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2021年4月に読んだ本感想 ~ファンタジーからミステリから暗黒小説まで~

 最近また読書のペースが上がってきたので感想を書いていきます。

 5月はじめくらいに書き始めて、結局5月半ば過ぎたぐらいまでだらだら引き伸ばしてしまった……。ちゃんと書ける時に書いておかないとだめだね。


森山光太郎『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』

 最年少受賞者って自分のイメージなんですけど、やっぱり名作生み出す率高い気がする(感覚の問題なので、統計は一切取ってませんし、全員読んでるわけでもないので、この意見100%の主観です。)。
 『烏は単に似合わない』の阿部智里さんとか、『黒冷水』デビューの芥川賞作家の羽田圭介さんとか、『かか』で三島賞最年少デビューした『推し、燃ゆ』の宇佐見りんさんとか。

 朝日時代小説大賞を最年少で受賞したのが作者の森山光太郎。デビュー作は卑弥呼をテーマにした『火神子 天孫に抗いし物』というバリバリの時代小説だが、ほかにも西洋風ファンタジー的作品も書いていて、隷王戦記は西洋ファンタジーの作品になっている。

 パルテア大陸の草原の民として暮らすカイエンは、他の民とは隔離されて育てられた少女・フランと共になるために、次期族長兼フランの守り人であるアルディエルとの決闘に臨む。
 そこに急を知らせる伝令が駆けつける。「滅びの使者」が現れた、と――。滅びの使者とは牙の民の王エルジャムカが放った使いの者であり、エルジャムカは戦を仕掛ける国に対して二者択一を迫る。服従か、滅びか。
 服従を選べば全員が奴隷として扱われ、戦う道を選べば女子供含め全員の命が奪われる。どうするかを思案する中、フランの隠されてきた力について告げられる。

 戦記物であり、全3巻で完結と言われているシリーズ。こういうの大好きなんですよ、本当に。最後まで読んだ感想ですが、なるほどなるほどと。タイトルの「隷王」の意味がなんとなくわかってくる。あと個人的にマイいいですねえ~。
 あとがきから作者のこみ上げてくる思いが読み取れる。熱いな!

 2巻は夏、3巻は年末に出るようなので追いかけていきたい。


真梨幸子『ふたり狂い』

 人間関係の歪み・妬み・嫉みから生み出されるドロドロを描くことに絶対的信頼がある真梨幸子さんの作品。『孤虫症』と『殺人鬼フジコの衝動』で魅了されてからは熱中して追っかけている。

 まず目を引くのが目次。エロトマニア、クレーマー、カリギュラ、ゴールデンアップル、ホットリーディング、デジャヴュ、ギャングストーキング、フォリ・ア・ドゥ。
 何個かは聞いたことあるものも混じっているこれらは精神的心理的な現象や歪みや病気や傾向のこと。例えばカリギュラは「やってはいけないとくり返し言われることで、逆にやりたくなってしまう現象」のこと、ギャングストーキングは「人を雇って標的の悪評をばらまいたり監視したりして社会的評価を失墜させること。……ただし被害者の妄想である場合が多い」など。これらの現象がそれぞれの話の核になっている。

 第1話「エロトマニア」はある裁判の傍聴に出向く女性の視点で展開される。
 被告人・川上孝一はある時職場の人に勧められて読んだ小説に自分と同姓同名の登場人物が出てくる。作者である榛名ミサキの他の小説を読むと自分の象徴だと思えるような登場人物が必ず登場している。その上主人公は毎回自分がモデルのキャラに恋心を抱くストーリーとなっていた。どこかで自分が監視されていて自分のことをなんでもかんでも小説に書かれてしまっていると思った川上は榛名をナイフで刺してしまう――。

 その後第2話、第3話と続き、コロッケ指混入事件、不審人物がマンションの自分の部屋に入ってくる等々の事件が次々と発生する。

 個人的な驚きだったのだが、ある程度読んだところで「あれ? これもしかして連作!?」と驚いた。途中まで独立短編だと思ってた……、本当に。そしたらまさかの連作。細かいところまできっちり作り込んでいるので、まさかと思うところまでしっかり回収される。
 真梨幸子作品あるあるだが、登場人物が多く途中で忘れてしまったりするので、軽くメモを取っておくほうが楽しめる。この作品は短編で区切られているので最初に読む本としても読みやすいかも。


佐藤究『テスカトリポカ』

夜と風、双方の敵、煙を吐く鏡、われらは彼の奴隷――

 発売直後から「やべえ! とんでもない作品が出たぞ!」と一部Twitterで話題になっていたので即購入。土日で一気に読み切った作品。『QJKJQ』『Ank:a mirroring ape』といったぶっ飛んだ作品を書いた佐藤究の最新作。

 メキシコ麻薬カルテルのバルミロは敵対するカルテルからの攻撃を受け、ジャカルタへと逃亡する。逃亡先で日本人医師と出会い新しいビジネスを行うために日本の川崎へと飛ぶ。その先でメキシコ人女性ルシアと川崎のヤクザの間に生まれた土方コシモ少年と出会う。
 麻薬カルテルを築いた主人公だから麻薬ビジネスの話かと思いきや、まったく別のおぞましいビジネスへと発展していく。

 なんといっても文章がとにかくいい。行ってることはめちゃくちゃ残酷なのに文章は乾いていてビジネス的、シンプルに淡々と事実を書いていくような文体がとてもマッチしている。
 Twitterで見かけたコメントだったけれど、ビジネス上必要なこと以外は徹底的に排除していると感じる。こういうノワールだと虐げられ暴力的被害に遭う女性とか描かれることが多いけれど、この作品はない。なぜなら一切ビジネスに関係がないから。
 露悪的、嗜虐的な文章ではないからそういうのが苦手な人にもぜひ読んでほしい。

 タイトルとなっているテスカトリポカはアステカ神話の神の名前。現代ではとてもおぞましいとされているアステカの儀式についても詳しく描写されている。バルミロの祖母リベルタが特に強くアステカの神々を信仰していて、バルミロその影響を濃く受け継いでいる。
 リベルタの台詞で特に印象に残ったものがあるので抜粋。

「スペイン人はアステカ人の王様を殺し、神殿も壊したよ。都を滅茶苦茶にして、その上に宮殿と憲法広場を作ってしまった。

 連中はアステカの恐ろしい神々を怒らせたよ。白人の文明に取り込まれたふりをして、アステカの神々は奴らのはらわたを食いちぎり、首を切り落としてまわってるんだよ。麻薬戦争はおわらないだろう? あれは呪いなのさ。
 海を越えて、アステカの偉大な神々のもたらす災いが、どこまでも広がっていくんだよ」(p.89)

 (おまけ)書評家の杉江松恋さん、若林踏さんによる書評動画も上がっているのでこちらもおすすめ。


佐藤青南『サイレント・ヴォイス ~行動心理捜査官・楯岡絵麻~』

 第9回このミス大賞を『ある少女にまつわる殺人の告白』で受賞してデビューされた作者。実は佐藤青南さんを知ったきっかけは小説じゃなくてYouTubeという……。
 執筆実況や視聴者からの一問一答などをやっていてちょくちょく観ていたので購入。

 主人公はタイトルの通り楯岡絵麻、捜査一課の28歳(自称)の女刑事と、その相棒である西野圭介が主人公の連作短編集。本書は全5話。
 楯岡絵麻はまたもタイトルの通り行動心理学を用いて容疑者たちと相対する。僅かな仕草、挙動、発汗、癖、視線、諸々の情報を手がかりにして犯人を追い詰める。絵麻と容疑者たちとの会話劇がストーリーの中心になるので、取調室を舞台とした一種の密室劇としても楽しめる。やっぱり第一話のシンプルながらもツイストの効いてる展開でぐいっと掴まされた。

 これを読んだ理由は作者のYouTubeの他にもう一つあって、このシリーズの最新作のタイトルが公開されてそれが『行動心理捜査官・楯岡絵麻vsミステリー作家・佐藤青南』。なんと作者本人が主人公と対決するという超変化球。
 こういう趣向大好きなんですよ、自分。『ウロボロスシリーズ』とか。これは読まなければと思い1作目を手に取った次第。

(おまけ)作者による執筆実況動画。ここから知りました。


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