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2拠点生活のススメ|第190回|自分へのご褒美

19才のとき、はじめて家を出た。

高校を卒業して1年間予備校に通って、自分ではそれなりに勉強したつもりだったのだが、志望校には受からず、実家に居るのが嫌になって、友人が下宿代わりに住み込みで働いていた、京都の老人ホームに逃げるように転がり込んだ。

コンクリート造りの立派な老人ホームの裏にある、倉庫と一体となった古いプレハブが私たちの住まい。車の免許を取って嬉しくてしかたないという友人に度々襲撃され、私たちの住まいは友人たちのたまり場のようになっていた。

そんな環境の中、勉強に勤しむ気分にもなれず、悶々とした気持ちを抱えたまま、あてもなく京都の繁華街をよくうろついた。そんなとき必ず立ち寄ったのが、河原町の大きな交差点を見下ろせる、ドイツ菓子のユーハイム。

窓から見下ろすと、そこには楽しそうに歩くたくさんの観光客や外人さんの姿。そんな風景をボーっと眺めながら、自分はこの先どうなっていくんだろうなんて、人ごとのように考えていたことを今でも思い出す。

この店に来ると必ず頼むのが、フロッケンザーネトルテというケーキ。よく考えるとこのケーキが食べたくて、街をうろついていたのかも知れない。

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雪が積もったように見えることから、ドイツ語で、flocken 雪のかけら、sahne クリーム、torte ケーキ。甘すぎず少し酸味のあるクリームがとにかく美味しくて、表面はクッキー生地でザクザク、中のシュー生地はしっとり、側面のアーモンドスライスがまたアクセントになって、私の中では、世界中でこのケーキに勝るケーキはないと今でも思っている。

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このケーキのおかげかどうかは分からないけど、その後、気を取り直して受験勉強に励み、無事志望校にも合格。このフロッケンザーネトルテは、そんな青春時代の思い出の味でもある。

あれから、40年。

このフロッケンザーネトルテは、嬉しいことに今もほぼ形を変えずに販売されている。頑張ったとき、嬉しいとき、自分へのご褒美として、もう何回食べただろう。

今日も朝から、父の退院やら、忘れ物やらで病院と施設を2往復。頼まれた買い物を届けたり、なんだかんだであっという間に日が暮れてヘロヘロ。

そうだ、こんなときは、ユーハイムに寄ろう。

何だか、以前より一回り小さくなっているような気もしたけど、フロッケンザーネトルテの優しい甘さは、やっぱりご褒美感が溢れていた。

このケーキだけは、いつまでも作り続いて欲しいな。

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