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フィルムカメラに向いていない被写体

僕はカメラデビューをフィルムカメラで果たし、それ以来意地でもフィルムで写真を取り続けて来ました。

前回の記事では僕が使っているフィルムカメラとレンズのお話をしましたが、今回はそれに付随して、フィルムカメラで撮るのに向いていない被写体のお話をしようと思います。



フィルムカメラが苦手なもの

フィルムカメラはその特性上、暗所動きもの連写撮影が苦手です。

暗所
フィルムカメラは撮影するフィルムによって感度が固定されます。
そして、流通するフィルムの殆どはISO100〜400であり、一部高感度のものもありますが、一般的に手に入るものでもISO1600が限度です。
このことから、室内での撮影や日没後の撮影は手持ちでは難しく、三脚を使うかストロボで光を補う必要があります。

動きもの
暗所に通じる話になりますが、高感度に限度があるためシャッタースピードを遅くせざるを得なくなり、動きのはやいものを撮影すると被写体ブレを起こします。
明るいレンズで絞りを開放にすることでシャッタースピードをはやくするというテクニックがありますが、ピントの合う範囲がシビアになるため、動いているものに正確にピントを合わせるのがとても難しくなります。マニュアルフォーカスはもちろん、オートフォーカスのフィルムカメラでも、現代のデジタルカメラほど高速で動作ができないので難しいです。

連写撮影
スポーツの決定的瞬間や動物の一瞬の表情などを捉えるために使われる連写撮影も、フィルムカメラでは苦手とする分野です。
電子制御のフィルムカメラの多くは連射機能が備わっていますが、フィルムを1コマずつ巻き上げるという物理的な特性上、どんなに頑張っても連射速度の上限があり、現代のデジタルカメラでは撮れる一瞬も、フィルムカメラの連射速度では間に合いません。デジタルカメラでは1秒間に30コマ以上連写できますが、フィルムカメラでは1秒間に5コマ程度が限度です。


フィルムカメラが苦手なシチュエーション

上記の苦手な要素を踏まえた上で、フィルムカメラは具体的にどういった場所での撮影が苦手かをいくつか紹介します。

水族館
水族館は室内且つ照明が暗く、展示されている魚たちはせわしなく動き回るため、フィルムカメラとの相性は最悪です。
奇跡の1コマのためにフィルムを2本、3本無駄にする覚悟で撮り続ければもしかしたら…ということもありえますが、果たしてフィルム代、現像代を無駄にしてまでフィルムで撮る意味があるのでしょうか。
素直にスマートフォンやデジタルカメラで撮るべきシチュエーションです。

クラゲのような動きのゆったりした生物であれば、照明の加減によっては頑張れば撮れる。


鳥類
屋外での野鳥撮影もフィルムカメラには不向きなシチュエーションです。
天気がいい日でも、動き回る鳥類を追いかけてピントを合わせるのはとても難しく、特に飛行中の鳥類(カワセミやハチドリのホバリングなど)を捉えようとするのは、素人には絶対に不可能です。
じっくりと動きを観察し、フィールドを熟知し、定位置にカメラをセットして、狙ったポイントに相手が入り込んだ瞬間を狙う、と言うように時間と手間を惜しまないのであれば、可能性はゼロではないかもしれませんが…。
わざわざフィルムカメラ用に何百ミリという望遠レンズを用意して、何本も何十本もフィルムを無駄にしてようやく1コマを得る、ということを思えば、その費用でちょっといいデジタルカメラを買って、無駄な努力の時間で効率よく成功写真を量産していったほうが、写真を撮る腕の上達にも繋がると思います。

止まっている白鳥が翼を広げた瞬間、この程度なら条件が良ければギリギリ撮れる。


昆虫
昆虫も、鳥類と同じ理由でピント合わせや連写が非常に難しいため、普通の方法では難しいです。

スポーツ写真
昔はフィルムカメラしかなかったので、報道カメラマンはフィルムでスポート写真も撮っていましたが、高性能なデジタルカメラがある現代であえてフィルムで撮る必要性は無いでしょう。
試合中の全体の雰囲気を捉えるような写真ならまだしも、ボールがバットに当たった瞬間や相手選手の脇をすり抜けるピンポン玉、といった決定的な一瞬を捉えるのには向いていません。

ステージ撮影
ダンスや音楽などのステージを撮影するのにも向いていません。
室内で照明が限られており、ステージの上を動き回ったりするため一瞬の表情やポーズを捉えるのは難しいです。


フィルムカメラで撮れるもの

じゃあ何ならフィルムカメラで撮れるんだよ。
ずばり、フィルムカメラで撮れる被写体は明るい場所で動かないもの。

動きが激しい動物は撮るのが難しいが、あまり動かない動物、特に寝ている猫は格好の被写体


昆虫そのものを精細に写すことは難しいが、風景写真の中に昆虫を取り込む事なら可能


室内でも、照明が確保された大規模な展示場であればギリギリ手持ちで撮影できる


昼間の風景スナップなら問題なく楽しめる


風が止むのを待って撮れば被写体ブレは起きない


接写するときは息を止めて、我が身を三脚と思いながらシャッターを切る

こうしてみると、生き物でも全部撮れないというわけでもないし、室内であってもうまく条件や撮影設定を工夫すればちゃんと撮ることができるというのはわかると思います。


フィルムで撮れないものはデジタルで

上記に挙げたフィルムカメラが苦手なものはあくまで一例なので、条件さえ合えばフィルムで撮影することも不可能ではありません。

でも、フィルムの値段が高騰していている昨今、普通に趣味としてフィルム写真を楽しむレベルの人が、失敗写真を連発してまであえてフィルムで撮る意味は無いんじゃないかなと思います。
これは、色々なものを意地でもフィルムで撮ろうと試行錯誤をしてきた僕の経験と、昨今のフィルム写真を取り巻く状況を鑑みた上での結論です。

デジタルカメラは、こういったフィルムカメラが苦手とする高感度・暗所性能や連写性能を改良して進化してきたので、フィルムの時代では撮れなかった場所での写真や、捉えられなかった一瞬の写真が撮れるようになりました。
そう考えると、デジタルカメラとフィルムカメラは全くの別物というわけではなく、フィルムカメラの歴史の延長線上にデジタルカメラが存在しているのだと実感できるのではないでしょうか。

フィルムで撮れないものは素直に諦めるというのも、フィルム写真を楽しむうえで大切な考え方だと思います。
僕は自家暗室を持っているので、現像やプリントの仕方まで含めて色々なものをフィルムで撮ってきて、どうにか形にしようと試行錯誤をしてきましたが、それでも1コマ撮るために費やす時間やコストを考えたときに、フィルムで撮るには適さない撮影シチュエーションは必ずあるという結論に至りました。

前回の記事で紹介した通り、僕が主に使っているフィルムカメラのレンズの焦点距離は24mmから200mmまでで、最短撮影距離は25cmまでとなっています。
これはつまり、三脚が必要なくて手持ちで撮影できて、手ブレをおこさない範囲で撮影できる機材のみを厳選した結果とも言えます。
これ以上の望遠レンズやマクロレンズは、三脚が必要になったり手ブレや被写体ブレを起こす可能性のある被写体を狙うことになります。フィルムカメラでそれはする必要が無いので使わない。だから僕が持っているレンズは、ありきたりなスペックのレンズしかないわけです。
それ以上のことをやるときはフィルムではなくデジタルでやる事と決めているわけです。

フィルムカメラって何が撮れるんだろう、何を撮ればいいんだろうと思ったときの参考になれば幸いです。

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