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エンジニアからエンジニアへのメッセージー 自分のなかに生まれた“違和感”と向きあうということ【Camp Interview】Vol.2

インタビュー:
大森 康弘氏(エンジニアと「ひとへの視点」をつなぐ人)

エンジニアにとって、「デザイン」とは自分の“will”を取り戻すことでもある——
NECで25年にわたりエンジニアとして活躍した後、
IT人材・高度デザイン人材の活用事業に取り組む大森康弘さん。

技術の仕組みを知っているだけでなく、
社会にどう役に立つのか、何を解決するのか、
技術を「価値」に転換する力を身につけることは、
これからのエンジニアとしての生き方を自由にすることにつながる。

大森さんご自身の転換点、
そしてエンジニア仲間に伝えたい思いをインタビューしました。

大森さん

プロフィール

大森 康弘氏
合同会社Luminous代表
元 NECソリューションイノベータ株式会社 主席アドバイザー
DXDキャンプ講師(レクチャー編/ワークショップ編)
1984年京都工芸繊維大学工芸学部大学院修了後、日本電気株式会社(NEC)に入社。
NECでは小売業向けパッケージソフト開発や、大手小売業店舗システム開発を担当。中国、東南アジア、北米、ヨーロッパの海外プロジェクトリーダを経て、流通システム開発本部長などを歴任。2015年にNECソリューションイノベータに転籍、東海支社支配人を経て執行役員兼東海支社長として2年勤務した後、全国の共創活動、特に地域ビジネスにつながる人材育成活動を実施。現在は合同会社Luminousを設立し、IT人材と高度デザイン人材の活用事業に注力している。

いまこそ、エンジニアたちに危機感を持って欲しい

ーー大森さんは、ご自身がエンジニアでいらっしゃいます。あらゆるところでDXプロジェクトが進行し、エンジニアの需要が高まっていると思いますが、エンジニアがあえて「デザイン」を学ぶことの意味をどう捉えたらいいでしょうか。

大森康弘氏(以下、大森):確かに、DX化を実現していくためには、技術を実装していく人材としてエンジニアは欠かせない存在ですし、世の中的にもそれなりに評価してもらえていると思います。「エンジニアです!」と挨拶すると、すごいですね。って言ってもらえますし(笑)。一方で、エンジニア出身者としては、本当にこのままでいいのか、という大きな危機感を持っていて、それをエンジニアに伝え、意識改革していくお手伝いを、僕の現在の活動の一つとしています。

何が起きているかというと、現在は、さまざまな意味で技術は、僕らの若かった頃よりもはるかに複雑化し高度化しています。なによりも、その技術を活かす先が多様化しているんですよね。昔は、IT技術の使い先なんてパソコン等だけといってもいい位でしたが、今はスマホはもとより、生活のあらゆるモノや場所に必要とされています。

そういう意味では、かつては技術とその用途がある程度一体化していたので、技術の知識だけ積み重ねていけば、それで充分価値が提供できていました。しかし現在は、技術自体が細分化されただけでなく、技術を使う先もあらゆる分野あらゆる場面へと広がっています。つまり、技術の知識を身につけたうえで、さらにその技術を何に使えばいいのか、その技術を通してどういう価値を人々に提供できるのか、というところまで構想できる力が必須になってきていると思うのです。

この、技術の上にある概念、価値への転換力が「デザイン」であり、技術を理解し使いこなせるエンジニアこそ「デザイン」を学ぶべきだといえるのではないでしょうか。

たとえば、ブロックチェーンという技術がありますね。よくわからないけれど、技術としては高度で素晴らしいものだと。しかし、それをどういう風に使えば、そのすばらしさを自分も含めた世の中の人が享受できるのか、社会をどう変えていくことができるのか、というところまで考えないといけないはずなのですが、それは、ブロックチェーンの勉強だけをしてもわからないことなんです。

何のためのDXか分からないものを、エンジニア自身がつくりだしてしまっていないだろうか。僕の危機感はここにあります。

自分のなかの“違和感”に、耳を傾けてみる

—そのように考えるようになったのはなぜでしょうか?

大森:僕は、49歳の時に一度会社を辞めようと思ったことがあるんです。49歳って、多くの人が自分の人生を振り返るタイミングなのかもしれませんが、ふと自分のこれまでを俯瞰してみた時に、“ぞわっ”と気持ち悪さを感じてしまったのです。

25年間同じ場所で、同じ仕事をしている。そして何もなければ、この先もあと10年、15年、同じ仕事を続けていくんだと。それは会社が嫌になったということではなく、このまま自動的に流れていく自分を想像して、少し恐くなりました。

そこから、じゃあ自分がかかわった仕事は、世の中にどう関わっているんだろう、とか、自分がやりたいと思ったことをできているのか、と思った時に、いままでの仕事のやり方、自分に求められていることに、疑問を持ち始めました。

言葉は悪いけれど、エンジニアは、ブロイラーと同じじゃないかと。一列にざーっと均等に並べられて、毎日毎日エラーなく同じものを効率的に生みだす仕組みのなかに置かれている状態を想像してみてください。そして、そのなかの一羽にたまたま個性的なのがいて「金」のタマゴを産んだとしても、それはエラーとしてはじかれてしまう。でも本当にそれでいいんだろうか。自分が金にすべきだと思ったのに、それができないことが、幸せなんだろうか。

確かに、エンジニアの仕事としては、異質を排除し正確に納期通りタスクをこなしていくことはとても大切ことですし、入社したときからそういうことを叩き込まれたことで、いつのまにか当たり前になっている人は多いと思います。

それでも、ふとした瞬間に抱いた“違和感“を無視しないでほしいのです。その時考えたうえで、そのまま突き進むという決断ももちろんありです。しかし“違和感“として現れた、自分のやりたいと思ったこと、実現してみたいと思ったことに、正直に向きあってみるという選択も、そこにはあるはずです。

これまで暗黙知のなかではじかれていた、自分のなかのクリエイティビティを復活させること。もちろんそれを発揮するのは会社に限ったことではなく、地域のコミュニティやインキュベーションなど、それぞれでいい。それが「デザイン=人間らしさ」への一歩だと思います。

自身のなかの“違和感“から“確信”へ

ーーしかし、“違和感“だけでそれまでの価値観を変えるのは、きっと難しいですよね。
大森さんご自身が、それでも一歩を踏み出さなければ、と思ったエピソードはありますか?

大森:ひとつ、自分のなかの気づきになったのは、某大手スーパーの仕事に携わっていたときのことです。プロジェクトにはコンサルティング会社と、僕がいたNECの2社が参画してかなり順調に進行していました。ある時、クライアントさんが「○○社(コンサルティング会社)さんはパートナー、NECさんは業者さんだよね」ってすごくわかりやすくズバッっと言われたことがありまして。

それは、僕たちメンバー一人ひとりにむけられたのではありませんが、少なくとも会社としてそういう“色メガネ”でみられていることを「あぁ、そうなんだ」と実感した瞬間でした。しかし、よく考えたら“色メガネ”でもなんでもなく、自分たち自身がそういう立ち位置であることを肯定しているじゃないかと。決められた仕事を決められた手順で遂行していくことが自分たちに求められていることだと。それはそれで、モノを創っていくうえで必要な役割である一方で、自分がそれで満足していていいのか、という気づきにつながりました。

大森:もうひとつが、49歳の時に海外でのプロジェクトに参加し、海外のエンジニアたちの姿勢に触れられたことです。日本と違い、海外のエンジニアたちは、自分たちはスペシャリストで専門職、つまり自分にしかできないクリエイティブな仕事をして、もちろんそのスキルに誇りを持っており、さらにその誇りを裏付けるような給与体系になっていること(つまり年功序列ではない)に刺激をうけました。その時思い出したんです。僕だって、紙と鉛筆で自由に「デザイン」からはじめることが好きだったじゃないかと。

49歳というこれからを考えるタイミングで漠然と抱いていた”違和感”と、まったく違う文化のなかで自分を発揮している海外のエンジニアとの交流を経て、危機感が確信に変わったのを覚えています。

DXDキャンプで伝えたいこと

ーー「DXDキャンプ」という場を、どのように活用して欲しいとお考えですか?

大森:キャンプには、それぞれいろんな動機、いろんな想いを持って参加されると思うので一概にはいえませんが、既に自分のキャリアや目の前の仕事に対して“違和感“を感じ、その“モヤモヤ“の正体を知りたいと思っている人、振り切って新しい道を模索している人も多いと思います。そういう人には早く「コミュニティデザイン」や「ビジネスデザイン」など、具体的に今後の道筋になることをお伝えしたいと思っていますし、「DXDキャンプ」はそれが総合的に揃っている数少ない学びの場だと思います。さまざまな「デザイン」を横串で知って、ぜひ自分なりの「デザイン」論を考えるタイミングにしてほしいと思います。

一方で、そこまでではない、まだ“モヤモヤ“の正体を感じられずにいる人には、本当は自分が何をやりたいのか、もう一度問い直すだけでも意味があると思います。

それは、個人が悪いとかそういう話ではなく、長く組織にいると、個人の感度を鈍らせて、できるだけエラーをなくし正確に効率第一にこなすことを求められることに、慣れすぎてしまうのです。だからこそ、自分は本当は何がやりたいのか、いま世の中はどんな課題を抱えているのかなど、もう一度自分のアンテナを立て直すところからはじめてほしい。それは転職するとか、起業するとかそういうことだけではなく、いまの組織のなかで自分がやりたいことをどうやったら実現できるかという新しい視点で、自分の新しいスタンスを見つけることにもつながるはずです。

DXDキャンプの授業の様子

内に閉じていた意識を外に向けてみる

ーーもう一度自分の環境を見つめ直す。そういう意味では、ワークショップ等を通じて、異業種・異分野の方の思考に触れることも刺激になりますよね?

大森:これも大企業の特徴ですが、エンジニアは特に同じ環境で、同じように仕事をこなし、同じような思考で取り組む人たちのなかで仕事をすることになります。しかし「DXDキャンプ」では、デザイナーをはじめさまざまな分野のプロフェッショナルが、エンジニアの理論にははまらない視点で、意見や疑問を投げかけてきます。

その点で、エンジニアの方に伝えたいのは、論理だけでなく、余白の面白さも感じてほしいと思います。論理では説明できない、積み上げられない感性的なことも受け入れる受容性、多少いきあたりばったりだとしても、偶然や余白を面白がれる感性とでもいいましょうか。それはこれまであえて排除してきた人間性を取り戻すということでもあり、「デザイン」ということでもあると思うのです。

エンジニアなら思い当たると思うのですが、どうしても技術の連続性を常に守ろうとしてしまう。過去の技術、先輩の仕事を途中で否定することができず、そのまま上に重ねていき連続性を保つことが目的になってししまい、結果ユーザーからは何のためのものかさえわからなくなっているということがおこりがちです。

しかし、その前例を破壊したからこそ、アップルのような企業が出てきて、スマホを生みだし世界を席巻していくのです。それを見て、日本の多くの企業は「あのくらいのものは技術的には自分たちでも創れる!」などと言い返すのですが、しかし論点はそこではなくて、もっている技術を使ってどんな価値を描けるのか、そのためにこれまでを破壊する選択ができるか、ということなのです。それができなければ、僕は、エンジニアはいつか恐竜みたいに絶滅していまうと思います。

もしかすると、「DXDキャンプ」でデザインの考え方を初めて聞いて、そのすべての話題にピンと来て自分のものにできる人はそう多くないかも知れません。けれど、いつかこの先何かにぶつかったときに、そういえば、あの時、あんな話をしていたなと、ああいう考え方で乗り越えるという方法もあるなと、思い出してもらえればうれしいですね。

それだけでも、日常のモノの見方は格段にかわるはずです。

ワークショップについて

ーー最後に、「DXDキャンプ」で実施するワークショップの内容を教えてください。

大森:『エンジニア&デザイナーが知るべきDX,CX』をテーマにワークショップを開催します。

タイトルにもあるように、エンジニアはもちろん広くデザイナーの皆さんにも役立つ内容で構成しています。最新技術やシステムといった話ではなく「DX」をどうやってCX視点(生活者視点)で構想できるようにしていくか、もっといえば「DX」はCXを実現するためにあり、そのために必要なステップを実際にたどりながら実感してもらいたいと思っています。

いま、いたるところで「DX」がもてはやされています。しかしその多くがとにかくデジタル化、IT化、まずはそこからスタートしてみようとしている印象で、本来からすればまったく順序が逆なんです。

確かに特にこの10年、IT技術はめざましい進歩をとげました。特にスマホの威力にはすさまじいものがあります。だからIT技術が主役のように見えてしまうのは仕方がないことだし、それを支えているエンジニアがスポットライトを浴びるのは当然の評価といえるかもしれません。しかし本当にそれでいいのか。それは、巡り巡ってエンジニア自身の首を絞めていることにならないだろうか。

繰り返しになりますが、大切なのは、ただ実装することではなく、エンジニア自身が「何をしたいのか」「何を提供したいのか」という“will“を自分のなかに復活させて、目の前の“違和感“にしっかり目をむけること。本当に解決すべき課題に、技術というツールを駆使して答えを出していくことなのではないでしょうか。

そんなことを「DXDキャンプ」という場を通じて、皆さんと語り合えたらいいですね。

ーーエンジニアとしての愛がたっぷり詰まったお話、ありがとうございました!(おわり)

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