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【3月第2週】DAOレポート Vol. 9

イントロダクション

米テック企業やVCへの融資で知られるシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻によって、11日、Maker DAOがUSDCへの依存度を下げるための緊急提案を行った。背景にあるのは、”分散型ステーブルコイン”であるDAIが米ドルと1対1で連動しなくなったことだ。分散型ステーブルコインと謳いながら中央集権的なステーブルコインに頼る仕組みに、大きな課題があることが浮き彫りとなった。
Maker DAOの緊急提案は、即日で可決され、13日に実施される予定だ。

(出典: Goingecko 「DAIの価格 」)

DAIは11日土曜日、一時0.9ドルを下回った。なぜSVBの経営破綻でDAIがデペッグしたのか?DAIの50%以上がUSDCに依存しているからだ。
USDCを発行するサークル社は、現在流通する400億ドルほどのUSDCのうち、33億ドル分をSVBに預けていると発表。USDCは一時0.9ドルを割り込んだ。DAIはその影響をモロに受けたというわけだ。
「中央の失敗」による緊急時に中央集権型のステーブルコインと同じ動きをしたDAI。「分散型」の触れ込みとは異なり、人々にとってDAIはUSDCと同じに映ったようだ。

Maker DAOの緊急提案と課題
DAIを発行するMakerのDAOはすぐに動いた。Maker DAOのリスクユニットコアは、土曜日、USDCへのエクスポージャーを下げるための緊急提案を行い、Maker DAOの投票権の保有者に対してすぐに提案をチェックするように呼びかけた。
提案の一つは、PSMと呼ばれるDAIと米ドル連動のステーブルコインを1:1でスワップするためのツールに変更を加えることだ。具体的には、一日あたりのDAIのミント上限を2億5000万DAIに下げ、USDCからDAIへのスワップ手数料を1%に引き上げることだ。
PSMは以下のような仕組みだ。あなたが100USDCをPSMに入れると、PSMが100DAIをミントしてあなたに送金する。100USDCはPSMの準備金として保管され、あなたの100DAIの担保となる。一方、DAIをUSDCにスワップしたければ、DAIをPSMに入れてUSDCを準備金から受け取る。
今回の緊急提案は、前者のDAIミント額を減らし、USDCからDAIへのスワップ手数料を増やすことで、USDCへの依存度を減らすことを目指している。
しかし、問題は、そもそもPSM自体が「中央集権的なステーブルコインがデペッグすることはないだろう」という前提に立っていることにあるようだ。PSMには、USDCの他、USDPとGUSDという中央集権的なステーブルコインが入っている。昨年3月、Makerは「なぜDAIは安定するのか」というTwitterのスレッドの中で、「仮にDAIが1ドルを下回っても安いDAIを買って1:1でPSMを通して売ることで安定につながる」と解説していたが、DAIが1ドルを下回る原因がUSDCだったとは想定していなかったようだ。
中央集権的な外部組織に頼らず、分散化し、自己完結できるプロトコルとはいったい何か。Makerを始めするステーブルコイン、そしてDeFiは、今回の教訓から多くのことを学ぶことになりそうだ。

今週のDAOニュース

【3月2日】アメリカのユタ州でDAO法が可決、来年の施行を目指す

  • アメリカのユタ州議会は、新しい法律であるユタ州分散型自律組織法(Utah Decentralized Autonomous Organizations Act)を可決した。

  • DAO創設者の個人情報の公開が必要となるが、参加者の匿名性は保たれるという。

  • さらに、DAOプロトコルが導入され、税務処理に関する情報がより明確になり、DAOの機能がアップデートされる。

【3月6日】PancakeSwap、4月上旬にV3をリリースへ エアドロップ予定

  • 暗号資産同士のスワップ(交換)サービスを提供する分散型取引所PancakeSwap(パンケーキスワップ)は、4月上旬に3番目のバージョンであるV3をローンチすると発表した。

  • これに伴い、3月5日から4月3日の間にPancakeSwap V2の特定の暗号資産ペアへ流動性を提供したユーザーに対して、総額100,000ドル相当(約1300万円)のCAKEトークンのエアドロップと記念NFTが付与する。

(出典: PancakeSwap「Participate in PancakeSwap V3 Launch」)

【3月7日】イーサリアムネームサービスがサブドメイン機能の発表を計画

  • 「.eth」ドメインを発行するENS(イーサリアムネームサービス)は、ドメインの管理アプリと新機能「ENS Name Wrapper」のリリースを計画している。

  • ENS Name Wrapperは、ドメイン名をERC-1155トークンへラップ(変換)する機能であり、サブドメインの作成にも活用される。

  • サブドメインは、他のユーザーに貸し出したり、社名の入った.ethドメインを契約し、サブドメインを社員に配布するなど、会社用のメールアドレスのように使用することができる。

【3月7日】メッセージングアプリのOpenChat、調達した550万ドルをDAOのトレジャリーへ

  • オンチェーンのメッセージングアプリ「OpenChat」は、DAOの本格始動に向け、調達した550万ドル(約7億1500万円)以上の資金を、DAOのトレジャリー(基金)へ移した。

  • OpenChatでは、メッセージ機能に加えて、暗号資産を送信および交換する機能が搭載されている。

  • 今後、DAOのメンバーによって、OpenChatのDAOのトレジャリーの使い道に関する提案や投票が行われる。

【3月7日】LidoのパートナーMixBytes、ポルカドットのサポート停止を検討

  • Lidoのパートナー企業でDeFiアプリ開発を手掛けるMixBytesは、LidoのDAOにおいて、2023年8月1日にLidoのポルカドットおよび Kusamaにおける流動性ステーキングプロトコルの開発と技術サポートの提供を停止すると提案した。

  • 計画では、3月15日からポルカドットおよび Kusamaの流動性ステーキングの新規預金を停止する。

  • この決断に至った理由は、市場の状況、プロトコルの成長、制限および優先順位の変更によるとしているが、コミュニティからも追加の説明を求める声が上がっている。

注目のプロポーザル

Gitcoin、投票の再検討を申請メカニズムを提案 - [GCP-000] - Post-vote “reconsider” process
提案 / 投票(3月13日投票開始予定)
要点

  • オープンソースプロジェクトの開発を支援するGitcoinのDAOは、終了済みの投票の再検討を申請可能とするメカニズムを提案した。

  • 投票前に知っていれば結果が異なっていた可能性のある情報がある場合に適用される。

  • 単に投票結果に不満を持つメンバーからの再検討要求を防ぐため、投票の勝者側のメンバーのみが、再検討を要求することが可能である。

Nouns DAO、アイデア共有のためのマーケットプレイスを提案 - Prop Lot: Where Ideas Find People
提案 / 投票(3月10日投票終了)
要点

  • Nouns DAOは、より手軽に多くのアイデアを提供し、議論するための「アイデアのマーケットプレイス」作成を検討。

  • 提案されたアイデアは、ポータルを通して投票を行い、結果によっては「温度感チェック(テンパーチャーチェック)」や提案に移行する。

  • 実際に投票へ移行し、実行された場合、アイデアの発案者へ報酬が付与される可能性がある。

ディセントラランド、セキュリティ強化のためSABアップグレードを提案 - Increase DAO Security: SAB Upgrade
提案 / 投票(3月9日投票終了)
要点

  • ディセントラランドのDAOは、詐欺やハッキング、または人的要因を含むリスクの軽減を目的に、5人のセキュリティ関連専門家により構成されるSAB(Security Advisory Board)のアップグレードを提案している。

  • SABは、ディセントラランドのDAOのスマートコントラクトを管理し、セキュリティの維持を担う。

  • また、マルチシグウォレットの鍵を保持するDAO委員会の3名のメンバーを追加または削除する権限を持つが、DAO委員会が正常に機能していることをより正確に審査する必要性を訴えている。

  • 例えば、年に一度ミーティングを行い、ウォレットの鍵を握るメンバーの生存確認および鍵を紛失していないことの確認を提案している。

Doodlesコミュニティファンド (DCF) 設立を提案 - [FINAL] Doodles Community Fund
提案 / 投票(3月6日投票終了)
要点

  • NFTプロジェクトのDoodlesを運営するDAOは、コミュニティが主催する活動 (オンラインのゲームトーナメントやミートアップなど) への資金提供を行うDoodlesコミュニティファンド (DCF) 設立を提案した。

  • NFT関連のイベントの主催希望者は、より簡単な手順で資金を申請することが可能となる。

  • DCFは、イベントの申請内容を審査し、コミュニティに対して透明性と説明責任を担う。

AztecとAragonが、Nouns DAOへ匿名の投票機能を提案 - Aragon and Aztec join forces to bring private voting to NounsDAO
提案 / 投票(未定)
要点

  • 毎日1つのNFTを生成するプロジェクトNounsを運営するDAOにおいて、AztexとAragonが、匿名による投票を可能とする「プライバシー投票」の導入を提案した。

  • Aztexはゼロ知識証明(ZK)の構築言語の開発に従事しており、AragonはDAOの構築および管理のオンチェーン・インフラストラクチャを提供する組織だ。

  • 情報の開示をせずに提示されている内容が正しいことを証明するゼロ知識証明(ZK)を使用して、プライバシー投票では、投票したアドレス等が非公開となるのはもちろん、投票期間が終了するまで、誰も投票結果を集計することができない。

話題のTweet

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左:「仮想通貨は詐欺だから、銀行にお金を入れよう」 右:「銀行は詐欺だから、仮想通貨を買おう」

SECのゲンスラー委員長が守ったものは・・・。

データ振り返り

トレジャリー総額

DeepDAOによると、今週のトレジャリー総額115億ドルの内訳は、流動性のある資産は92億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は23億ドル(Vesting)だ。前週比で、11.5%減少した。 アクティブDAOユーザー数は、前週と同数の180万人、ガバナンストークン保有者数は、前週と同数の640万人だった。

オススメの読み物

①「プロのデリゲートとして働いてみて」The Onboarding Experience of a Professional Delegate
DAOガバナンス事業を手掛けるStable Labでデリゲートとして働くKenechukwu Eze氏が、デリゲートとして働く上での心得についてまとめた。同氏は、Aave、Hop、1inch、PaladinのDAOでデリゲートとして働いている。全てのDAOで共通する必須事項は、プロフィールの記入、投票権のデリゲート先のアドレスの明示、コミュニティコールへの参加だ。デリゲートに慣れてきたら、DAOの参加方法を自らまとめる文書の作成をしたり、ガバナンスの改善提案を行なったり、特別なプロジェクトにアサインされるようになる。

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