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[11月第2週] DAOレポート Vol.43 | ATOMのインフレ率削減に関する投票でコミュニティ割れる Cosmosバリデーター選びがAPRだけでないという教訓

「バリデーターの投票先がコミュニティの意思と合致していない」

Zaki Manian's X (Twitter)

上記は、Cosmos Hubの先日出された提案 #848 「ATOMのインフレーション率を最大14%から最大10%に削減する」について、Cosmosエコシステムの有力者の一人であるZakiがコメントしたものだ。一体どういうことなのか?

Mintscan 11月12日時点の投票速報

今回の提案は、最大インフレ率の10%への削減だ。ATOMは歴史的に高インフレが続いており、ATOMの価格に対しても悪影響が出ているという議論が昔から出ている。Blockworks Researchによると、現在ATOMはステーカーとバリデーター(すなわちセキュリティ)に対して「支払い過ぎ」の状態であり、仮にインフレ率の上限を10%にしたとしても、Cosmos Hubの180バリデーターのほぼ全てがコミッション収入だけでブレークイーブンか黒字に持っていけるという。

Cosmos系のネットワークのセキュリティを支えているのはブロック提案と承認を実施するバリデーターであり、バリデーターにATOM保有者がステーキングをすることでセキュリティは高まる仕組みだ。

インフレ上限10%への変更によって、ステーキングのAPRが最大19%から13.4%に下がると予測される。この提案に対する投票は11月11日に開始。11月25日に終了する。

また、ATOMのインフレ率の削減によってCosmos系のDeFiプロトコルの普及が促されるという見方もある。最も流動性が高い資産であるATOMが担保として使われるポジションであるものの、高いインフレ率が続けば、DeFiのイールド面で他のDeFiに勝てなくなるからだ。

ネットワーク全体の利益か?自分の利益優先か?

上記のZakiのコメントに戻ろう。

バリデーターの投票先がコミュニティの意思が合致していないとはどういうことだろうか?執筆時点では反対票が52%で賛成票の42.1%を上回っている。インフレ削減はセキュリティを損なうことなくATOM価格やDeFi普及にプラス材料というネットワーク全体の恩恵を重視する勢力と、バリデーターの個々の利益を優先するみ勢力が激突する構図と見られるだろう。

注目すべきは、インフレ削減提案に「No」と投票したバリデーターからリデリゲート(再委任、ステーキング先を他のバリデーターに変えること)やステーカーとしてバリデーターの投票を覆そう(Overrideしよう)という声が表立って出ていることだ。

今回の提案とそれに対するバリデーターやコミュニティの反応から学べることは、バリデーター選びとはAPRの高さだけではないということなのではないだろうか。そして、ソーシャルメディア上で「No」と投票したバリデーターに対するバッシング等、政治的な駆け引きが重要な局面を迎えていることも特筆すべきだろう。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)/dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、11月13日時点でDAOトレジャリーの総額は214億ドルと前週比で12.04%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が188億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が34億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は890万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。

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