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ミラーレス一眼カメラを買ったらサイクリングが捗った話

はじめに
※本記事ではカメラを肩に掛けて自転車で運搬する記述がありますが、カメラを身につけて自転車を運転する行為には、転倒した際にカメラの破損のみならず、骨折、内臓や脊椎の損傷などの重篤な怪我を負うリスクがあります。
本記事はカメラを肩に掛けてのライドを推奨するものではありません。
同様の方法を取る際は、上記のリスクがある事を理解した上で、十分安全に留意して自己責任で行って下さい。
同様の方法を取ったことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。


「自転車で走りに行った先で、思い出として綺麗な写真を残したい!」
そう考えるサイクリストは、決して少なくないはずだ。
「自転車とカメラは相性が良い」という自転車乗りのカメラ愛好家は多い。

かく言う私も、SONYの高性能コンパクトデジカメ、RX100M3をロードバイクのお供として長らく使用してきた。

今回、新たにミラーレス一眼カメラを購入し、ポタリングのお供から旅行・普段の散歩まで1ヵ月半程使用してみた。
カメラ選びの過程で考えた、私の自転車趣味にフィットするカメラ選び、実際にサイクリングから日常生活までミラーレス一眼を運用してどう感じたか、普段のサイクリングがどう変化したか、という点について、感じたままに綴りたいと思う。

※本記事は「ロードバイク Advent Calendar 2022」12/18(日)担当記事です。
※本記事において、メーカーからの機材供与やアフィリエイト広告による収入は一切ありません。

RX100M3に抱いた不満点

SONYのRX100シリーズは、いわゆる「ハイエンドコンデジ」の先駆けともいえるような存在。
私が使用するRX100M3は2014年発売のシリーズ3作目で、8年以上が経過した今もなお販売される超ロングセラーモデルだ。
販売期間が物語る通り、軽量コンパクトなボディにこれでもかというほどの多機能と、写りのよい光学3倍ズームレンズを詰め込んだ、高性能で扱いやすいソニー渾身の逸品といえる。
サイズと性能のバランスが素晴らしく、サイクリストの愛用者も多い。
事実、出てくる写真はスマホのそれとは一線を画すクオリティで、画質に関しては全く不満なく愛用していた。

木曽路にて
奥多摩周遊道路の紅葉
新緑の白川郷
大洗海岸

しかしながら、4年という長期にわたって使用するうち、ちょっとした不満がいくつか出てきたのも事実。
サイクリング中の撮影において特に不満を感じていた点が以下の通り。

①起動が遅い

RX100M3は電動ズームレンズを内蔵するコンパクトデジカメ。
電源を入れると「ういーん」というモーター音と共にレンズが繰り出されて撮影が可能になるのだが、これが遅い。体感3秒ぐらい。
また、電源を入れるとズームが必ず24mm(広角端)にリセットされる。
私が好きで多用する50mmや70mmあたりの標準~中望遠域を使うには、電源を入れてからさらに「ういーーーーーーーん」とズームさせる必要があり、これがまた遅い……!!
サイクリング中の撮影では、信号待ちの間などで不意にやってくるシャッターチャンスも多く、電源が入ってズームを動かし切った頃には信号が青になっていた、なんて事もしばしば……

②望遠端が少し短い

35mm換算で24-70mmというズームレンジは、中望遠域が好きな私には少し物足りなかった。
あともう少し望遠があれば…!という場面が多かったが、レンズが交換できないコンデジでは撮影後のトリミングに頼るしかなく、やや不満なところだった。

③防塵・防滴でない

防塵防滴でないカメラをサイクリングで使用するにあたって、困るのが収納場所。
突然の雨に対応するために浸水しない収納場所が必要になるが、私は自転車にバッグ類を装着するのがあまり好きではない。
余計なモノが何もついていない自転車のシンプルな姿が好きで、日常のライドでは小さなサドルバッグですら滅多に使用しない。
ブルベやロングライド等で必要に迫られて装着するのは厭わないが、わざわざカメラの雨宿りのためにバッグ類を装着するくらいなら、普段のライドはスマホのカメラでいいや……という選択になりがちだった。
バックパックも試したが、身体の負担が大きい上に、一度カメラを収納すると取り出すのが億劫になり撮影しなくなるため長続きせず、「防塵防滴なら、雨も気にせず肩からたすき掛けで持ち出せるのになあ……」と感じることが多かった。

これらの不満が積もり積もって、より自分のロードバイク趣味にマッチするカメラへのグレードアップを決意した。

いざカメラ選び!自転車用カメラに求める要素とは

さて、カメラ購入を決意したものの、日本には優秀なカメラメーカーがたくさんあり、多種多様なカメラを発売している……!
自転車においても用途に応じて様々なジャンルやフレーム素材、グレードに分かれている中から自分のスタイルに合った一台を見つけ出すように、まずは自分がカメラに求めるものの要件定義が大事だ。
優先順位順に、私が自転車用カメラに求める要素を挙げてみた。

①強力な防塵・防滴

これは個人的に必須。
上でも挙げたように、ライド中の突然の雨でも、カメラを収納する場所を気にすることなく肩から下げて運搬したい。雨の中でもバシバシ撮れるくらいの堅牢性があればベスト。

②そこそこ小型・軽量でそこそこの画質

「そこそこ」これ大事!
自転車のフレームやコンポーネントはグレードが上がるほど軽量になるが、デジタルカメラにおいてはセンサー(撮像素子)のサイズが大きくなり、グレードが高くなるほど機材は大きく、重くなる傾向にある。

「撮影がメイン、自転車はその為の移動手段」という優先順位ならば大きく重たいカメラも視野に入るが、私が主軸を置くところはあくまで自転車。
画質はそこそこでも良いが、カメラがライドの邪魔になるのは嫌だ。
小型軽量に越したことはない。

③壊しても立ち直れる程度の価格

サイクリングに連れ回すカメラとなれば、どうしてもハードな環境での使用が多くなる。
汗だくの手で操作し、背中にたすき掛けで持ち運ぶうちに雨水や泥、埃を被ることもあるかもしれない。
考えたくはないが、落車や立ちゴケで壊してしまうこともあるかも……

趣味に割くことのできる資金には限りがあり、ただでさえ自転車趣味だけでもお金はかかる。
家計を圧迫しすぎず、万が一の全損でも目の前が真っ暗にならない程度の価格が理想だ。

そして選んだカメラは……

上記の条件を全て満たし、RX100M3に抱いていた不満も解消してくれるカメラ。それは……

OLYMPUS OM-D E-M5 MarkIII でした。

OM-D E-M5 MarkIII
12-45mm F4.0 PRO レンズキット

オリンパスの中ではハイミドルクラスに位置付けられるカメラで、私が購入した2022年11月初旬時点の価格は、12-45mm F4.0 PROレンズが付属するキットで約123,000円。
購入直前に後継機のOM SYSTEM OM-5が発表され、生産完了となり底値のタイミングだったこと、以前に初代E-M10を使用していたことがあり、オリンパスの操作系に慣れていたことが後押しとなった。
なお、後継のOM-5はマイナーチェンジ程度の変化で約18万円。高い……!!!

初代E-M10 初めて購入したレンズ交換式カメラだった。
RX100IIIにお株を奪われて売却済。

オリンパス(現OMデジタルソリューションズ)を選んだ理由としては、以下の通り。

  • システム全体として小型軽量で安価

  • 充実したレンズのラインナップ

  • 他メーカーの追随を許さない防塵防滴性能

  • 見た目がかわいい(超重要)

オリンパスのミラーレス一眼カメラは、比較的小さい「フォーサーズ」という規格のセンサーを使用する「マイクロフォーサーズ」というフォーマットを採用している。
マイクロフォーサーズは、小さいセンサーを活かした小型軽量性が売りで、他のフォーマットと比べてボディ、レンズともにひと回りかふた回りほど小型になっている。

一般的なカメラに用いられる主なセンサーは、大きい順にフルサイズ > APS-C > フォーサーズ > 1.0型(1インチ)となる。スマホカメラでは1インチよりひと回りかふた回り小さいセンサーがほとんど。
センサーサイズと性能の相関については以下の通り。

超ざっくり言えば、センサーが大きいほど、でかい、重い、高価、高精細。
(もちろん例外はある)

画質に関しては、SNSにシェアする程度の用途であれば、1型センサーのRX100M3でも十分なくらいに綺麗な写真が撮れる。
ボケ量や暗所(高感度)でのノイズの少なさを求めるなら断然フルサイズだが、日中の風景+自転車の写真でそんなボケ量や高感度は不要…というか、ボケにくさを活かして、開放に近い絞りでも深い被写界深度を得やすい(全面にピントが合った写真を撮りやすい)のは、むしろ小さいセンサーの強みとも言える。

写真展に出すような作品を撮る訳でもなく、ポスターサイズに引き伸ばして印刷して飾る訳でもないので高画素もいらない。ちょっといい画質で思い出を残し、SNSでシェアして、たまにPC画面で鑑賞してニヤニヤできればそれで良い。
そんな私にはマイクロフォーサーズで十分。

参考までに、キヤノン(フルサイズ)とオリンパス(マイクロフォーサーズ)でF2.8通しの標準ズームレンズの重量と価格を比較してみるとこうなる。

▲ RF24-70mm F2.8 L IS USM(フルサイズ)
重量900g 約30万円

▲M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(マイクロフォーサーズ)
重量382g 約9万円

なんと重量は2倍強、価格は3倍強の差。
こう比べてしまうと、少なくとも私はフルサイズ機を肩からぶら下げてロードバイクで走る気にはならない。だって壊したら絶対立ち直れないし、重すぎるし……

E-M5 MarkIIIとキットレンズの12-45mm F4.0 PROとの組み合わせなら、ボディとレンズを合わせても620gと軽量でコンパクト。
35mm換算24-90mmという焦点距離で、RX100M3と比べて望遠端が20mm長い。シャープな写りとカッチリした作りに定評のあるPROレンズだ。

マイクロフォーサーズは、オリンパスとパナソニックの両社をはじめとして多くのメーカーから良いレンズが多数発売されているのも魅力。どれも他のフォーマットのレンズと比べれば手ごろな価格で、あれこれとレンズを買い集めて楽しむこともたやすい。

そして、何より防塵防滴性能!
他メーカーでは「防塵防滴に配慮した設計」などとあいまいな謳い文句を用いるところもある中、オリンパスはこう。

OMデジタルソリューションズ公式サイトより
© OM Digital Solutions Corporation

公式が「どうぞアウトドアで使ってください!」と言わんばかり!
なんなら、泥まみれのカメラをジャブジャブと水洗いする動画がYoutubeに溢れている程、オリンパスの防塵防滴性能には定評がある。
なお、耐低温性能はマイナス10度。
この価格でここまで堅牢なミラーレス一眼は他に類を見ない。

そしてこの見た目。

オリンパスの単焦点レンズ 17mm F1.8を装着した図

うん、かわいい。見た目は性能。
フィルムカメラを思わせるレトロでこぢんまりした外観に、ギュッと詰まった高性能。ロマンだ……!
MarkIIIは先代MarkIIのマグネシウム合金製ボディからカーボンコンポジット製ボディになり、「プラスチッキーで安っぽい」という声もあるが、先代より約50g軽量化されており、軽量化に勤しむサイクリストとしてはかえってありがたい。
まさに自分の求めている要素が全て詰まった1台だった。

サイクリングで使用してみて

購入翌日、さっそく100km程のサイクリングに持ち出してみた。
以下6枚はすべてキットレンズの12-45mm F4.0 PRO、JPEG撮って出しで撮影したままの無加工。

多摩川原橋にて
上に同じ
相模原 パンパティこむぎのおはなし
パンパティのカレーパンとクリスピーきのこピザ
ライド中のカロリー補給
パンくずを拾いにきたスズメ
その辺の紅葉

うん、写りにはまったく文句なし。
カメラ初心者の素人なので、あれやこれやと語るつもりは毛頭ない。
なんとなくスマホやコンデジよりクオリティの高い写真が撮れている気がして気分が良いので、それでいい。
カメラも自転車も、気分を高めて趣味の時間をより楽しいものにしてくれるかどうかも機材の性能のうちだと考えている。

お気に入りのカメラでお気に入りのバイクを撮る。
至福。

たすき掛けで運搬してみて身体の負担はどうかといえば、全く問題はなかった。
肩甲骨の少し下あたりにカメラの底面を身体に沿わせる形でたすき掛けにすれば、ヒルクライムで少し本気で踏もうが、下ハンドルを握って軽くスプリントしようが、位置がズレてしまって邪魔になるようなことはなかった。

ストラップはPeak DesignのSlide Liteを愛用。
着脱も長さ調整もワンタッチでとても楽。

このかけ方ならば、カメラの重量はストラップ全体とカメラの底面でまんべんなく分散されるため、どこかに痛みや不快感が出ることもない。
ひとつ怖い点としては、万が一の落車の際にはカメラを破損するのみならず「カメラで怪我をする」リスクがあるということ。
普段から安全第一で、事故のリスクを少しでも減らす運転を心掛けてはいるが、カメラを携行する際はより一層の注意を払うようになった。

ストラップ、レンズフード込みの重量は約750g程度。この程度の重量なら200kmくらいは余裕だろうな、という感触。

走ることだけに集中したいライドでは当然持って行かないが、それ以外のライドであれば積極的に持ち出したいと思える塩梅。
この辺りの許容範囲は、余計なものを一切持って行きたくない人から、フルサイズのレフ機に巨大なレンズをぶら下げて超ロングライドをこなす人までそれぞれなので一概には言えないが、私にとってはこのあたりがロードバイクの軽快感を損なわず持ち運べる上限だと感じた。

速写性についても、RX100M3との比較では相当に速くなった。
カメラを背中から持ってきながら電源を入れ、ズームリングをサッと回して構えたときにはもう望遠端で撮影ができる状態になっている。この間1.5秒くらい。速い!
信号の変わり目でシャッターチャンスを諦めてしまうことは格段に少なくなった。

雨天ライドでも使ってみた

せっかく防塵防滴なので、雨のライドにも持ち出してみた。
雨天ライド前にはコネクタ部やSDカード、バッテリーの蓋等の開口部、レンズマウントをブロワーやクリーニングティッシュでしっかりと清掃し、浸水のリスクを最小限にするよう心がけている。真似する場合は自己責任で。

この日の時間雨量は3~4mm程と、割と強めのザーザー降り。
ヴェロトーゼのシューズカバーはわずか10分ほどでクリート部から浸水するほどの雨だったが、むき出しで雨ざらしのカメラは、ズームをグリグリと伸び縮みさせようが、雨に濡れながらボタンを操作しようが、3時間半ほどのライドの間、全く問題なく通常通り動作していた。

ずぶ濡れでも問題なし

終始レンズキャップは外したままだが、レンズフードがある程度雨除けになるのか、撥水防汚コートのレンズプロテクター(ハクバXC-PRO)のおかげか、レンズの前玉に水滴がついて困るようなこともなかった。

雨の写真は雨天でしか撮ることができない。そんなシャッターチャンスをカメラの心配をせず活かせるのは、オリンパスの強力な防塵防滴が活きるところと実感した。

旅行や散歩で使ってみた

自転車だけではもったいないと、普段の散歩や友人との旅行などのスナップ撮影でも使用してみた。

手持ち長秒チャレンジ、シャッタースピード6秒。
オリンパス機は手ブレ補正も超強力
テレ端で最短撮影距離まで寄ってみた
12-45mm F4.0 PROはかなり寄れるレンズ
友人たちとの旅行で
撮る友人を後ろから撮る
漆塗り体験
F4通しズームは室内だと少し辛いかも
たまたま立ち寄ったコーヒースタンド
F5.6まで絞れば全域カリカリに解像
目に留まった何気ないものをテキトーに撮るのが楽しい
横浜関帝廟を広角でアオってみた
大豆料理専門店でテーブルフォト
やはり屋内でF4通しはちょっと辛い…
スワンボートの頭にカモメ
身を乗り出して片手持ちで撮影
これが
こうなる

写真のヘタさはともかくとして……強く感じたのは、「機動力は性能だ」ということ。
小型軽量で持ち運びの負担が少ないのはもちろん、大きなカメラにありがちな威圧感や「ガチ感」が薄いので、雑踏や店内でもコンデジとさほど変わらない感覚で気軽に遠慮なくシャッターを切れる。人にカメラを向けた時に身構えられてしまう感覚も少ない。

出先で収納するときも、カメラバッグなんて大層なモノは使わない。
小さいサイズを活かして、布に包んで普段使いのショルダーバッグに放り込んでいる。
「イージーラッパー」という表面と裏面がくっつく風呂敷を使用しており、マジックテープやゴムバンドなどの固定具が一切なく、布1枚でくっつくので嵩張らずとても便利。

イージーラッパーで包んだ図。
カメラ+標準ズーム+単焦点レンズ2本でも小さいショルダーバッグに余裕で入る。

これなら、旅行ではただでさえ重い荷物をさらに重くしすぎる事もなく、ちょっとした外出でも気軽に持ち出す気持ちになれる。

せっかくの上等なカメラでも、サイズや重さが負担になって家から持ち出さなくなっては全く意味がない。
そうした意味で、マイクロフォーサーズという選択は自分にとって大きさと画質のバランスの最適解だったと思う。

カメラを持って気付いたサイクリングの「変化」

ここ最近、気軽に持ち出せる機動力の高いカメラを手に入れて、自分のサイクリングの楽しみ方が変化してきたと感じる。

以前の私は、意識はパワーメーターの数字に囚われ、FTPの向上に頭を悩ませ、CTLやTSBの数値で走るコースを決め、峠のタイムに一喜一憂して……そんな時は大抵、自然の中を走る爽快さや、四季の変化を意識して感じることは少なかった。
もちろん、ハードなトレーニングで自分を追い込み、高みを目指すことを否定するつもりは毛頭ない。それも自転車の楽しみ方のひとつだ。
ただ、時としてこんな風に思うことがあったのもまた事実。

数字や距離を追い求めて自分を追い込めば追い込むほど、初めてロードバイクに乗ったときに感じた楽しさの原体験からはかけ離れたものになっていく感覚があった。

毎年必死こいて走っている箱根ヒルクライム。
景色を見る余裕なんてほぼない…

そしてこの秋、無理がたたって膝を壊して、しばらくは高強度・長距離のライドは控えなければならなくなってしまい、必然的に「ゆるく楽しむ」必要性が出てきた。

カメラを携えてのフォトポタリングは、そんな私を自転車の楽しさの原体験に引き戻してくれる良い機会になったと感じる。

常に被写体を探すアンテナを立てながら自転車に乗るので、いつもの練習コースでも、小さな季節の移ろいや、今まで気づかなかった「映える」ポイントに敏感になり、常に新鮮な気持ちで走ることができる。
写真のために足を止めて夜明けを待ち、良い景色や珍しい被写体を見つけたらヒルクライムの途中でも脚を止め、なんなら少し後戻りしてでも撮影に興じる。
平均スピードは遅くなるけど、誰と競うわけでもないし、それでいいじゃない。

その辺の落ち葉にも四季を感じられる
紅葉と明暗のコントラストが良くてついパシャリ
日の出を狙って多摩川原橋へ

「スマホカメラで良くない??」という意見も、もちろん一理ある。
近頃のスマートフォンのカメラは、なんの設定もせずともただ構えて画面をタップすれば「そこそこいい感じ」の写真が撮れる。
その性能は安価なコンデジを駆逐するに留まらず、中級カメラの市場すら脅かしつつあるほどだ。
しかし、カメラという精緻な工業製品を操る悦びを感じながら、構図や絞りに露出、シャッタースピード、ISO感度……様々な要素を考え、ファインダーを覗いて注意深くピントを合わせてシャッターを切る、そんなもはや前時代的ともいえる行為にこそ奥深さがあるように思う。そうしてお気に入りの一枚が撮れたときの嬉しさはひとしお。
道具にこだわり、手間をかけてより深い体験を求めることこそ、趣味の醍醐味ではないだろうか。

冬が明け、膝が良くなってフォトポタリングに飽きたら、またカメラは家に置いたまま峠で自分を追い込み、限界までローラーを回してFTP向上に頭を悩ませ、ブルベでPCのクローズ時間に追われながら数百キロの距離を昼夜問わずひた走る日々が来るかもしれない。だが私はそれでいいと考えている。
自転車趣味は誰に強制されるものでもなく、楽しみ方は多種多様だ。

カメラは、私に自転車の楽しみを再び思い出させ、自転車趣味に新たな奥深さを加えてくれる存在となった。

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