禁煙中に煙草を吸った話

今人生何度目かの禁煙をしている。本当に、何度目になるか分からない。

元々そんなにたくさん吸う方ではなかったのだけれど、やめるつもりもなく、ただ毎日2、3本をだらだらと吸っていた。
煙草を吸い始めて10年くらいになるけれど、この10年で値段は上がり、煙草を吸える場所も減った。カードが無いと自動販売機でも買えなくなった。持つ気がないのであのカードの名前が今本当に思い出せないけれど、とにかく喫煙者に厳しい時代になったと思う。

学生時代は周りがみんな吸っていたので誰に何を言われることもなかったけれど、年を取るごとに禁煙しろと言われることが増えた。こちらのことを考えてくれているのだろうけれど、煙草を吸っていることは非常に嫌がられ、文字通り煙たがられた。

けれど、煙草って、悪いことばっかりじゃないのだ。普段話さないような人と、喫煙所じゃなければ話さないような話をしたり、ライターを忘れたのをきっかけにすてきな出会いがあったり。きっと喫煙者の皆さんはそれをみんな知っているんだと思う。煙草を吸うから、救われる日もある。

その人も、煙草を吸う人だった。
同じ会社の違う部署で働いていて、私の直属の上司と仲が良かった。
細身で背が高く、スーツの似合うイケメンで、たまに喫煙所で会う程度のあまり深い関わりのない私にもとても良くしてくれた。なにせ男前だったので、絶対ちやほやされて生きてきたはずだし人生で苦労なんて全然してないんだろうなぁと、私はその人について思っていた。

その人が亡くなってしまったと聞いたのはつい最近だった。
それはとても突然だった。とても突然で、とても悲しい話だった。そこまで深い関わりのない私ですら悲しくて、聞いてしばらくはあまり眠ることができなかった。
けれど、その時感じる悲しみも、時間が経てばだんだん薄れていくものなのだということは経験上分かっているし、そうでなくてはいけないのだけれど、自分の身内でもないその人のことは、きっと何年もすればほとんど思い出しもしなくなるのだろうと思った。学生時代の同級生がいなくなってしまった話をいくつか聞いたけれど、そこから何年も経つと、その話自体が本当に起こったことなのかどうか分からなくなるように。そうやって、人は生きていくのだけれど。

だから、私は一箱だけ煙草を吸うことにした。その一箱を吸う時は、必ず彼のことを考えようと。もう私にできることなんて何もないけれど、いつか忘れてしまったとしても、今この瞬間は彼のことを悼もうと思った。

久しぶりに吸う煙草は、吸うたびに頭がくらくらした。人にはなんでも良いから逃げ場が必要で、この禁煙がどこまで続くかはわからないけれど、ニコチンに逃げられなくなった私は、これから何か別の逃げ場を探さなくてはいけない。

#禁煙 #日記 #追悼

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