[12月第4週] DAOレポート Vol.49 | DAOとは一体何なのか?Messariやa16zでさえ手探り状態 未だテスト段階であることを認識しよう
2023年もわずかということで、多くのリサーチ機関が2023年の振り返りと2024年の展望に関するレポートを出している。ソラナの復活を皮切りにMonolithicなL1チェーンがL2一辺倒のナラティブを変えるのか、米国の大統領選の注目ポイントは上院の議席数か、ビットコインETFの次の相場のテーマは何か、など様々な切り口の分析が出てきている。そして、もちろん、「DAO(自律分散型組織)」もMessariやa16zといったリサーチに秀でた米企業の注目分野の一つだ。特筆すべきは、彼らのDAOへの注目の仕方が日本のそれとは大きく違っている点だ。すなわち、現状においてすべきことは概念レベルの整理であり「DAOとは一体何なのか?」を突き止めようとしていることだ。現段階で「民主主義でもコーポレートガバナンス(企業統治)といった枠組みでも当てはまらないDAOのユニークさがあるのではないか?」という点に正直に正面から直面している。
民主主義でもコーポレートガバナンスでもない
MessariのCEOであるライアン・セルキス氏は、毎年恒例でクリプト業界で人気の「Crypto Theses for 2024」の中で、DAOは伝統的なコーポレートガバナンスの枠組みの中では捉えられないのではないかと論じる。
DAOの立ち上げは早くて安い。管理や資金援助、Exit、そして清算がしやすい。
Codeは国境を越える。DAOの規制における管轄はどこか曖昧。メンバーが世界中に散らばる中、規制の執行はどうするのか?規制のアービトラージがDAOにはある。
プロトコルの過半数のトークンを使って他のプロトコルと合併するなど、新たなコーポレートアクションの可能性。
どれも納得できる点だ。本来は世界中にメンバーが散らばるDAOにおいて、同じDAOに所属していても国ごとに取り締まりのされ方が違うということがあり得てしまうかもしれない。また、以前のブログで書いたように、コスモスではDeFiスーパーアプリ目指すMarsが、OsmosisとNeutronから同時に「合併」提案を受けた。
一方、a16zは、DAOのデザインにはマキャベリ的な発想が必要と論じる。知識量と自由時間がDAOメンバー間で異なる中、1トークン=1票に代表される直接民主主義的なデザインは適切ではない。そこにはコーディネーションの欠落やリーダーの不在といった問題が露呈する。少数が意思決定をリードする方が良いのではないか?こうした疑問を15 - 16世紀イタリアの都市国家時代を生きたマキャベリも抱えていた。ある程度の独裁的な体制の許容をする一方、それに対する「永久的な反対」を意識的に導入することで秩序作りをする。DAOにおける権力のチェック体制は何か概念レベルで議論を始めている。
また、オンラインガバナンスの研究者が集うMetagovのEllie Rennie教授は、DAO(もしくはバリデーター文脈におけるGovernators)の統治について、民主主義やコーポレートガバナンスと異なる可能性について述べた。
要するに、DAOとはまだテスト段階のものなのだ。DAOにとって何がユニークな点なのか、民主主義とコーポレートガバナンスで語れない点は何か、実験を繰り返しながら整理する段階と言える。グローバルでDAOリサーチの先端を走る研究者の間でも理解が手探り状態のDAOについて、日本の一部で動きがあるように、会社法やコーポレートガバナンスの文脈に落とし込むのは少し時期尚早なのではないだろうか。
トレジャリーデータ
DeepDAOによると、12月25日時点でDAOトレジャリーの総額は290億ドルと前週比で19.34%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が253億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が40億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は970万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。