法王フランシスコの「核なき世界」
はじめに
こんにちは、dZERO新人のHKです。今回は、2019年11月に来日した「法王フランシスコ」の日本訪問全行程に同行取材をした共同通信のバチカン担当記者による作品である『法王フランシスコの「核なき世界」』を紹介させていただきます。
法王フランシスコによる平和へのメッセージ
概要
「声の大きな人の声」を伝える意味は何だろうか。2019年11月のローマ法王フランシスコの日本訪問全行程に同行取材した記者は、世界初の中南米出身である法王の平和を願う真摯な姿勢に心を動かされていきます。法王は唯一の被爆国である日本の長崎と広島を訪れ、核なき世界は「実現できる」と明言されました。核兵器の使用も、抑止力としての保有も法王は非難し、平和への思いを力強いメッセージとして打ち出しました。問われているのは、国や人種、宗教に関係なく、われわれ一人一人の良心と行動です。ローマ駐在の日本人記者が法王訪日の全行程をつぶさに読み解いた貴重な記録です。
著者紹介
著者は共同通信社記者である津村一史氏。津村氏は1979年、鹿児島県に生まれ、東京大学法学部を卒業し、2003年に共同通信社に入社されました。カイロ支局を経て、2015年から本社特別報道室。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の公式メンバーとしてタックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴いたパナマ文書報道に参加されました。ICIJは2017年のピュリツァー賞を受賞しました。同年からローマ支局長になられています。
この作品のポイントと名言
新型コロナウイルスの蔓延で世界は一変した。欧州では国境が次々と閉鎖され、身勝手な自国第一主義が再び、はびこり始めている。(はじめに、p7)
法王は、核戦争に関し「本当に恐ろしい。われわれは、ぎりぎりのところにきている」との言葉も残した。法王フランシスコの被爆地への思いが伝わってくるエピソードだ。(第一章、p20)
聖職者として社会活動に尽力したベルゴリオは常に貧困層に寄り添い、一九九八年にブエノスアイレス大司教となった後も、バスや地下鉄でスラムやエイズ患者の施設、刑務所に頻繁に通い、現場主義を貫いてきた。(第一章、p22)
「戦争と平和、核兵器や環境保護など多くのテーマが取り扱われることになる。競争や最新技術の圧力にさらされている若者のことなど現代社会の問題も重要で、法王は平和と友情の大切なメッセージを日本から発することになるだろう」(第一章、p37)
最後に、原爆投下を「おぞましい悪だ」とし、「だから今、私は真実を繰り返したい。戦争のために核エネルギーを利用することは倫理に反している」と結んだ。(第一章、p38)
平和には素晴らしい美しさがあり、それが本物であるなら、失うことのないよう、あらゆる手段を尽くしてでも守るべきなのです。(第一章、p40)
ローマ法王庁がこれまでずっと「欧州一極集中」「バチカン中心主義」を取ってきたことは明らかで、法王フランシスコは旧態依然としたこうした体制を打破しようとしているように見える。(第二章、p53)
法王がとくに力を入れて対応に当たっているのが、各国で相次いで発覚している聖職者による性的虐待問題である。(第二章、p60)
身体や心に苦しみを抱えている人を助け、希望と治癒と和解という福音のメッセージを、すべての人に伝えるという義務です。(第三章、p73)
法王は長崎を「核攻撃が人道上も環境上も破滅的な結末をもたらすことの証人である町だ」と呼んだ。(第三章、p76)
「人の心にある最も深い望みの一つは、平和と安定への望みだ。核兵器や大量破壊兵器を所有することは、この望みへの最良の答えではない」(第三章、p78)
「主よ、わたしをあなたの平和の道具としてください。憎しみがあるところに愛を。諍いがあるところに赦しを。疑いのあるところに信仰を。絶望があるところに希望を。闇に光を。悲しみがあるところに喜びをもたらすものとしてください。(第三章、p81)
「過去と同じ過ちを犯さないために、私たちが真の平和の道具となり、あらゆる努力を重ねることができるよう、この場所が私たちを目覚めさせ、無関心でいることを許さないだろう」(第三章、p82)
カトリック信者の多い長崎では「被爆は神が与えた試練」とする考え方が根強く残っていたといい、自身の被爆体験を語ることは「神への愚痴になる」として、苦しみを黙って耐え忍ぶ人々がいた。(第四章、p96)
ヨハネ・パウロ二世はこのとき、「広島と長崎は、人間が信じられないほどの破壊をできるということの証として存在する悲運を担った町です」とも述べている。(第四章、p97)
パウロ六世は「近代科学が生み出した恐ろしい兵器は、犠牲や破壊をもたらす前でさえ、悪夢や敵意を生み出す」として、使用せずとも、その存在そのものが悪なのだと投げかけた。(第四章、p100)
軍備拡張によって他国を威嚇し、憎悪を煽りながら平和について語ることの欺瞞を指弾し、「国々の運命に対し、今、特別な役割を負っている人々の良心」に問いかけ、はっきりと「真の平和とは、非武装の平和以外にあり得ない」と言い切った。(第四章、p110)
「原子力の戦争目的の使用は倫理に反する。同様に、核兵器を保有することも倫理に反する」(第四章、p112)
「各国、各民族の文明というものは、その経済力によってではなく、困窮する人にどれだけ心を砕いているか、そして、出生率の高さといのちを育む能力があるかによって測られるものなのです」(第五章、p134)
日本は、社会的に孤立している人が決して少なくなく、命の意味が分からず、自分の存在の意味を見いだせず、社会からはみ出していると感じていることです。(第五章、p150)
「今日において、平和というものは本当に脆弱です。本当に脆弱なのです。だからわれわれはこの弱さを助けるのです。くじけてはなりません」(第六章、p168)
法王は再び日本について言及し、「原爆に苦しんだこの国は、命と平和の権利についての世界の代弁者だ」と述べた。(第五章、p180)
dZERO新人HKのひとこと
2019年11月のローマ法王フランシスコの日本訪問全行程が、法王の行動や発言とともに、つぶさに記録されています。取材現場の出来事や裏話が、たくさん書かれており、楽しみながら読み進めていくことができます。そして法王の言葉や行動から、「声なき人」への優しさや思いやりがしっかりと書かれていて、法王の穏やかで真摯な人柄が伝わってきます。「声を上げても耳を貸してもらえない人たちの声になりたい」という言葉の通り、法王は、平和は実現できると信じているのだと強く印象に残りました。権威を笠に着るのではなく、法王自身の言葉で語られているのだということがひしひしと伝わってきます。
日本は広島と長崎に原爆を落とされた、唯一の被爆国ですが、何故、今になって法王がこの地を訪れたのか、その思いは何だったのか。詳細を知ることができます。
私たち、一人一人が良心を持って、平和を願い、行動することが「核なき世界」実現への第一歩ではないか。私はそう思います。
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