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2拠点生活のススメ|第266回|ビルエバンスが好きだ

深く傾倒するようになったキッカケは、若かりし日のインド旅だった。

当時はipodなどまだ地球上に存在しておらず、主流はWalkmanだった。旅に出る前にレコード店でアルバイトをしていたので、R&B、Westcoast、J-Pop、Jazzなど、一人旅用に選曲したオムニバスカセットを何本か用意した。

当時良く聞いていたのは、ブラックミュージックやレゲエ、そしてイーグルスやジェームステイラー、ジャクソンブラウンといったWestcoastなど。普段はほとんど聞かなかったJAZZのカセットをどうして用意したのか覚えていないが、きっと一人旅だし、ちょっと背伸びして気取ってみたかったんだろうな。

旅の序盤は、やはりジャクソンブラウンなど好きな曲を良く聞いた。車窓を見ながらのJ-Popなんていうのもオツだった気がする。

ところがインド旅も1ヶ月を過ぎ、ベナレスという街にすっかり居着いた頃から、音楽をあまり持ち歩かなくなってしまった。

きっとそれは音楽を聴きながらだと、暮らしのリアリティが欠如していくような違和感を感じてのことだったように思う。人々の罵声、荷車の軋む音、クラクションの洪水などなど、街の音をちゃんと聞いていないと自分の存在まで失われてしまうような気がしたんだと思う。

音楽が恋しくなるのは、きまって夜。安宿の屋上で星空や月を眺めながらJAZZのテープ、しかもビルエバンスの曲ばかりを繰り返し聴くようになった。なぜだか歌は邪魔だった。エバンスを聴きながら、いろんなことに思いを巡らせた。

何故生まれてきたんだろう・・・生きるって何だろうか・・・

今思うと、なかなかに怪しい世界に入り込んでいたような気もするが、そんな時に一番響いたのがビルエバンス最晩年のアルバム 『 I Will Say Goodbye 』の収録曲

あとから知ったのだが、この頃のエヴァンスの評価、人気は現在では信じられない位落ち込んで、カクテル・ピアニストと揶揄されていたとか。そう思うとタイトル『 I Will Say Goodbye 』はとっても意味深だ。

一般的には評価の高くないアルバムなのだが、個人的にはビルエバンスの中で一番好きなアルバム、何とも云えない陰影を含み、ロマンテックであり、複雑な心情ものぞかせる・・・・。

今聞いても目頭が熱くなってくる。

曲を聴くことで、旅していたときの感覚とリンクするからだろうか。

JAZZというジャンルを越えて、ビルエバンスは今でも特別な存在だな。

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