ある小説家の秘書日記(2)
某月某日
バレンタインのお礼ということで、先生、秘書を食事に連れて行ってくれる。
秘書、バクバク食べる。
アグー豚が美味しかった。
「将来、どうせ豚になるならアグー豚になりたいです」と言ったら、先生、吹き出した。
メイン料理のあとコックさんがテーブルにやってきた。料理の説明……ではなくトランペット演奏。
周囲の方々の手拍子が加わり、なんとも温かい雰囲気に。
秘書踊りたくなるが、先生が倒れたら困るので我慢する。
秘書、来年のチョコレートはもう少しがんばる。
某月某日
担当編集者Aさんから連絡。
某文学学校のゲスト講師依頼。生徒さんの書いた小説を数作読んで、担当さんと一緒に評するというもの。スケジュールが無理なら断ってくださってかまいませんとのこと。
「どうだろ? いけるか?」と先生から相談される。
う~ん、正直、連載の〆切が重なってるんだけどな……と思うものの、先生、ちょっと興味ありそう。実は秘書はとても興味がある。
無理やりスケジュールに組み込む。
秘書、わくわくしている。
某月某日
スケジュールがめちゃくちゃ。絶対無理。
先生のクローンが必要と判断し、秘書、急いでスケジュール立て直す。
連載の一つを書き下ろしに変えてもらい、次の新連載に全集中!という作戦。
いつもなら秘書のこんな作戦に「僕は書く!」と負けず嫌いなところをみせるさすがの先生も「そうします」と素直に了承。
そして書き下ろしを了承してくださったBさん、すみません。ありがとうございます。ありがとうございます。
しかし、書き下ろし。
先生は、ここ何年も連載に追われて書き下ろしには手をつけていない(爆)
本屋で文芸誌をみるたびに「売れるのかな?」と余計な心配をしてしまう秘書だが、出版社が文芸誌を出すのは、もしかしてなかなか書かない作家から原稿を集めるためなんじゃないかと思ってしまう。
でも秘書、何としても先生に書かすと誓う。
前回と同様「どこが秘書やねん」みたいな日記です。
ヨーグルが某小説学校のゲスト講師として登壇することになりました。
ヨーグルは小説を独学で学んだ人です。小説の学校に通ったこともないし、誰かに師事されたこともない。だから彼も興味があるのでしょう。
私はヨーグルに小説の指導を受けてきました。
正直、それまで文章を書くのはとても苦手だったし、小説はもちろん日記すら書いたことはありませんでした。
そんな私が小説家になりたいと思ったのは、小説家としての彼がかっこよかったからです。
「プロ」というのは、これほどまでにかっこいいものなのかと感動しました。
何者にもなれず、また別に何者にもならなくていいと思っていた私が初めて「何かのプロになりたい」と決意させてくれたのが彼でした。
今、私はnoteで自分の日常を綴り、ありがたいことに何人かの方々にお褒めの言葉もいただき、短編小説を書いて小さな地方文学賞もいただきました。
ここまでこれたのは、やはりヨーグルの指導によるところが大きいと思っています。
彼が小説の指導をするのは、私以外の人間では初めてのこと。
どうなるかはわかりませんが、彼の生徒だった私が思うに彼に指導してもらえれば、非常に伸ばしてもらえるのではないかと思っています。
だから、彼の生徒さんになった小説家志望の方々のお名前を私は記憶しておこうと思います。
将来、彼らの本を書店で見かけることになる気がするからです。
楽しみです。
そして、正直な私の気持ちを。
今まで彼は私の先生として、とてもよくしてくれました。
丁寧な指導に加えて、彼から「小説ってなんて面白いんだ」という喜びや興味をたくさんもらいました。
たくさんの小説家や編集者の方々に会わせてもらい、縁遠かった出版の世界を見せてくれた。
〆切に追われて忙しい最中、私の小説を丁寧に読み込み「何もできない」とコンプレックスの塊だった私に「私も書ける。私もできる」という自信をくれた。
彼にもらったものは書ききれません。どれほど私の人生を豊かにしてくれたことか。
感謝してもしきれない。
でも、ちょっと寂しいです。
遠くに行ってしまった…… ん?ちょっと違うな。なんかとられちゃったような感じ?(笑)我ながら幼稚だわ。
彼には絶対に言えません。だからここで書いておきます。
今までどうもありがとう。
あなたの最初の生徒であったこと、私は誇りです。