ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2020-2022: Vol. 0「デスクトップを飛び出した蒸気波のその後」
『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス 2009-2019』(佐藤秀彦=著、New Masterpiece=編)の4刷重版出来を記念し、短期集中連載が開始! “蒸気波”のその後を追っていきます。お楽しみください。
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第0回 デスクトップを飛び出した蒸気波のその後
◎文 hitachtronics+ΔKTR
おかげさまでこのたび『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス 2009-2019』が4刷出来となりました。ご愛読いただき、誠にありがとうございます。
刊行から2年半経っても謎が多く、なんとなく理解できたようで、いまだぼんやりとしているこのVaporwaveというジャンルですが、このnoteではこれから数回にわたり、本書刊行後のシーンについて書いていく予定です。
第0回となる今回は、海外(主にアメリカ)のシーンがまだまだ熱気に溢れていることの証左として、今月行われるVaporwave最大のフェスについてお送りします。
アメリカのVaporwave最大手レーベル〈100% Electronica〉による『ElectroniCON』は2019年8月31日にブルックリン、10月19日にロサンゼルス、と非常に短いスパンで2度開催され、初の本格的Vaporwaveフェスとして大いに好評を博した。
そのラインナップには、主宰のGeorge Clantonをはじめとした〈100%〜〉所属のアーティストはもちろん、Vaporwave創世記のアーティストのひとり・INTERNET CLUBやオランダを拠点に活動する猫 シ Corp.など、現時点でのVaporwaveの主要人物が多く名を連ねたなか、山下達郎が海外で評価されるきっかけのひとつになったSaint Pepsiの本名義での出演は、当時Skylar Spenceとしてポップアーティストに転向していただけに、この日本でも衝撃をもって受け止められた。
このうちLAでの2回目には、自身のアルバムのリリースツアーで偶然現地にいたΔKTRが会場に赴いたが、詳しいレポートは雑誌『ユリイカ』のVaporwave特集(2019年12月号)にも書かれているので、『新蒸気波〜』の副読本として是非ご一読をお勧めしたい。
同フェスの模様は動画で上がっているが、8時間以上と長尺のため、ここでは代表してSaint Pepsi、ESPRIT(George Clanton)、t e l e p a t hのライブの様子を観ていただこう。
『ElectroniCON 2』の開催から2か月後、このフェスにも出演していた3組のアーティスト・Equip、R23X、death’s dynamic shroudからなるVaporwaveコレクティブ『NEO GAIA PHANTASY』の2度目の来日ツアーが敢行され、我々〈New Masterpiece〉はそのうちの東京公演を〈Local Visions〉とともにサポートした。彼らに同行し初来日したVAPERRORと当時韓国在住だったmallsoftアーティスト・식료품groceriesも迎えた会場のCIRCUSは、現地ほどではないにせよ、“新しい何かがはじまっている”熱気に包まれていた。ddsのジェームスに至っては歓喜のあまり、ツアー最終日に「来年以降、日本に移住するよ!!!」と口走るまでだった。
▲NEO GAIA PHANTASYの面々による来日ドキュメント・ムービー
Vaporwaveはあくまでインターネット発のジャンルであり、作品が発表されたらそれで終わり。ライブイベントなどの現場を作ることは試みられなかったが、ジャンル発生から10年でそれが一気に花開いたというわけだ。ここから、またシーンが大きく変化していくように見られていた……この2019年末までは。
2020年に発生したコロナ禍はVaporwaveにも影響を及ぼした。デスクトップから飛び立とうとしていたVaporwaveは、また画面の中に縛り付けられるハメになった。
現場が失われてしまった他の音楽ジャンルと同じく、Vaporwaveもライブ配信が数多く行われた。大きなトピックとしては、初期Vaporwaveの伝説的配信プログラム『SPF420』が意外な復活を遂げたが、1度きりで終わっている。21年以降もライブ配信は常態化し行われていたようだが、完全にインディ体制なVaporwaveの特性と時差のせいか、日本からはよほどこまめにチェックしていないとわからないことが多かった。
コロナ禍から早2年半が経ち、このまま籠の中の小鳥のような状態が続くかに見えたVaporwave……。しかしあのフェスでの熱気が忘れられず、ライブを渇望するリスナーも決して少なくなかったようだ。『ElectroniCON』の3回目が、ついに長い沈黙を破ってNY・クイーンズで開催される。
前2回にも出演していた〈100%~〉ゆかりの面々が名を並べているなか、今回注目すべきはWashed OutとNeon Indianだろう。Vaporwaveの原型のひとつとされているChillwaveの代表格2組が、アフターアワーズのDJとして出演する。その他、初期Vaporwaveシーンの最重要レーベルであった〈fortune500〉の主宰・Luxury Elite、SynthwaveアーティストのHotel Pools、〈Business Casual〉主宰で自らも強烈なPrunderphonicを発表するChristtt、〈Orange Milk〉を主宰するだけでなく、多くのレーベルのジャケデザインも手がけるGiant Clawといった初出演者も気になるところだ。気になるといえば、“Special healing music ceremonies with”と題されているt e l e p a t h テレパシー能力者の、“天火見”という見知らぬ名義の真意とは……?
全3回のラインナップを見ると、Vaporwave派生ジャンルで最も勢いがあるFuture Funkのアーティストは、有名どころではオリジネイターのSaint Pepsiのみであることに気がつくだろう。しかしFuture Funkに関しては、9〜10月にかけて開催されるYung Bae主催のツアーにて、Saint Pepsiはもちろんのこと、Macross82-99やNight Tempoなど、このジャンルのオールスターが総出演する予定だ(日本人アーティスト・ミカヅキBIGWAVEもラインナップに含まれている)。それに加えて、Grorge Clantonや前述のWashed OutとNeon Indianの3組も合流する。この2大イベントは副ジャンルで住み分けをし、一見別々の方向を向いているようにも見えるが、実際にはこのように互いに連携しあっていて興味深い。
とはいえ、日本からライブ配信で観られる可能性は残念ながら低いだろう。(これまでもそうだったように)後日ライブの模様がアップされるにちがいないから、我々はそれを待つしかない……。そう思いながらここまで本稿を書いてきたのだが、なんと一部アーティストの配信が決定したようだ。
それにしても、日本で無事に彼らを観られるのはいつの日になるのだろうか……。
(次回に続く)
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《書誌情報》
『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』
佐藤秀彦・著 New Masterpiece・編
A5・並製・オールカラー192ページ
本体2,500円+税
〈目次〉
・はじめに
・Vaporwave Girls Illustration(イラスト:ぼーぶら(ピンクネオン東京)、西尾雄太)
・作品レビュー
part 1 2009-2013 - New Deluxe Life
part 2 2013-2014 - Hit Vibes
part 3 2014-2015 - Birth of a New Day
part 4 2015-2017 - Vaporwave is Dead?
part 5 2017-2019 - Vaporwave Now
part 0 1980-2009 - Proto-Vaporwave
・蒸気波のルーツを求めて~Pre-Vaporwave対談
・インタビュー
骨架的
Robin Burnett (INTERNET CLUB)
Neon City Records
豊平区民
Seikomart
Equip
・めくるめく蒸気波ジャケミュージアム
・Vaporwave Dictionary 蒸気波大辞典(文:ばるぼら)
・蒸気波フィジカルリリースの世界(文:捨てアカウント)
・インターネットのPlastic Love(文:動物豆知識bot)
・クラウド・ラップ/ローファイ・ヒップホップについて(文:小鉄)
・蒸気波分布図(文:赤帯)
・Vaporwaveからゲームへ(文:さやわか)
・Vaporwaveはアニメを必要とするか?(文:動物豆知識bot)
・ミームと大義なき聖戦(文:銭清弘)
・Vaporwave年表(文:ばるぼら)
・Vaporwaveの未来~Pre-Vaporwave対談
〈レビュー・特集執筆陣〉
ばるぼら / さやわか / 捨てアカウント(Local Visions)/ sen kiyohiro / 小鉄昇一郎 / ブギー・アイドル / imdkm / 糸田屯 / 動物豆知識bot / ESC TRAX(ebi1000 / suesett / Ca5)/ 庄野祐輔(MASSAGE MAGAZINE)/ 赤帯 / フミ / ΔKTR / hitachtronics(New Masterpiece)
編集:New Masterpiece
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