている分類に、今の時点で完璧を求めることに無理がありますが、自分の研究対象が生物界でどのような系統分類学的位置なのかをおおよそ把握しておくことは生物学においてとても大切です。(第三章、p75)
 
土壌で生活する多くの自活性線虫の場合、受精から幼虫が孵化するまで半日しかかからず、顕微鏡を使って無理なく連続観察が可能です。(第三章、p92)
 
門のくくりがどういうものかを実感してもらうため、我々ヒトが属する「脊索動物門」の中身についても少し見ておきましょう。(第三章、p96)
 
まずは線虫のライフスタイルから、自由生活性(自活性:フリーリビング)、寄生性(パラシティック)、病原性(パソジェニック)、捕食性(プレデタリー)と大きく分けることができます。(第三章、p98)
 
自活性線虫は培養しやすいため実験が進みやすく、したがって線虫の枠を超えた「生物の基本原理」に迫る研究が展開できることを知ってもらいます。(第四章、p112)
 
自然環境はとても厳しいはずで、普段は餌がないばかりか温度変化や乾燥といったストレスに「耐えている」状況が普通なのです。(第四章、p120)
 
動物を観察していると、親の糞を子が口にすることがよくあります。ゴキブリは集合していることが多く、お互いの糞を食べあうので、その集団内に寄生性線虫が容易に広がっていきます。(第四章、p133)
 
ヒトはアニサキスにとって正しい宿主ではありません。広大な海洋を舞台に、さまざまな宿主を跨ぎながらその種が維持されている生物のライフサイクルを見てみることにしましょう。(第四章、p134)
 
また、もう一つ注目してもらいたいポイントとして、タンパク質を作る遺伝子数(コード配列)と、タンパク質の種類に差があることです。(第五章、p155)
 
特に嗅覚が優れていて、雄が交尾相手を探すときにとても大切です。異性から放出されるフェロモンを嗅ぎつけるや否や、雄は食事中であることも忘れ、我先にと交尾相手に向かって一目散に這っていきます。(第五章、p163)
 
複数の遺伝子が時空間的に作用しながら生物の発生や行動を制御する「遺伝子カスケード」の研究は線虫が得意であり、性決定をはじめ生命活動の遺伝子制御機構が一番よく理解されている動物であると言えるでしょう。(第五章、p185)
 
愛らしいキャラクターのような名前とは裏腹に、「アフリカン・アイ・ワーム」とも呼ばれる七センチにもなるにょろにょろが、ヒトの目から出てくるショッキングな寄生虫症です。(第七章、p210)
 
ジャガイモの場合のその筆頭がシストセンチュウの仲間であり、生鮮ジャガイモを輸入する際には特に「ジャガイモシロシストセンチュウ」が高リスク病害虫です。(第八章、p237)
 
植物病原性線虫のうち、ネコブセンチュウ(メロイドジャイン属線虫)、シストセンチュウ(ヘテロデラ属線虫とグロボデラ属線虫)、ネグサレセンチュウ(プラティレンクス属線虫)が三大農業線虫として重要視されています。(第八章、p238)
 
ひとたびシストセンチュウが国内、そして圃場内へ入ってしまうととても厄介で、土壌中のシストが相手では農薬処理の効果がほとんどありません。(第八章、p244)
 
マツ材線虫病は、世界の森林生態系そして産業に大きなダメージを与える外来種問題です。残念ながら日本では林業があまり重要視されておらず、産業としても厳しいものがありますが、日本でも世界でもマツ材線虫病の脅威はまだまだ続いています。(第八章、p261)
 
線虫は研究室の培養環境でストレスなく快適に生活しているのでしょうか。さまざまな実験に供試されるときに、痛みを感じていないのでしょうか。線虫の「感覚」はどうなっているのでしょうか。(第九章、p265)
 
線虫は触覚をもち、匂いや味、温度を感じることができ、さらに音も色も認識できるといった研究も発表されています。私たちと同じように、いろいろと感じているようです。(第九章、p266)
 
がんに共通したがん特有の匂い物質は何か、線虫を使えば明らかになるかもしれません。(第九章、p275)
 
線虫を研究すればするほど、生物に共通した基本原理が多いことが見えてきます。線虫を代用してヒトや生物のことがわかるといったモデル生物の役割の重要性が高まってきます。(第九章、p276)
 
 

dZERO新人HKのひとこと


線虫とは何か? 気持ちの悪いにょろにょろ? という疑問が、この作品を読めば解決します。線虫を知れば生物学の基礎的なことまで理解でき、おまけにSDGsのことや、人類の未来のことまで知ることができ、まさに「線虫はすべての道に通ず」だと唸ります。近所の公園の土の中や海の中、さらにはゴキブリのお尻の中にまで、地球上のありとあらゆる場所に住んでいる線虫の多様な生態に驚きを隠せません。また他の生物に寄生したり自活したりと、さまざま。たった1ミリしかない小ささなのに、こんなにも多様な生き方ができるのだと楽しくなってきます。
また線虫はがんの発見に役立ったり、アンチエイジングの可能性を秘めていたりと、人類にとってもとても役立つ生物です。私としては、アンチエイジングの可能性に興味をそそられます。
みなさんもぜひ、線虫というあまりメジャーな生き物ではない小さな生き物の生態や可能性に触れてみてください。
 
 

おまけ


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