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【読書】銀狐は死なず【オススメ】

鷹樹烏介(たかぎ あすけ)さんの新作、銀狐は死なず。

主な登場人物が悪党専門の押し込み強盗に殺し屋とヤクザとスパイとテロリスト。で脇役がチンピラと半グレとデリヘル嬢という、悪党どものひしめく終わりなき死のロイヤルランブルとでもいうべき凄まじい一冊です。死とか血とか暴力、謀略、肉弾戦も盛り沢山の傑作クライムサスペンス。

オススメです。ホント面白い。


主人公の銀狐は、外国で捨て子として育ち、日本で暮らす元ボクサーで自称・時代遅れの押し込み強盗。本人がそれを自覚するほどに、世の中は便利で透明で、悪党には住みにくくなった。だから退職金がわりにヤクザの闇資金を運ぶ現金輸送車を襲って、余生をのんびり暮らすつもりだった。そんなライフプラン、日本FP協会だって思いつかないだろう。

狙うのは裏社会の連中専門で、殺しはやらない。裏社会専門なのは義賊だからではなく、後ろめたい金は取られても大っぴらに騒げないから。

今回が最後と決めて、自分の悪党としての師匠とも呼べる男からの情報を元にヤクザが運ぶ7億円もの現金に狙いを定めた……。


しかしてこの計画は嘘っぱち、現金7億円なんかありゃしない。さあどうする!?

しっかりと濡れ衣だけは着せられた銀狐は追手をかわしつつ逃避行を開始。その隠れ家で出会ったのは身元不明・しかし情報戦のプロと呼べる少女だった。

老いた悪党と宿無し親無し戸籍無しの野良少女のコンビが、日本の裏社会に渦巻く凶悪な陰謀との戦いに挑む。


どっから読んでも人が死ぬか殴られてるか、そうでなければ腹の探り合いをしたり、戦いの準備をしたり……休む間もなく戦い続けているんだけどメリハリがあって読みやすくて、平和な日本の裏側で巻き起こる暗闘にグイグイ引きずり込まれてゆく。むしろ緩急自在の読み心地は極上で、まさにキケンで体に悪いものほど甘美な味わいと優しいうたい文句を持ち合わせているかのよう。


劇中には刺客として放たれた柔道の猛者である小倉(こくら)と元プロボクサーの銀狐による柔道VSボクシングのノールール異種格闘技デスマッチが繰り広げられる。なんとなく小倉の見た目は岩釣兼生さんみたいな感じかな…と思って読んでいた。スキンヘッドでずんぐりむっくりのコワモテだから実際は違うかもだけど、醸し出してる雰囲気とかね……これも背が高く手足の長い銀狐とは対照的。肉弾戦のボスキャラとして立ちはだかるのに最適なキャラクターだった。


血生臭く泥臭く、だけど人間臭い銀狐。そんな銀狐に拾われて心を通わせる若き情報戦のエキスパート、野良。それとは対照的に血も涙もない、ただ雇い主の指示通りに任務をこなし淡々を殺人を行うテロリスト・カロと、その相棒で正体不明の天才ハッカー・アゲハ。終盤は、この組み合わせの男女混合タッグでの殺し合いになる。先の読み合い、裏のかき合い、そして仕留めたと思った影は……。


何度も書くけど徹頭徹尾、悪人や悪党、殺し屋しか出て来ない。だけど、どいつもこいつも、どこか人間としての弱みや、ヒトとして欠けた部分を持っているがゆえに人間っぽく見える。その欠点、弱み、暗い過去がキツイ奴ほど強く、そこから血のにじむような努力の末に血も涙も失くした奴だけが生き残る激烈な悪党デスマッチが堪能出来ます。

仮面ライダーとショッカーで仁義なき戦いを撮ってるような感じといえば近いかも知れない。

ただしダークヒーローとかでなく、悪党はあくまで悪党。社会の暗部に蔓延る人でなしという立場は変わらないし、何度もそれを突きつけられる。

特に家も親も戸籍もない野良が高熱を出すシーンは屈指の大ピンチにして名シーンで、老医師とのコンビネーションも抜群にして銀狐の情け深さ、彼の持つ弱みが最大限に活きた悲しくもあたたかい心持を、小倉とのヒリつくような激闘と並列して描き出している。


国境も民族も生い立ちも越えた、アイデンティティと矜持とがぶつかり合って、スパークして、またくすぶって終わる。コレで終わりじゃない、またいずれ何かが起こる。

その時こそ、コレじゃ済まない。

世の中に善意や思いやり、ぬくもりの心がある限り、その裏側には必ずそれらを食い物にして暮らす奴等が居る。銀狐は必ずしも我らの味方ではないが、そんな悪党どもと戦い続けた悪党に対しての悪党なのかも知れない。


続きがあるなら是非読みたい!と思っています。今回も面白かったです。


ガーディアン新宿警察署特殊事案対策課、第四トッカンなどと比べるとよりハードで、魑魅魍魎がヤクザや悪党に置き換わった作風もまた楽しめました。

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