見出し画像

【2月第2週】DAOレポート Vol.5

イントロ

デリゲートを使ったガバナンスは課題山積だ。

デリゲートとは、ガバナンストークン保有者が投票や提案する権利を第3者の個人や組織に委任する(デリゲートする)制度だ。多くのDAOが採用している。

背景にあるのは、DAO政治に参加するコストの高さだ。日々の生活で忙しいガバナンストークン保有者は、毎週のように出される提案や投票を全てチェックできないため、自分と主義主張の合うデリゲートに投票を任せるインセンティブがある。一方、デリゲートは、委任してもらうため、DAOの提案をリサーチし、代わりに投票を行い、結果を報告する。この質の高さがデリゲートとしての売りになる。

老舗DeFiプロトコルのメーカーをはじめ、デリゲートのプロ化の流れも起きている。例えば、メーカーでは、トップクラスのデリゲートに対して年収2000万円ほどをDAOのトレジャリーから支払う決定をした。

しかし、デリゲートが肝心のDAO投票率上昇に貢献していないという批判は少なくない。例えば、Karmaの調査によると、メーカーやユニスワップ、オプティミズムなど巨大なDAOにおいて、2022年の第3四半期と第4四半期、53%のデリゲートが一度も投票を行わなかった。「幽霊デリゲート」の問題は思ったより根深いようだ。

現在、一般的にDAOの投票率は5%ほどという。リアル世界の国政選挙の投票率と比べても極めて低い水準だ。デリゲートは、投票率向上の解決策として期待されていたが、改善の余地はありそうだ。

さまざまなリサーチ機関が、デリゲートをめぐるガバナンスの改善案出している。下記の「オススメの読み物」でも書いてある通り、たった55のガバナンストークン保有者が高いエンゲージメントを出す例もある。

データ振り返り

トレジャリー総額

今週のトレジャリー総額122億ドルの内訳は、​​流動性のある資産は96億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は26億ドル(Vesting)だ。前週比で、6%減少した。

アクティブDAOユーザー

アクティブDAOユーザー数は、1,800,000人だった。

ガバナンストークン保有者

今週のガバナンストークン保有者数は、6,400,000人だった。

DAO投票数

今週の投票数は、63,046となり前週比で26%増加した。

DAO提案数

提案数は、229件となり前週比で4%減少した。

アクティブDAO数

今週のアクティブDAO数は、68となり前週比で2%減少した。

注目のプロポーザル


① Uniswap、Optimismガバナンスへの参加を主導する委員会設立を提案 - [RFC] Uniswap Optimism Protocol Delegation Program

提案 https://gov.uniswap.org/t/rfc-uniswap-optimism-protocol-delegation-program/20242
投票 未定
要点

  • Uniswap財団は、イーサリアムのレイヤー2ソリューションを開発するOptimismの「プロトコル・デリゲーション・プログラム(Protocol Delegation Program)」を使用し、Optimisumのガバナンスに参加する。

  • 同プログラムは、Optimismで発生した合計ガス料金をもとに選出された15のプロトコルへ、ガバナンス基金からOPトークンが委任される。

  • Uniswap財団は、199,501OPトークン(約6463万円相当)を委任されたことを受け、Optimismガバナンスへの参加を主導する5名からなる委員会の設立を提案した。

② dYdX助成金プログラム v1.5の更新 - Renew dYdX Grants Program v1.5

提案 https://commonwealth.im/dydx/discussion/9570-dydx-grants-program-v15-renewal
投票https://forums.dydx.community/snapshot/dydxgov.eth/0xf2d9cb558c89141acca9c6783d6ad14e836f08bd0de4c2c9b22fe4098c7093ab(2月12日投票終了)
要点

  • レバレッジ取引に特化した分散型取引所dYdXのDAOは、グラント(助成金)プログラムの更新をめぐって投票を行い、賛成多数で可決された。

  • 現在グラントプログラムは、217万ドル(約2億8210万円)相当のDYDXトークンと53万ドル(約6890万円)相当のUSDCからなる、約270万ドル(約3億5100万円)相当の資金を持っている。

  • グラントチームの提案は、以下の通り。

  1. オペレーション予算として$372,000(約4800万円)

  2. トランザクションの承認を行うマルチシグオーナーによるトランザクションの承認回数を5回から3回に削減

  3. 既存の予算のDYDXトークンの内、最大50%をUSDCに交換

③ dYdX取引報酬を45%削減する提案 - DRC - Reduce Trading Rewards by 45%

提案 https://commonwealth.im/dydx/discussion/9949-drc-reduce-trading-rewards-by-45
投票 2月13日開始予定
要点

  • レバレッジ取引に特化した分散型取引所dYdXのDAOは、dYdXの取引報酬を45%削減する提案をした。

  • dYdXでは、dYdXで支払った取引手数料に応じてトレーダーに対して取引報酬が支払われる。すでに過去の投票で25%削減された。

  • 提案の背景には、28日周期の各エポック期間にコミュニティへ割り当てられた総予算6,520,548 DYDX(約21億4270万円)のうち、取引報酬が未だに44%を占めていることがある。

  • 今回の提案は、現在の取引報酬への割り当てを2,876,712 DYDX(約9億4500万円)から1,582,192 DYDX(約5億1990万円)に削減する。

④ Optimismのプロトコルアップデート「Bedrock」の提案 - [DRAFT] Upgrade Proposal: Bedrock

提案 https://gov.optimism.io/t/draft-upgrade-proposal-bedrock/5014/1
投票 未定
要点 

  • イーサリアムのレイヤー2ソリューションを開発するOptimismの財団は、最初のプロトコルアップグレードである「Bedrock」を提案した。

  • Bedrockは、トランザクション手数料の削減や入金にかかる時間の短縮など、パフォーマンスや機能向上に加え、マルチチェーン化への準備における重要なステップとなる。

  • この提案が可決されれば、シンプルかつEthereumと同等のパフォーマンスと機能を合せ持つレイヤー2ソリューションとなると言われている。

⑤ Developer DAO、ガバナンス構造のアップグレードを提案 - Developer DAO Governance Structure Upgrade P-22: DAO Governance Structure Upgrade

提案 https://forum.developerdao.com/t/dao-governance-structure-upgrade/2615
投票https://snapshot.org/#/devdao.eth/proposal/0x9b84e2300bdcf8d8dde53687c29f71ab9e16ee99feac58734687a2ff10f869ee(2月11日投票終了)
要点 

  • Web3デベロッパーおよびデザイナー、マーケターのコミュニティを運営するDeveloper DAOは、ガバナンスと組織構造を整備する必要があると指摘し、ガバナンス参加者の役割とDAO、Foundation(財団)、サブDAOの関係を明確にすることを提案。

  • 具体的な狙いは、ガバナンスの構造をよりシンプルにするとともに、報酬の構造や資金の流れを明瞭化すること。

  • 例えば、サブDAOは、DAOやその他メンバーがより自由にエコシステムへ参加するための取り組みであり誰でも参加・提案が可能であると、正式に予算が降りるまでは仮のサブDAOとして活動を許可する。

⑥ Uniswap、説明責任委員会設立を提案 - Uniswap RFC — Accountability Committee Proposal

提案 https://gov.uniswap.org/t/rfc-accountability-committee-proposal/20316
投票 未定
要点

  • UniswapのDAOは、v3に関する契約の監査役として説明責任委員会(Accountability Committee)の設立を提案した。

  • 同委員会は、Uniswap DAOと外部関係者との間で交わされるライセンス契約やパートナーシップ契約をサポートし、DAOに対する説明を担う。

  • 背景にある問題として、過去に、規約に記載されていない項目が原因で資金提供や実装が遅延する事例が挙げられている。

  • 委員会の初期メンバーは5人構成、期間は6か月とされており、推定予算は、最初の6か月で8万2500ドル(約1070万円)、1 年で16万5000ドル(約2145万円)である。

話題のTweet

➀「トークン保有者によるガバナンスはスケールしないことを人々が認識し始めたのが嬉しい。」

②「前回の強気相場における大失敗は、金銭的なインセンティブがソーシャルコミュニティに力を与えると考えていたこと。社会的インセンティブが常に勝つというWeb2の教訓から私たちは学んでいない。金融コミュニティにソーシャルコミュニティを追加するのではなく、ソーシャルコミュニティに金融コミュニティを追加するという姿勢が必要。」

③「SEC(米証券取引委員会)がアメリカから暗号資産ステーキングを排除しようとしている...どう思う?」

オススメの読み物


① 「DAOガバナンス改善に向けた評価ネットワークの分析」NoDW #12: Analyzing Reputation Networks to Improve DAO Governance (Part 1)

Web3の基本は匿名性にある。Web3の参加者の間で、お互いに関して知っている情報はウォレットアドレスのみ。学歴も職歴も関係ない。では、どうやってお互いの「評価」をするのか?例えば、DAOの参加者の中から貢献度の高い人やタレントを個人情報を求めずに探し出せるのか?Web3における評価制度の構築は喫緊の課題だ。今回、TalentDAOのメンバーがどのDAOに最も参加し、どの提案に最も投票し、どのDAOで最も影響力があるかを可視化した。Web3における評価制度構築の最初の一歩と考えられる。DAOエコシステム成長への貢献を目指すタレント集団「TalentDAO」が執筆。

② 「ハイブリッド・オーナーシップ」Hybrid Ownership

ガバナンストークンは基本的に全てのステークホルダーに将来の成長に対する対価というインセンティブを与える。創業者、初期の従業員、投資家、そしてユーザーの間に分け隔てはない。しかし、プロトコルの長期的な成長を考える際、この「平等」なオーナーシップの形には問題が生じる。例えば、ユーザーの場合、創業者などと異なり、長期的にプロトコルにコミットするという確約がないからだ。代替案として考えられるのは、創業者、初期の従業員、投資家のグループと現在のユーザーグループに対して、オーナーシップの形式を変えることだ。ユーザーに対しては過去の貢献を振り返って貢献した分だけの対価を支払う。トークン値上がりに対する対価は払わない。一方、創業者、初期の従業員、投資家に対してはプロトコルの成長から得られる対価を払う。shough.ethが執筆。

③ 「承認されたデリゲートに関してするべきこと、するべきでないこと」The Do’s and Don'ts of Recognized Delegate Programs

デリゲートは、ガバナンストークン保有者から投票権や提案権をデリゲート(委任)される。多くのDAOには、普通のデリゲートと承認されたデリゲート(Regonized Delegates or Endorsed Delegates)の2種類がある。承認されたデリゲートはDAO全体の投票率アップに貢献する一方、中央集権化の懸念があるため扱いは慎重にしなければならない。承認されたデリゲートに関してするべきことは、①提案数やデリゲートされたトークン数など承認条件を決める②条件を満たせば自動的になれるようにする③規約に同意してもらう④報酬を渡すことがあげられる。一方、承認されたデリゲートに関してするべきでないことは、①DAOのコアチームによる選出②トークンの保有数による選出があげられる。デリゲートサービスを提供するStableLabが執筆

④「ポケットDAO - 参加証明型ガバナンスの可能性」 Pocket DAO: Exploring Proof-of-Participation Governance

Web3版のインフラ事業を手掛けるポケットネットワーク(Pokect Network)では、これまでガバナンストークンは55トークンしか発行されていない。背景にあるのは、参加証明(Proof of Participation)の存在。トークンを獲得するためにタスクをこなす必要がある。多くのDAOと異なり、1トークン=1票ではなく、1人=1票の仕組みとなっており、それでいてシビル攻撃に対する対応ができている。さらに、それぞれの投票に対して50%以上のエンゲージメントを記録。ポケットネットワークは、DAOガバナンスの成功例として注目に値するだろう。Messariが執筆。

⑤「ゼロ知識証明とDAO - プライベート組織の作り方」 Zero Knowledge Proofs and DAOs: How to Build a Private Organization

ゼロ知識証明とは、証明者が検証者に対して、 自分の持っている情報が正しいことを伝えるのに、その情報が何かを明かすことなく証明することを意味する。DAOはゼロ知識証明をどのように活用できるのか?投票者が、誰に投票したかを明かさないまま投票したことを伝える「プライベート投票」の時に使えると考えられる。現在、OVOTEとBatRaVotがプライベートDAOの開発をリードしている。分散型ガバナンスソリューション事業を手掛けるAragonが執筆。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?