【2月第3週】DAOレポート Vol.6
イントロ
仮想通貨メディア大手が、DAO(自律分散型組織)における議論や投票について速報する時代になった。今月、「アンドリーセン・ホロウィッツがUniswapのBNBチェーンサポートに反対票」や「dYdXの助成金プログラムをめぐって内部対立」といったDAOガバナンスをめぐるヘッドラインが相次いだ。今後、仮想通貨メディアが政治記者やアナリストを雇ってDAOトレンドを追う時代が来るかもしれない。
DAOガバナンスの専門組織Flipside Governanceが15の著名DAOにおける議論5万9000スレッドを調べたところによると、最近のホットトピックは「スケーラビリティ系」と「投票率系」の二つに大別される。スケーラビリティ問題の解決策としてレイヤー2を使うのかクロスチェーンやマルチチェーンを使うのか議論は続いている。また、5-10%と言われるDAOの投票率をどう改善するのか?さまざまな施策が議論されている。
ちなみにFlipsideは5万9000スレッドを文字通り全部読んだ訳ではないようだ。人気DAOフォーラムの一つDiscourseで展開している膨大な数のスレッドをコンピューターを使って分析し、過去3ヶ月で急上昇中のキーワードを洗い出した。
著名なDAOは数千億円単位の巨額トレジャリー(資金)を抱えている。DAOのトピックをいち早く分析することは、新しい金脈を見つけることになるかもしれない。
今週のDAOニュース
【2月10日】Optimism、新しいガバナンスポータルを発表
イーサリアムレイヤー2ソリューションを開発するOptimismは、新しいガバナンスポータル「Optimism Agora」設立を発表。2月16日までテスト投票を開催した。
ガバナンスポータルとは、プロジェクトの改善案や予算案など運営に関する提案を行い、コミュニティ内で議論を交わすためのプラットフォームである。
Optimism Agoraを設立したのは、毎日NFTを発行するNounsのガバナンスプロセス向上のために設立された「Agora」である。
【2月14日】SECの取り締まり強化で、DeFi関連銘柄のLDOトークン38%上昇
米証券取引委員会(SEC)が米中央集権型取引所クラーケンのステーキングサービス停止を命じたこと受けて、BTCとアルトコインの価格は下落したのに対し、分散型ステーキングプロトコルのLidoのガバナンストークンLDOの価格が最大で38%近く急騰し、一時3ドルを超えた。
【2月15日】野村の子会社Laser Digital、レンディング関連のDeFiへ資金投資
野村ホールディングスの子会社である「Laser Digital」は、暗号資産のレンディングおよび借り入れサービスを提供するDeFi「Infinity Exchange」に出資した。
Infinity Exchangeは、昨年9月に複数の投資家から420万ドル(約5億4600万円)の資金調達を行なっていた。
Laser Digitalの関係者は、近々新たに暗号資産系企業3社への投資を発表する予定であると述べた。
【2月15日】マンゴーマーケッツのハッカー、過去のMango DAOの投票による和解成立を主張
分散型取引所マンゴーマーケッツから1億1700万ドル(約150億円)の資産がハッキング攻撃で盗み出された件で、ハッカーのアブラハム・アイゼンバーグ氏はマンゴーDAOとの間で和解が成立したと主張した。
同氏は、起訴をしないことなどを条件に約6700万ドル(約87億円)を返還して残りの4700万ドル(約61億円)を同氏への報奨金(バグバウンティ)とする提案について、Mango DAOが投票で可決したと述べた。
一方、プロトコル側であるマンゴーマーケッツは、この和解は「強要された」ものであり無効にするべきだと主張し、4700万ドル(約61億円)の損害賠償および利子を要求している。
【2月16日】NFTプロジェクトMoonbirdsのDAO「Lunar Society」、まもなく始動へ
フクロウをモチーフにした高額NFT「Moonbirds」を発行するPROOFは、DAO「Lunar Society」をまもなくローンチする。
同DAOでは、MoonbirdsとそのスピンオフNFTのMythics保有者が投票権を持ち、2月28日にプロポーザルの投稿が開始され、3月13日の週から最初の投票が行われる計画だ。
DAOの目的は、コミュニティの意見を取り入れてMoonbirdsとMythicsブランドを成長させ、NFTのPFP(プロフィール画像)分野で世界的な知名度を上げることとされている。
注目のプロポーザル
① 「SafeDAOの憲法」 - [SEP #4] SafeDAO Constitution
スマートコントラクトでEthereum上のデジタル資産を管理するウォレットSafe(旧Gnosis safe)を運営するSafeDAOは、憲法や規定の設立が優れたガバナンス構築に必要であると提案。
スマートコントラクトでルール作りをするというアイデアは画期的だが、それとは別に伝統的な意味での憲法や権利宣言がDAO運営には必要と主張した。
現在のセルフカストディアルのウォレットには、セキュリティと利便性が欠けていると述べ、Safeの使命や目標を憲法に記し、SafeDAOとの連携と効率化を目指す。
② 「ENS トレジャリー(基金)のUSDCをDAIへスワップ」 - [Temp Check] Swap Portion of Treasury USDC to DAI
提案 / 投票(未定)
要点
イーサリアムアドレスのネームサービスENSを運営するDAOは、トレジャリー(基金)にロックされている500万USDC(約6億5000万円)をMakerが発行するステーブルコインDAIにスワップして、Makerプロトコルへ預け入れる計画を提案した。
DAIの運用により得られる利回りレートが1%であると仮定すると、ENS DAOの年間収益は約 50,000 DAI(約670万円)に上ると推定している。
ENS DAOは、今後18~ 24か月間の運営資金として約1700万USDC(22億1000万円)の資金を確保している。
③ 「ApeCoin DAO、Ape財団の管理者の必要性を議論」 - RFP: Cayman Islands Administrator for the APE Foundation
NFTプロジェクト「BAYC」のApeCoin DAOフォーラムにおいて、Ape財団に「DAO活動のガバナンスと管理をサポートする」ための新しい管理者を設置する必要性があると提案した。
Ape財団とは、DAOの決定を確実に実行することを任務としており、Apeのエコシステムの成長を促進する役割を担う。
現在、6ヶ月を任期として選ばれた6人のメンバーが特別評議会としてApe財団を監督しているが、今回の提案が可決されると、財務、法律および規制の遵守、ミーティングの開催やソーシャルメディアおよびWebサイトのメンテナンスを担う、新しい管理者を設置することになる。
すでに4社が管理者に立候補しており、予算は最大月額75,000 ドル(約975万円)と見積もっている。
④ 「1inch DAO、投票プロセス変更を提案」 - [1IP-14] Update 1inch DAO Voting Process to Include st1INCH(v2)
分散型アグリゲーター1inchのDAOは、ガバナンスの投票プロセス変更の提案を可決した。
今回の投票によりst1INCH(v2)保有者が投票へ参加することが可能となり、ガバナンス参加者が増えることになる。
st1INCH(v2)は、1inchの2番目のバージョンであるV2へ1INCHトークンのステーキングした際に発行されるトークンである。
⑤ 「Lido、トークン報酬プラン(TRP)へ2200万LDO追加を提案」 - Request to authorise a 22M LDO ceiling for a four year contributor Token Reward Plan (TRP)
分散型のイーサリアムステーキングプロトコルLidoを運営するDAOは、エンジニアリングなどのDAO作業を請け負う貢献者にに対する報酬として2200万 LDO(約88億円)を追加することを提案。賛成多数で可決された。
過去の投票で貢献者に対して最大4年間にわたりLidoトークンLDOを配布するToken Reward Plan (トークン報酬プラン)を設立していた。
LidoDAOは、貢献者を主導とするDAO構築を目指しており、トークン報酬プランは、優秀な人材を確保しすると共にDAO貢献者へガバナンス参加を促進することを目的としている。
話題のTweet
「お金が力を持つガバナンスシステムを作るなら、誰かが票を買っても驚かないでね。」
DAO関連データ振り返り
トレジャリー総額
今週のトレジャリー総額128億ドルの内訳は、流動性のある資産は105億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は27億ドル(Vesting)だ。前週比で、5%増加した。
アクティブDAOユーザー
アクティブDAOユーザー数は、前週と同数の1,800,000人だった。
ガバナンストークン保有者
今週のガバナンストークン保有者数は、6,500,000人となり、前週比で1.5%増加した。
オススメの読み物
① 「5万9000個のDAOスレッド読んだから、あなたは読む必要ないよ」 We read 59,000 DAO forum posts, so you don’t have to…*
15の著名なDAOとその中で過去3ヶ月の間に議論された5万9000のスレッドを解析したところ、二つのトピックが最も話されていることが分かった。一つはガス代問題とスケーラビリティ問題。レイヤー2ソリューションを使うのか、複数のブロックチェーンをブリッジで介すクロスチェーン、ラップドトークンの機能を使うマルチチェーンを使ってスケーラビリティ問題を克服しようという議論が多い。二つ目は、ガバナンスの投票率を改善するための施策についての議論。とりわけ、投票権を委任されるデリゲートに対する報酬をどうするべきかが焦点となっている。デリゲート専門組織Flipside Governanceが執筆。
②「DAOでリストラはどうやる?」The Challenges of Offboarding in DAOs
2022年後半はグーグルやアマゾンなどハイテク業界でリストラの嵐が吹き荒れた。FTX破綻や「冬の時代」を受けて、仮想通貨業界にもリストラの波が押し寄せている。ここで疑問が湧くのだが、DAOのリストラはどのように実行されるのだろうか?一般的な企業ではCEOやCOO、人事部がリストラをするが、DAOの場合は投票でコアチームメンバーのリストラを決定することになる。問題は、多くの投票者がリストラへの1票を投じることに心理的な準備ができていないことだろう。また、リストラ投票後に人間関係がギクシャクすることがある。さらにリストラされた人が作ったウェブサイトの権利などがDAOに帰属せずに揉めたケースなどもある。一方、会社上層部による不透明な人事がDAOではなされないという点は歓迎すべき点として評価できる。ガバナンス専門組織Stable Labが執筆。
③「時代遅れ」Speech Outdated: Remarks before the Digital Assets at Duke Conference
米証券取引委員会(SEC)の仮想通貨の取締りの基準は曖昧だ。例えばどのトークンが証券に該当するのかはっきりとした基準を定めておらず、取締りが先行している。同じようなトークン発行体であっても、取締りされる所と取締りされない所が出てきてしまっている。また、米商品先物取引委員会(CFTC)でも、基準を作らずに取締りが先行している。最近のOoki DAOに対する取締りでDAOの投票に参加するトークン保有者にも責任の所在を求めたが、この見解はDAOによるガバナンスというイノベーションを阻害するだろう。最終的に仮想通貨に対する連邦レベルの規制が必要かどうかを決めるのは米議会だ。仮想通貨の起業家が不安に感じる「取締りファースト」の規制ではなく、はっきりとした基準の明確化がまず必要だ。SEC委員のへスター・ピアース著
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