[6月第1週] DAOレポート Vol.21 | 三菱UFJ信託銀行、Datachain、TOKIの「クロスチェーンインフラ」構想 なぜクリプト業界最先端なのか?
イントロ
先週、日本では二つの大きなニュースがあった。一つは、ステーブルコイン法の施行。もう一つは、Datachain、TOKI、三菱UFJ信託銀行の3社が発表したクロスチェーンインフラ構想だ。二つは関連性がある話であり、日本がクリプト最先端を走る上で重要だと考える。本日のブログではその理由について解説したい。
ステーブルコインのユースケース
海外の仮想通貨関係者に、日本の取引所にはUSDCやUSDTといったステーブルコインが上場していないことを話すと驚かれる。今は1300億ドルほどの時価総額になったステーブルコイン市場。日本の居住者は、無登録の取引所にビットコインやXRPを送金しステーブルコインと交換するなどしてステーブルコインにアクセスしてきた。日本進出を検討していた海外プロジェクトがこの現状を目の当たりにし日本市場に興味を無くしたという話も聞いたこともある。
2023年6月1日、改正資金決済法が施行されたことにより上記の現状が変わる。資産保全や送金上限を条件に海外発行のステーブルコインを取引所で流通させる可能性が出てきた。また、日本円のステーブルコインの発行と流通も可能になる。間違いなく大きな一歩だ。
日本円のステーブルコインは何に使われるのだろうか?
これまでの報道を見ると、Paypayのような日常の決済手段や貿易決済手段として使われることを想定するケースが多いようだ。しかし、今のところ日常生活、つまり「仮想通貨経済圏の外」でステーブルコインが普及している例はあまり聞いたことがない。時価総額1300億ドルの出所は「仮想通貨経済圏の中」だ。ボラティリティの高いBTCやETHの代わりにとりあえずステーブルコインに避難するという使い方、DeFiでの利回り獲得、DEXにおける証拠金として利用など、現在のステーブルコインのユースケースは仮想通貨エコシステム内で完結する場面が多い。日本円ステーブルコインの普及の鍵は「日常」だけでなく「仮想」を制することにありそうだ。
ここで注目なのが、改正資金決済法の施行直後に発表されたDatachain、三菱UFJ信託銀行、TOKIの3社による「パブリックブロックチェーン間のステーブルコイン利用取引を可能とするクロスチェーンインフラ構築のため技術提携」だ。
クロスチェーンとは、異なるブロックチェーン間で暗号資産やデータを移転・交換するソリューションを意味する。例えば、来年登場する日本円のステーブルコインはイーサリアムやアバランチ、コスモス対応などが候補として挙げられている。この場合、イーサリアム上のステーブルコインを使って、コスモスのアプリケーションを利用するには、イーサリアム上のステーブルコインを、取引所などを通じてコスモス上のステーブルコインに交換する必要がある。これは非常に使い勝手が悪く、取引所を経由する分のコストもかかってしまう。しかし、クロスチェーンを使えばコスモスにそのステーブルコインを数クリックで簡単に移転することができる。これを可能にするのが、IBCに対応するTOKIというソリューションな訳だ。IBC(Inter-Blockchain Communication)とは、Interchain FoundationやCosmosプロジェクトが策定を進めるブロックチェーン同士の相互運用性を担保するための仕様標準だ。
日本円ステーブルコインx クロスチェーンによって、理論上、日本円ステーブルコインがさまざまなブロックチェーン基盤を持つDeFiやDEXで使えるようになる。これは大きな一歩だろう。
プロダクトを見てプロダクトを選ぶという当たり前の時代 ー 再び日本がクリプト最先端へ
クロスチェーンのポテンシャルについてさらに考えてみよう。
現在、DeFiやDEX、NFTプラットフォームが自らの基盤として選ぶブロックチェーンは様々だ。株や不動産などをブロックチェーン上に載せる動きもある。今後、どれか特定の一つのブロックチェーンが天下を取り、全てのプラットフォームがそのブロックチェーンを採用する可能性は低い。仮にあったとしても、時間がかかるだろ。しばらくは、さまざまな価値や資産がさまざまなブロックチェーンを基盤に動くマルチチェーンの時代が来るだろう。
プラットフォームが一つのブロックチェーンネットワーク内でしか動けない場合、流動性の欠乏や手数料の高騰など問題が出てくる。これはweb3全体でのエコシステムとしての成長にとってはブレーキだ。ここで解決策として期待されるのがクロスチェーンがもたらす”インターオペラビリティ(Interoperability)”だ。web3ユーザーは、「どのブロックチェーンが基盤か」に縛られずアプリだけを見て使うか使わないかを選ぶことができる。「このアプリ使いたいけど、〇〇ブロックチェーン基盤だから不便だな」といった事態がなくなるわけだ。「このアプリを使いたいから使う」。web2の世界では当たり前のことかもしれないが、web3の世界では必ずしもそうではない。
さらに、特定のブロックチェーンにアイデンティティを見出す人は少なくない。「〇〇チェーンマキシマリスト」と呼ばれる人もいる。しかし、本質は、ユーザーにとって「プロダクトAは良いから使う」であって、それ以上でも以下でもないはずだ。以下は、dYdX創業者アントニオ・ジュリアーノの最近の発言だ。
「dYdXのブランドとコスモスが結びつきすぎるのは好ましくない。アプリは基盤となる技術とは別の理由で使われるべきだ。dYdXのv4では、ユーザーであるあなたは、どのチェーン、どのウォレットを経由しようが単に「預金」という行為を行えば良いだけだ。「コスモス」や「ブリッジ」やその他の厄介な話は止そう」
dYdXは今年、イーサリアム基盤からコスモス基盤へ移行する予定だ。
コスモスを使うのだけどコスモス色を出さずにプロダクトにフォーカスしてもらう。仮にコスモスのマキシマリストがいるとしたら怒られる話かもしれないが、インターオペラビリティとはそのような話だろう。
上記の話は、クリプト業界の中でも最先端を行く話だと考える。だからこそ日本のメガバンクが、DatachainとTokiのサポートを得つつ、「クロスチェーンインフラ構築」について言及したのは大きい。インターオペラビリティをキーワードとして、日本が一気にクリプト業界の先頭に立つ可能性があるかもしれない。
注目のプロポーザル
📝 Aave-Chan Initiative(ACI)による新しいイニシアティブ「オービット」のローンチ Introducing “Orbit” - A Delegate Platform Funding Initiative by ACI
オービットはAave DAOのガバナンスをプロフェッショナル化し、現在報酬を受けていないトップの貢献者に報酬を与えるための資金提供イニシアティブ
パイロットプログラムでは、ACIの予算から月額5,000ドルずつをStableLab、Flipside、@lbsblockchainの3つのデリゲートプラットフォームに配分
選定基準はガバナンス投票への積極的な参加、有益な提案の作成、DAOの議論への積極的な参加、およびDeFiの倫理に合致すること
パイロットプログラムの目的はAave DAOのデリゲートプラットフォームを支援し、参加を奨励すること
オービットパイロットプログラムはACIの予算によって資金提供されるため、ガバナンスの承認は不要
✅ 投票開始: 未定
⏰ 投票終了: 未定
⚡ 投票: 未定
💬 議論:https://governance.aave.com/t/introducing-orbit-a-delegate-platform-funding-initiative-by-aci/13241
✍ 提案者: MarcZeller
📝 1inchDAO 報酬付きデリゲートプログラムの6ヶ月の試行を提案 | [1IP 29] Recognised delegates program
1inchDAO認識されたデリゲートは有給のポジションに就き、1inchDAOの成長と持続可能性に貢献
デリゲートの選定基準は過去の実績や他のDAOでの経験、報酬構造を考慮
デリゲートには最低500,000の投票権と3ヶ月間のフォーラムへの貢献が必要
報酬として、認識されたデリゲートは固定報酬(月額$4000)を受け取る
プログラムは1inchDAOのガバナンスに貢献する資格のある個人や団体を引き付け、維持することを目指す
試行期間中の予算は$100,000のUSDCで、未使用の資金は試行期間終了後にDAOに返還される
✅ 投票開始: 5月31日
⏰ 投票終了: 6月5日
⚡ 投票: https://snapshot.org/#/1inch.eth/proposal/0xedcd83f26e5f6f3e7973030302ba3fbab16c845491d2ad289991493ac4c9bfd6
💬 議論:https://gov.1inch.io/discussion/11322-1ip-29-recognized-delegates-program
✍ 提案者: @DAOplomats.eth
📝 Uniswap 手数料提案が否決される | Making Protocol Fees Operational: Fee options for V3
Uniswapコミュニティの手数料変更提案は否決された
投票結果では、約45%のコミュニティが手数料なしを支持し、約42%が手数料の導入に賛成
提案された手数料はUniswap V3のプール手数料の一部であり、ポリゴンでのテスト後に他のプールにも拡大される可能性があった
コミュニティメンバーからは、税金や法的な問題に関する懸念が提起された
議論では、法的な組織の不在や潜在的な税金リスクの緩和の必要性が強調された
✅ 投票開始: 5月26日
⏰ 投票終了: 6月2日
⚡ 投票: https://snapshot.org/#/uniswap/proposal/0xb471984c1daef6742be4d4983339af7ad140c3dfcfc883508fd975f5abe0e8c9
💬 議論:https://gov.uniswap.org/t/making-protocol-fees-operational/21198?u=gfxlabs
✍ 提案者: gfxlabs.eth
📝 dYdX Operations Trust(DOT) dYdXコミュニティのトレジャリーから6.6Mドルの予算を要求 | Launch dYdX Operations subDAO V2
DOT 2.0として、Operations subDAOの拡大と将来のdYdX DAOの準備を担当するために、Operationsリード、テクニカルプロジェクトリード、サイトリラビリティエンジニアの募集が行われる予定。
潜在的な将来のdYdXプロトコルバージョンへのインデクサーの展開に貢献する予定。
オープンソースソフトウェアの展開やiOSアプリ、Androidアプリ、ウェブサイト(ブラウザ)フロントエンドの運営も行われる予定。
第三者監査機関を利用してDOTの財務と業績を評価し、マルチシグの信託者の数を増やす予定。
DOT 2.0の任期終了時には、残った資金はdYdXコミュニティが管理するウォレットに送られる。
新たなTrustとEnforcerの任命が行われる予定であり、これについての投票も行われる。
✅ 投票開始: 6月1日
⏰ 投票終了: 6月5日
⚡ 投票: https://snapshot.org/#/dydxgov.eth/proposal/0x51659bfec4948e80c0b85316d3098e62ab085a95033f1c0fe6bcc72db3ebe814
💬 議論:https://dydx.forum/t/dydx-operations-subdao-v2/274
✍ 提案者: DOT
📝 Cosmos Hub バリデータの数を180に増やす提案 | Increase the validator set of cosmos hub to 180 from 175
現在のバリデータセットサイズは175であり、最後のバリデータには113K Atomが委任されている。
高い要件により、多くのCosmosコミュニティのバリデータがハブの検証に参加できなくなっている。
提案されている解決策は、バリデータセットを175から180に増やすこと。
元々、Cosmosのホワイトペーパーでは、バリデータセットのサイズは年間13%増加し、最大で300まで増やすべきとされていた。
5つのスポットだけバリデータセットを増やすという決定は、安全性を確保するため。
提案が承認された場合、コミュニティは影響を分析した後、さらにバリデータを追加するかどうかを決定する。
ガバナンス投票では、YESを選択すると175から200へのバリデータセットの増加に賛成、NOを選択すると反対、NO WITH VETOを選択すると否決となる。
✅ 投票開始: 5月30日
⏰ 投票終了: 6月13日
⚡ 投票: https://wallet.keplr.app/chains/cosmos-hub/proposals/797
💬 議論:https://forum.cosmos.network/t/proposal-797-voting-period-increase-the-validator-set-of-cosmos-hub-to-180-from-175/7283/44
✍ 提案者: waqarmmirza
話題のTweet
日本のステーブルコインがパブリックブロックチェーンにやってくる!
トレジャリーデータ
DeepDAOによると、6月5日時点でDAOトレジャリーの総額は224億ドルと前週比で横ばいだった。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が192億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が31億ドルだった。 ガバナンストークン保有者は680万人で、アクティブDAOユーザーは240万人だった。